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日本が誇る特撮モノの「ぶっとんだ魅力」とは―白倉伸一郎―(東映取締役テレビ第2営業部長兼経営戦略部ハイテク大使館担当)

東映・白倉伸一郎氏

1971年にスタートした「仮面ライダー」は、子どもだけでなく大人の特撮ファンからも時代を超えて愛される人気シリーズだ。そんな仮面ライダーや戦隊シリーズを長年手掛けてきた東映の白倉伸一郎氏は、日本が誇る特撮モノ制作の第一人者。今も続く人気の理由と長期シリーズの難しさを聞いた。聞き手=武井保之 Photo=山内信也(『経済界』2021年12月号より加筆・転載)

白倉伸一郎氏プロフィール

東映・白倉伸一郎氏
(しらくら・しんいちろう)1965年生まれ。1990年東京大学文学部第三類を卒業し、東映入社。1991年『鳥人戦隊ジェットマン』、1992年『真・仮面ライダー 序章』『恐竜戦隊ジュウレンジャー』のプロデューサーを務め、以降、数々の平成仮面ライダーシリーズを手掛ける。東映東京撮影所長、東映テレビ・プロダクション代表取締役社長を歴任。2018年、ハイテク大使館の大使に就任。

特撮モノやアニメが好きだった少年時代

―― 白倉さんは子どもの頃から特撮モノやアニメが好きだったそうですね。

白倉 物心ついたときにもっともハマっていたのはゴジラシリーズですが、ハマると同時に人気が落ちていくのを眺めていました。1960年代に隆盛を極めて、70年代に入ると衰退の一途を辿ります。どんどん低予算化してチープになり、子どもウケをねらって媚びたことをやりはじめて。

 一方でその頃、アニメが立ち上がってきました。72年に「マジンガーZ」をはじめとしたスーパーロボットブームがあり、続いて「宇宙戦艦ヤマト」「ルパン三世」「アルプスの少女ハイジ」「母をたずねて三千里」、やがて「ガンダム」といったエポックメイキングな作品が次々と生まれていました。今日のアニメ黄金期を支える草創期を観ながら育ちました。

特撮モノの意味不明なストーリーを映像の力で見せ切る

―― 特撮とアニメの勢いがクロスオーバーしていく時代です。

白倉 さらにアメリカから「スター・ウォーズ」が来て、いつからか特撮モノは観なくなりました。しかし、それが変わったのは高校時代です。学園祭で「バトルフィーバーJ」という特撮ヒーローのテレビ録画を観る機会があったんです。こんなぶっとんだ作品があったんだと衝撃を受けました。

 当時の私は古い名作映画に夢中で映画マニア化していたのですが、その目線で特撮モノを改めて観ると、演出や脚本がすごく洗練されている。手練れといいますか、ぶっとんだ方向にですけど(笑)。これはこれで大きい文化なんだともう一度引き戻されました。

―― 「ぶっとんだ」とは具体的には?

白倉 本来は懇切丁寧に描かないとつじつまが合わないところを、あえて省略して見せていく手法です。なぜそうなるかは謎ですが。

 例えば戦隊ヒーローは、変身して5色のヒーローになって敵と戦い、対する敵も戦っている途中で巨大化してロボットになるフォーマットがあります。なぜこの5人でなぜ5色なのか、なぜ敵は巨大化するのか理屈があるようでない。そして「バトルフィーバーJ」はダンスバトルがあって踊るんです。当時の「サタデー・ナイト・フィーバー」ブームを受けて作られているんですけど、変身して踊る理由は誰も分からない(笑)。

 その時代に流行っていた面白い要素を片っ端から突っ込んだ結果、理屈ではない部分が多々盛り込まれて。「なにそれ」っていう意味不明なストーリーを強引にねじ伏せて、映像効果で見せ切る。そこが途方もない魅力になっていたんです。

 また映像だからこそ、理屈を超えた面白さを表現できているところもあります。小説や漫画では表現できない不思議な感覚が映像にはある。映像と音声が一体になっているからこそ表現できるジャンルとしては、特撮モノとミュージカルが両極にあり、その面白さはリンクしていると思います。

