経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「見える化」が商談の進行状況と人の動きを明確にする― 高橋浩一

【連載】勝てる! 最強営業組織のつくり方(第4回)

TORiXの高橋浩一です。第4回の今回は、前回の記事「勝ちパターンを明確にすれば、勝負どころがわかる」を受け、フェーズの細分化と見える化の重要性について説明していきます。フェーズの見える化をしないと、商談の進行状況やスタッフの動きも見えませんし、マネージャーによるスタッフの評価も主観的になってしまいます。フェーズ分けのポイントも含めてご紹介します。(構成・文=大澤義幸)

高橋浩一氏のプロフィール

高橋浩一
外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、アルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業6年で70人までの組織成長をけん引。2011年TORiX株式会社設立。延べ3万人以上の営業強化支援に携わる。年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら「無敗営業オンラインサロン」を主宰。著書『無敗営業』(日経BP)はシリーズ累計7万部突破。最新刊に『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)。

復習:勝ちパターンを明確にし、やるべきことをやる

 前回の記事「勝ちパターンを明確にすれば、勝負どころがわかる」では、商談におけるフェーズの概念と意味、どのフェーズに重きを置くか、そのフェーズにおける案件の進捗および停滞をどう見るか等についてご説明しました。勝ちパターンを明確にすると、やるべきことが見えてきます。

 一例として、商談先のお客さまとこういう会話をして担当者の合意は得られた。次は役員に上げるということであれば、今はフェーズ「稟議の検討中」となり、その次は意思決定者の合意を得るための材料を用意するなど取るべき行動がわかります。

 これをフェーズごとに確認し、何をやるべきか明確にするのが「見える化」です。これはマネージャーのスタッフの評価にも影響を及ぼします。

「見える化」していない営業組織では何が起こるか

 多くの営業組織ではこの見える化ができていません。すると、ここに落とし穴ができます。見える化をしていない組織のマネージャーのタイプ別に具体例を挙げていきます。

「結果」で判断するマネージャーのいる組織の場合

 「とにかく結果で判断する」というマネージャーの下では、受注済または受注の可能性が高い案件を隠し持つ人が出てきます。営業目標を達成できる人はいいのですが、未達成の人は「怠けていただろう」と指摘されるのを避けるため、後から追い上げたように見せるために保険を掛けているなどの理由があります。また、受注の可能性が低い段階、あるいは受注できるかわからない段階の案件では、「もし後で失注してしまったら怒られてしまうから報告せずに手元で持っていよう」と考えるため、こういった組織では報告されない隠し玉が増え、見かけ上の受注率だけが高くなりがちです。

「行動目標」で判断するマネージャーのいる組織の場合

 次に「結果よりも、行動目標で判断する」というマネージャーがいる組織の場合です。行動目標とは、受注の前段階の訪問件数、アポの件数、商談件数、見積もり件数などです。

 そういうマネージャーの下では、行動目標さえクリアすればいいと考える人が増えます。「受注や売り上げ目標までは届かないが、行動目標だけは頑張ろう」と。そうすると、実際の受注件数に結び付いていなくても、見かけ上は頑張っている雰囲気が出ます。

「詳細な報告」で判断するマネージャーのいる組織の場合

 さらに、「とにかく詳細を報告しろ。そこで判断する」というマネージャーがいる組織では、報告が細かいほど褒められるため、すでに決まっている商談について、いかに苦しい戦いだったかを事細かに書く人が増えます。例えば、毎年電話1本でリピート受注できる楽勝案件だとしても、細かく報告することで難しい仕事を頑張っている感が出せます。そこでお客さまといかに良いディスカッションをしてきたかを悪気なく事細かに報告してきます。

 すると何が起こるでしょうか。より重要な接戦状況の報告が漏れたり、後回しにされます。勝敗に懸けるエネルギーが他のところに割かれてしまうからです。

 これらのマネージャーはそれぞれ間違った判断や評価をしているわけではありません。しかし、営業組織を強化するためには、もう1歩踏み込む必要があります。

 1人目のマネージャーは、受注や売り上げ段階だけではなく、その手前のパイプラインとなる受注前商談、あるいは商談フェーズの前進具合を見るといいでしょう。

 2人目のマネージャーは、行動目標を見ることは悪いことではありませんが、行動の量だけでなく行動の質も見るようにしましょう。

 3人目のマネージャーは、たくさん報告した人だけが高い評価を得る形にならないよう、異常・抜け・漏れが発生していないか、優先順位は正しいかどうかを見ましょう。楽勝案件のみに時間を費やすのは得策ではありません。

