【連載】勝てる! 最強営業組織のつくり方
TORiXの高橋浩一です。第2回の今回は、前回の記事(「営業組織づくりでは、まず『四つ角』を押さえよ」)でお伝えした営業組織づくりの初期の重要ポイントの一つ、営業の「勝ちパターン」のつくり方についてご説明します。商談では大きく分けて、楽勝、惨敗、接戦というパターンがあります。特に大事なのが接戦をものにすることです。接戦状況を見極め、接戦を制し、皆さんの営業組織の勝ちパターンをつくっていきましょう。(構成=大澤義幸)
高橋浩一氏のプロフィール
まずは商談の「接戦」状況を見極めよう
勝ちパターンのつくり方を考える前に、勝ちパターンが必要とされる商談の状況について考えてみましょう。大きく分けて、①商談相手が古くからの自社の製品やサービスのファン、新たに発注したい競合もいないなどの「楽勝」、②既存取引先がある、新規の競合への発注が決まっているなどして自社のエースが出て行っても勝てない「惨敗」、③やり方次第で勝敗がどちらに転ぶかわからない「接戦」があります。勝ちパターンを実践するべきは、この「接戦」の状況にあるときです。
多くの会社では商談の優先順位は取引金額で決まることが多いものです。取引金額の大きな会社はもちろん大事にしたいものですが、私が提唱したい優先順位は「接戦度合い」です。ぎりぎりの戦いをいかに落とさずに勝てるか。これは営業組織の筋力となります。
例えば、コロナ禍などピンチに陥って弱っている会社は、なじみの顧客のみに売り上げを頼る営業をしていることが多いかもしれません。一方で、こうした状況でも新規開拓できるのは接戦をものにできる営業組織を擁する会社です。そこで接戦を勝ち切るために、まずは接戦かどうか状況を識別することが必要になります。
図を見ながらご説明します。例えば、お客さまとの商談時に提案見積もりを出したとします。その際に、「これは御社の社内でOKが出たらすぐに走る案件ですか?」と尋ねてみて、「はい。そうです」と答えが返ってくるようなら楽勝案件です。逆に、「何言っているの。すぐには決まらないよ」というように、お客さまに白けた反応が見られれば当て馬の可能性があります。この場合、見積もりを取っただけで本気で検討する気はない可能性が高いです。
一方で、迷っているときは迷っている反応が見られます。「他社にも話を聞いてみる」「私は良いと思うが会社としては初の取り組みなので上司に確認してみる」「これまで社内で取り組んできたが外部に発注できるか稟議を出す」といった反応があるなら接戦と言えます。このように接戦状況には、競合と迷う、保留と迷う、内製と迷うという3つのパターンがあります。
お客さまの決定の瞬間を細かく聞き出そう
接戦案件を受注できたとき(あるいは失注したときも)、営業担当者は「なぜ受注を頂けたのか」と理由を尋ねるかと思います。しかし、その聞き方では「価格含め頑張ってくれたから」「わが社のことをよく考えてくれたから」など抽象的な答えしか得られないことがあります。ここで具体的な内容を聞けなければ勝ちパターンはつくれません。
ここで本来聞くべきは、どの瞬間にそう決まったかです。「御社のプレゼン中です」といった回答であれば、プレゼンに大事なヒントがあったことになります。「他社のプレゼンを見たがイマイチだった」ということであれば、他社よりもプレゼンが良かったことになります。「上司の一声です」であれば上司の評価ポイントを確認してみましょう。「会議で議論して決めた」のであれば、どういう参加者がどんな議論をしたかを確認します。「担当者が資料をしっかり見て決めました」であれば、資料のどこにどんなポイントがあったのか、を確認してみましょう。
こうして、お客さまの決定の判断をした瞬間を踏まえ、お客さまにどんなメリットがあるのかを聞き出します。どんな課題を解決してくれると思ったのか、他社とどこが違うと感じているのかなどを確認していき、こうした具体的な要素を基に勝ちパターンをつくっていきます。
勝ちパターンは5W1Hに落とし込んでつくる
勝ちパターンは5W1Hに照らして、①どんな場面の、②どのタイミングで、③誰に対して、④何を、⑤どんな風にやると成果が出る。⑥なぜなら~だから、という構成で考えていきます。
具体例に当てはめてみます。①初回訪問直後の、②2日以内のタイミングで、③カウンターパートのお客さまに対して、④要件整理を記載した1枚紙を、⑤メールで送った後に電話で「網羅感・具体感・優先順位」をすり合わせ、修正版をすぐに再送すると成果が出る。⑥なぜなら、無形商材のコンサルティングにおいては、お客さまが「数々の認識のズレ」を過去に体験してきているから、といった具合です。