―― 視覚と聴覚に訴える映像だからこそ、理屈ではない面白さが生まれると。

白倉 理屈にあわないから面白いという点では、笑いや恐怖に近い。それをさらに斜め上に発展させたのが仮面ライダーや戦隊ヒーローです。理屈を超えているから引き込まれる。これはとうが立ってから魅了された理由のひとつです。

東映・白倉伸一郎氏
「仮面ライダーや戦隊ヒーローモノは、理屈に合わないから引き込まれる」

作品から「ぶっとんだ魅力」が減ってきた

―― 特撮モノの面白さは時代が変わった今も継承されているのでしょうか。

白倉 40年前にエンターテインメントのひとつの様式として確立しようとしていました。そこから進化があったかどうかは、われわれが今直面しているジレンマです。

 映像技術や撮影手法は絶え間なく進歩していますから、それを進化としてとらえればどんどん進化し続けています。しかし一方で、〝ぶっとび〟はなくなっている。時代を経て、お客さんと作り手の目が肥えてくると、名作と呼ばれるような普遍的な価値を持つ〝ウェルメードな作品〟を作らないといけないと思うようになります。

 そういったいわゆる〝よくできた作品〟を作ろうとすれば、なにをやるにも理由づけが必要になります。そして考えれば考えるほどぶっとべなくなり、丁寧に作品づくりをすればするほど発想が貧困になっていく。そこが40~50年前の先達に比べると弱くなってきている部分です。

―― 今はウェルメードな作品が評価される時代ということですか。

白倉 もちろんウェルメードな作品を目指したい欲求は作り手の誰もが持っていますが、一方でそれは自己実現でしかないというジレンマもあります。

 10~20年後にも語り継がれる作品には普遍性があります。しかし、それを求めれば求めるほど、今この瞬間に放送や上映しなければならない理由は薄れていってしまう。

―― ウェルメードで洗練された作品を今の子どもたちに届ける意義は本当にあるのか。

 今観るから価値があるものと、いつ観ても価値が変わらない普遍性があるものには、相反する性質があります。例えばテレビであれば、今観なければならない明日の天気予報と、10年後に観ても面白いドラマの違いです。

 作り手がずっと昔から直面している課題ですが、リアルタイム性、同時代性という瞬発的な価値と、10~20年たっても変わらない輝き続ける普遍的な価値をどう共存させるか。それをずっと考え続けています。

―― リアルタイム性の価値にはどういったものがありますか。

白倉 まず情報性が大事です。しかし情報性が過多になると普遍性がなくなっていく。矛盾する条件を突きつけられているんです。流行り物でありながら、ロングテイルにもならないといけない。ただ、映画って本来そういうものですよね。ブームを引き起こす大ヒット作品であるのと同時にパッケージ(DVD、ブルーレイ)や配信でも価値があるものでないといけません。プレッシャーがますます強くなっています。

石ノ森先生の判断基準は子どもにとって新しく楽しい

―― 東映に入社され、プロデューサーとして新しい仮面ライダーを生み出しています。そこには白倉さんの指針のようなものはありますか。

白倉 石ノ森章太郎先生に対する責任が強くあるかもしれない。私が東映に入社した当時、石ノ森先生はご健在でお会いする機会もありました。とても穏やかな心の広い方で、新入社員の話もちゃんと聞いて、それに答えてくれる方でした。若造の私は好き放題に言い散らかしていただけです(笑)。

 石ノ森先生という絶対的な価値基準があり、私たちが出した意見を採用するかどうかは石ノ森先生が見極めてくださっていました。お亡くなりになられてから、自分が想像した新たな仮面ライダーを具現化すべきかどうか、その唯一の判断基準は、石ノ森先生だったらOKしてくれるかどうかです。