 商談のフェーズごとに客観的な見える化をしていないと、このようにマネージャーの顔色をうかがいながら自分基準の行動を取るスタッフばかりになり、マネージャーもその姿を見て評価してしまいます。これでは営業組織は活性化しません。

ATMの観点から「見える化」ツールを活用する

 このフェーズの細分化や見える化において便利なのが、SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)の導入です。最近はDXやセールステックなどを使ったプロセスの見える化も盛んです。

 しかし、せっかくSFAを導入しても、多くのマネージャーは、「数字の集計結果を見る」だけで終わってしまい、この先の使い方を想定あるいは理解していません。マネージャーは少なくとも、どこを見るか、どこで介入するか、どう指示出しをするか、どう確認するかまでの使い方を押さえておきたいものです。

 SFAなどの見える化ツールを効果的に活用するために、ダッシュボードをATMの観点で使うことをオススメします。

ATMダッシュボード

●Alert:要注意案件および停滞や抜け漏れ

●Targeting:優先順位の高い未アプローチ先リスト

●Monitoring:進捗や結果、比較分析

 マネージャーはAの観点からは、ダッシュボード上でしばらく動いていない商談、決定予定日を過ぎた商談、今月クロージングする予定なのにまだしていない商談などを見ます。

 Tの観点からは、ダッシュボード上に営業に行ってほしいお客さまを残り何件と表示します。セミナーの案内先リストを表示するのであれば、案内し終えたお客さまは消します。例えば年間の営業計画を策定しているようであれば、10月時点でまだ話をしていない案件がないか見ます。

 それと同時に、過去の失注先でフォローできていない、過去のセミナー参加企業でアポが取れていないところを探します。この動きは営業日報だけでは見えないので、本当に客先に行っているかを確認します。アラートは黄色信号ですが、ターゲッティングは青色信号です。注意を払いつつ進むことで目的地に早く到達できます。

 Mの観点からは、目的地に着いたかどうかを確認します。例えば案件が増えているか、パイプラインの状況がどうなっているなど、行動の質や量を見ていきます。

 このATMの観点でスタッフの行動を見ることで、フェーズが細分化され、見える化が進み、マネージャーがスタッフを評価する際にも役立ちます。

フェーズ分けのポイントは商談が1歩前進するかどうか

 ここまでフェーズの細分化・見える化について説明してきましたが、そもそもフェーズ分けは慣れていないと難しいものです。これは一般的にフェーズとは何か、またフェーズを分ける意味が理解されていないことが大きいでしょう。「うちはフェーズ分けしている」という営業組織もありますが、プロセスを分けているだけで活用できておらず、形骸化していることが多いと感じます。

 その勉強の仕方も、例えばフェーズ1からフェーズ5までと決まった形や流れがあれば理解しやすいのでしょうが、そうした決まった形はありません。すると、フェーズ分けがないまま営業を始めてしまい、本来はフェーズの前半に来る準備を飛ばして、いきなり後半の見積もり提示を始めてしまうというケースが出てくるのです。

 このフェーズ分けは形にするための議論にも時間を要します。そこで大まかにフェーズ分けし、走らせながら修正していくと洗練されていきます。その際のポイントは、接戦状況の勝ちパターンと負けパターンを元に考えること。「1つ進めることに意味がある」という単位でフェーズ分けするといいでしょう。そうすればこれを順番通りに進めていくことで勝ちパターンになります。

 加えて、接戦の勝敗を分ける重要な場面は独立フェーズにしておきます。フェーズを分けた後は解釈が分かれないように、組織内で議論しておきましょう。私の考えでは、最初は6~9項目にフェーズ分けして運用してみるのがお勧めです。

 たまに見かけるフェーズ分けの失敗例が、1回目:訪問、2回目:訪問、3回目:見積もり提示、4回目:受注というものです。このように、受注見込みの有無にかかわらず、2回訪問したらフェーズが自動的に進むという形は避けた方がいいでしょう。すでに失注が決まっているところに訪問している可能性もあり、無駄足になります。

 フェーズをうまく活用していくためには、フェーズの前進と停滞に目を光らせることです。SFAは費用がかかるから導入できないという中小企業でも、Excelを使って、案件、金額、フェーズを作表し、前進したら色が変わるようにしておくと、商談の前進と停滞が一目でわかります。そこに過去・未来のフェーズを継ぎ足していけば、データとして蓄積されます。皆さんの営業組織でもぜひ試してみてください。