注意したいのは、勝ちパターンは「強制指示」ではなく、あくまでも「うまくいかない人へのアドバイス」であることです。会社には成果が出ている人、出ていない人がいるので、全社一律の強制指示にすると、成果が出ている人は「そんなことはもうやっている。何を今さら」とモチベーションを下げてしまいます。「営業メンバーに具体的にやって欲しいこと」がある場合は、例えば商談のフェーズに組み込んでしまうなど、自社の営業の仕組みとして埋め込んでおきましょう。
私も講演などで、よく営業組織の人材マネジメントについて、「成果が出ていない人の底上げも大事だが、成果を出している優秀な人はどうすればいいのか」という質問を受けます。成果が出ている人については、営業であればインセンティブもあり、仕事を楽しめていることも多いでしょうから、あまり口出ししなくていいでしょう。どんどん昇格させて、部下を育てる側に回すのも営業組織を強化するという面からは有効です。
実行するのは、「提案中」を細分化したフェーズ
次に、勝ちパターンを実行するタイミングはいつが最適なのかを見ていきます。そのタイミングがやって来るのは、商談の「提案中」のステータスを細分化した「フェーズ」です。では、このフェーズの定義について考えていきましょう。
例えばTORiXの場合、「提案ステータス」を、ヒアリング前、ニーズ・予算が未発生、ニーズヒアリング済、要件整理済、案件BANTCH特定済、提案内容を提示、担当者からの内諾、意思決定者からの内諾、受注への手続き進行中、受注、失注とさらに細分化した「フェーズ」に分けています。
※BANTCH(バントチャンネル)……(B)予算、(A)決裁者、(N)要件・要望、(T)タイミング(検討・実施・導入スケジュールなどの動き)、(C)競合、(H)ヒューマンリソース・人材(体制)
勝ちパターンが関係するのは、「要件整理済」のフェーズです。弊社の場合、このフェーズでは、「キーワード」「具体的な基準・ご要望」「弊社の対応方針」を揃えたPDFをメールで送り、網羅感、具体感、優先順位を電話や訪問で確認しています。
ここを軸に、その前の「ニーズヒアリング済」から「要件整理済」に移行できていない商談や、「要件整理済」から次の「案件BANTCH特定済」に移行できていない商談について確認していきます。
すると、前者は勝ちパターンを実行できていないため移行できておらず、後者は勝ちパターンを実行しているのにうまくいっていない、などが分かります。このように、フェーズの停滞を見ることで、商談で行き詰っているポイントが見えてきます。
前回の記事(「営業組織づくりでは、まず『四つ角』を押さえよ」)でも触れましたが、営業マネジメントではこうした部分こそ詳細に見るべきポイントなのです。よく陥りがちなマイクロマネジメントで、上司が営業担当者一人一人の日報を見て、ちゃんとやっているか、さぼっていないかなどを聞いても、営業の成果向上は見込めないでしょう。
勝ちパターンの実行度合いの「見える化」も重要
勝ちパターンをつくり、実行できるようになったら、勝ちパターンの成果が出ているかをモニタリングします。見える化です。実行した人の成果が出ていて、実行していない人の成果が出ていなければ、勝ちパターンは正しいことになります。また、勝ちパターンを実行したくてもうまくできない人がいるときは、見本の動画を制作して見せたり、行動のチェックリストを作成してアドバイスしたりするのも有効です。
余談ですが、営業組織で一人一人の営業成績の見える化を考えるときに、例えば商品をものすごく売っている人と、売れない人がいたとして、その営業成績を棒グラフで壁に貼り出したりする会社があります。その組織の文化などもあるので一概に悪いとは言いません。
しかし、本稿で取り上げているような「成果が出ていない人へのアドバイス」という観点からすると、成果が出ていない人はそれを見て、「もう追いつけない」とやる気をなくしてしまいます。営業成績を見える化する場合は、1週間の新規商談件数や、フェーズ移行件数など瞬間風速的に誰もが手の届くものがいいでしょう。
もっとも、こうした営業成績の見える化は、営業組織に勝ちパターンのない状況で始めても誰も関心を示しません。営業組織の強化を図るためには、まずは勝ちパターンをつくることを最優先に考えましょう。