 石ノ森先生は保守的ではありませんでした。だけど、何でもいいとしていたわけではない。それが子どもたちにとって新しく楽しいものであり、子ども目線で作れているか。作り手側の覚悟があるかどうかの姿勢が、石ノ森先生の判断基準だったと思います。

―― 50年も続いていると、新しい仮面ライダーを創り出すのは並大抵ではなさそうです。

白倉 それがそうでもないんです。これまでアイデアとしてはあったけど技術的な問題などで実現できなかったというような、難ありのアイデアリストもそのぶん積み上がっています。その中から、今の時代に実現できるものを探すのもひとつです。

―― 長いシリーズだけに、マンネリに陥らないための苦労もありそうです。

白倉 誰もがマンネリを危険視してモデルチェンジをしたがります。そして、新しいモデルになると、作り手はその新しさに満足します。でも、ただのモデルチェンジでは意味がないんです。

 前と比べて〝違う〟ことだけでは価値にはならない。モデルチェンジ自体に安住してしまうきらいがありますが、今やるべき絶対的な意義があるものでなければいけない。だから、まず毎回立ち止まる。そこで考えた結果、マンネリなものがベストであれば、それを恐れずにマンネリに乗っかる。そういう順序で考えないといけないと思います。

―― 仮面ライダーシリーズは長い歴史があります。その中でシリーズ終了の危機を迎えたこともあるのではないでしょうか。

白倉 もちろんあります。東映としては「どの仮面ライダーも等しく人気がありました」としていますので大きい声では言えませんが、やはりアップダウンはあります。ダウンしたときは、私たちは制作したくてもテレビ局やスポンサー周辺の関係者が続ける意義を感じないこともある。仮面ライダーはかつて社会現象を起こしはしましたが、過去の大ヒットコンテンツであるというのが世間的な感覚です。

 毎年、仮面ライダーではない企画がその後釜として立ち上がっています。2000年の「仮面ライダークウガ」でのシリーズ再スタートから05年くらいまでは、「つきあいであと1年はやるけど……」という状況が続きました。そういった危機をその都度乗り越えてきた50年です。

仮面ライダーを普遍的な価値あるブランドに

―― これから新しくチャンレジしようと考えていることはありますか。

白倉 まずは23年の仮面ライダー50周年記念作品をきちんと成功に導いて、仮面ライダーというヒーローを普遍的な価値のあるブランドとして定着させたい。そのうえで、さらに次の100周年に至るまでに、日本の歴史的なヒーローキャラクターとして位置付けるのが野望です。

―― 東映ハイテク大使館の大使を務められていますが、遊び心のあるネーミングです。

白倉 ハイテク大使館の仕事は東映に先端技術を導入することです。社内の会計システムから撮影現場での撮影技術まで、次代へ向けた事業構造改革を推進することが目的で、縦割り組織形態の打破や社員の意識改革を進めることも狙っています。

 ネーミングは、あえて横文字や難しい言葉ではなく「ハイテク」という手垢のついた表現を使う。これは前会長の岡田裕介イズムです。未来への存続をかけて会社を大きく変えていくには、関係各所の協力を得なければなりません。変革に対する関係各所が抱く抵抗感をなくすための、あえてゆるいネーミングでもあります。

 東映ならびに映画業界が抱えている大きな課題のひとつは、新しいデジタル技術をどう映像制作の主軸に据えて、これからの時代の映像作りに最適なシステムおよび組織を構築していくかです。それによって企画のハードルもなくなる。どんな自由な発想の企画でも映像化できるようになります。

 また、映像業界の人手不足を解消したいと考えています。日本の映画は、100年以上もの歴史の中で日本特有のノウハウを積み重ね、諸外国と肩を並べるクオリティの映像作品を生み出しているのは事実です。アメリカに引けを取らない、世界最先端の映像シーンのトップバッターになる未来を若い世代が描けるようにするためにも、撮影現場も新しくしていく必要があります。

 そういう制作環境の変革と整備は絶え間なく続けていかなくてはいけない。ただし変革と整備に時間をかけてはいられません。3年以内の実現を目指して、ハイテク大使として取り組んでいるところです。