経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

日の丸自動車と GAFAの無人運転競争がいよいよ本番へ

オリンピックは先端技術の見本市でもある。そのひとつが、選手村でトヨタ自動車が走らせた自動運転車。自動運転車の開発は世界中で行われているが、いよいよ現実味を増してきた。エンジンで駆動し人がハンドルを握る時代には覇権を握った日の丸自動車は、新時代をリードできるのか。文= 立町次男(『経済界』2021年10月号より加筆・転載)

自動運転関連市場を目指す日本メーカーとIT大手

 「自動運転」の時代がいよいよ到来しそうだ。ホンダは、一定の条件下でドライバーではなく車載システムが運転する「レベル3」の自動運転車を世界で初めて市販化。トヨタ自動車は東京五輪の選手村で自動運転電気自動車「イーパレット」を巡回させた。

 もっとも、安全性の確保が前提になる中、革新的なビジネスモデルを可能にする「公道での無人運転」を実現するにはまだ、時間がかかるとみられ、開発競争の本番はこれからだ。巨額の研究開発費を捻出できる米IT大手も参入の構えを見せる中、企業同士の連携など新市場獲得を目指す動きが加速しそうだ。

無人運転をめぐる日本勢の動き

自動運転技術のレベル3を実現したホンダ「レジェンド」

 ホンダは3月、上流グレードに自動運転機能を搭載した高級セダンの新型「レジェンド」を発売した。高速道路での渋滞時にシステムが操作する。レベル3の自動運転技術を世界で初めて実用化したことで、改めてホンダの存在感を高めたと言える。

 ハンズオフ(手放し)機能により、走行中に渋滞に遭遇した際に、ドライバーからシステムが運転を引き継ぐ。安全性確保のため、新型レジェンドでは、光を照射し、その反射光をセンサーでとらえて距離を測定するLiDAR(ライダー)やミリ波レーダー、カメラなどで車両周辺を監視。いずれかが故障などで機能を果たさなくなっても、カバーできるようにしている。

 100台の限定生産とし、リース専用車種として販売。価格は標準のレジェンドより約375万円高い。価格や生産台数から、この車で利益を出すことよりも、自動運転車両を慎重に普及させ、技術を磨いていこうとするホンダの思惑がうかがえる。

 自動運転のレベル分けは1~5まであり、5は完全自動運転を示す。これまでも高速道路で一定条件下で手放し運転ができる車種もあったが、それらはレベル2で、あくまでドライバーの運転を支援する技術と位置付けられるものだ。2は手放しが可能な状態でも、スマートフォンを見たり車載テレビを見たりすることは認められておらず、法令違反となる。だが、3では一定の条件下で「よそ見」することが可能だ。

 一方でホンダは、米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)の子会社、GMクルーズホールディングスと年内に自動運転の「技術実証」の開始を目指すと発表している。

 これは、個人所有車への自動運転技術搭載を進める一方、車を使った「サービス」分野での自動運転活用が重要だと認識しているからだとみられる。その活用を視野に当時の八郷隆弘社長は、「日本における自動運転モビリティサービス事業の実現に向けて、加速していきます」とコメントしていた。

トヨタ自動車はウーバーテクノロジーズに出資

 サービスの重要性は、トヨタも強く認識している。豊田章男社長は、「われわれが目指す『モビリティカンパニー』とは、世界中の人々の移動にかかわるあらゆるサービスを提供する会社です」と述べている。

 トヨタは米ライドシェア大手のウーバーテクノロジーズに出資。ウーバーが自動運転技術の開発子会社を米新興企業オーロラ・イノベーションに売却すると今度はトヨタはオーロラとの協業で合意した。また、トヨタ子会社でソフト開発などを手掛けるウーブン・プラネット・ホールディングスも、米ライドシェア大手リフトの自動運転部門を買収した。

 もしも自動運転により車の無人化が実現し、移動したいという顧客の需要を低コストで満たすことができるようになれば、巨大な市場が生まれる。企業としてはここに関与することで、長期的な収益拡大を見込むことができる。

無人運転をめぐるGAFAの動き

グーグルとアップルは汎用性の高いシステム開発へ

 この分野では有力なプラットフォーム(基盤)を構築した企業グループが優位に立つ可能性が高いが、そこで見逃せないのが、デジタル分野で世界に君臨するグーグルやアップルなどの米大手IT企業だ。

 両社はそれぞれ、スマートフォンに搭載されている基本ソフトを応用した車載システムを手掛けている。グーグルの親会社アルファベット傘下のウェイモは、業界では既に名の知られた自動運転技術開発会社で、日産自動車・ルノーと提携している。ホンダと組むGMクルーズとともに、自動運転開発の〝本場〟である米カリフォルニア州で多くの公道実験を繰り返している。

 iPhoneを台湾のフォックスコン・テクノロジー・グループ(鴻海科技集団)などに生産委託しているアップルは自動運転車を開発中だが、「自ら工場を構えて自動運転車を大量生産するとは思えない」(自動車業界関係者)という指摘がある。今年5月、鴻海が世界4位の自動車メーカーで、プジョーやフィアットなどのブランドを擁する「ステランティス」と車載用ソフト分野で提携したことも、アップルの自動運転車戦略の一つではないかという憶測が絶えない。

 グーグルとアップルは、車に搭載可能な汎用性の高い自動運転システムを開発し、ライセンス料で収益化する狙いがあるのかもしれない。

 デジタル分野では、多くの企業が両社を頂点とした生態系(エコシステム)に取り込まれ、一定の利益を享受する一方で、下請けのような立場に甘んじなければならなくなった。グーグルやアップルが自動運転車に本腰を入れれば、自動車業界でスマホと同じようなことが起きないとは言い切れない。

成功のカギを握る提携戦略

 トヨタの豊田社長は決算会見でことあるごとに、米IT大手の研究開発費の潤沢さに危機感を示してきた。年間約1兆円のトヨタに対し、米IT大手はその2~3倍。技術の優位性を確保するのは並大抵ではない。

 トヨタはこれまでも、他の国内自動車メーカーを中心に「仲間づくり」を進めてきた。それは各社の持つ強みを融合し、自動運転などの次世代技術で勝ち残るためだ。

 提携やM&Aの多くは失敗に終わるとされる。各社の思惑を統一し、同じ目標に向けて効果的に役割を分担することは容易でないからだ。

 それでも、日本勢を含む既存の自動車メーカーが〝自動運転時代〟にも存在感を維持していくには、さまざまな企業との提携戦略が重要になる。経営陣には、これまで以上に大胆かつ緻密な戦略が求められるだろう。