【連載】『考具』著者が教える、自ら企画し行動する社員の育て方(第4回)
皆さま、こんにちは。加藤昌治です。社員あるいは部下の方々から「アイデア入りの企画」を出しやすくする環境マネジメントを実践的に考える本連載。第4回は、前回の「アイデア出しの技『云い出し』と『云い換え』って?」に続き、「云い出し」の代表的手法「死者の書」を使った発想法についてご紹介します。(文=加藤昌治)
加藤昌治氏のプロフィール
今回も、まずは読者からのご質問と前回の復習
質問:「属性列挙法」やってみたけど、どうもピンときません!
質問:「云い出し」に使える他の発想法も教えてください。
確かに。属性列挙法だけが発想法でもありません。また、発想法はこれまでに記してきたように単なる道具です。道具なので、使い手との相性があります。この辺もスポーツと似ているんですね。結果としての身体(この連載ではアタマ)の動かし方は同じになるにしても、ちょっとしたプロセスの違いがどうもしっくり来ない。これはいたって普通の、あるあるです。
ということで、前回原稿の最後で「次は云い換え」と宣言してしまったんですが、もといの前言撤回で、「云い出し、に使える発想法その他」な今回です。
「云い出し」の技――「死者の書」を使ってみよう
今回紹介するのは、「死者の書」なるタイトルの発想法です。タイトルからして、おどろおどろしい……。属性列挙法とはタイプの違うアプローチです。
お題を分解してアイデアのヒントにするのではなく直感あるいは直観で、自分の脳、記憶からダイレクトにアイデアを引っ張り出してくる方法です。反面、ちょっとクセがあるので、これまた相性があります。
実際にワークショップで試しても同様で、「ハマる!」という方と「うーん、これは……」という方がいます。やり方はそんなに難しくないので、まずは軽い気持ちでトライしてみてください。
トライしてみると、気付きがあります。「同じ人」「同じお題」そして「違う発想法(道具)」を使ってみると、あら不思議、出てくるアイデアが違う! この現象、ワークショップに参加される方にほぼ共通して見られます。つまり、皆さん自身も部下の方々も同じく、私たちの脳、記憶には、ホントにアイデアの素がいっぱいある。貯蔵量はハンパないのに、その素をいかに掘り出せてないか、ということでもあるわけです。
そこで、ちょっと刺激を変えてみる、アイデアへの補助線を変えてみるだけで、もっともっともっともっとアイデアは出てくる。無手勝流でいきなり「考える」をあまりお勧めしていない理由でもあります。
そろそろ本題に行きましょう。「死者の書」で使うのは、古代エジプトの象形文字です(図版参照)。象形文字は文字自体が鳥とか蛇とか人間だったりするので、一見「表意文字」に、漢字のように、文字自体に意味があるタイプに見えます。
でも実はアルファベット的な「表音文字」のようですね。鳥の字が鳥そのものを意味しているわけではなく、「トリ」という音を表しているという(古代エジプトでは 「to-ri」とは発音してなかったでしょうけど)。完全に受け売りなので本当かどうか検証していませんが……すいません余談でした。
「死者の書」は「表意文字」的に使います。改めて象形文字の集合を見てください。いろんなタイプの「絵」があります。いろいろなタイプの文字が並んでいるのがミソ。発想へのヒント、キッカケは幅広い方が素敵です。ではどうやって使う道具なのか。
※図版は『発想法の使い方』(日経文庫)より転載
ステップ1:お題を確認する
あえて前回「アイデア出しの技『云い出し』と『云い換え』って?」と同じお題にしてみましょう。ぜひ自分の可能性に気付いてください。前回は「ホワイトボードマーカーの新商品を考える」というお題でしたね。
ついでに復習してしまうと、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ」であり、既存の要素とは、直接経験、間接経験、知識。つまり「すでに知っていること」でした。ホワイトボードマーカーに関するご経験ありますね? 新しい、については? 商品、はどうでしょう? OKですね。これでアイデアは出ます。
ステップ2:象形文字の中から1つ文字を選ぶ
3つの図の中から1つ文字を選んでください。どれでも結構です。候補はたくさんあります。1行目の1番左である必要はありません。ここ「わがままに」ポイントです。例えば下の「この絵」を選んでみます。
ステップ3:選んだ文字とお題を無理矢理結び付けてアイデアにする
まず、選んだ文字が何見える? を自分勝手に(わがままに)想像してください。もともとの象形文字がなんなのか、は無視! その字が何に見える? ちなみに、筆者には「この絵」の文字が「犬」だったり、「陸上競技100m走スタート前のクラウチングポーズ」だったり、それから物騒ですけど「大砲」に見えました。これ、筆者にそう見えただけですからね。仮に同じ文字を選んだとしても、それがどう見えるかは人それぞれ。正解なんてありません。じっくり、というより瞬間的に。わがままモード全開でお願いします。
続いて、お題と結び付けます。「ホワイトボードマーカー」と「犬」。犬は吠える……。では、「書いているときに音が出るホワイトボードマーカー」、これでアイデア1つ(アイデアはまだ企画ではありません。この時点で良いかどうかの判断はしません)。さらに、犬の毛ってシンプルに一色じゃないよね……「書いているうちに色が微妙に変わるホワイトボードマーカー」。これで2つ。
加えて、犬って血統書付きがいるから……「その会社でスゴいアイデアを生んだ人が使っていた証明書付きホワイトボードマーカー」。土佐だっけ、闘犬って聞いたことあるな……「書いたことの反対(相手)が、ホワイトボードの向こう側に自動的に出てきて向かい合う配置がされるホワイトボードマーカー」。ん? このアイデアはマーカーというよりもボードだけれど、まあいいか。待て、待て、犬と言えば、少年がルーベンスの名画を前に眠り込んでしまって命を落とす、あの涙なくして読めないストーリー……「塗り絵用ホワイトボードマーカー」もあるね。
このように、次々とアイデアが出てきます。繰り返しますが、これは「まだ」アイデア。その全てが素晴らしいなんてことはありません。駄案もたくさん。でも数を出す、のがアイデアパーソンです。そして、属性列挙法とはまったく違うアイデアが出てきます。
選んだ文字とアイデアのセットもいろいろ。文字ごとにアイデア1つ、次々に文字を選んでいくパターンもありますし、上記のように1つの文字から、3つ、4つ、5つくらい粘り、止まったら次の文字へ、でも当然OKです。はたまた、1文字にこだわって20個出すまで「犬」で行く! やり方もあります。
一方、象形文字から見えたモノ・コトが全てアイデアにつながらないこともあります。「大砲」からは何も浮かばなかった、もまたあるあるです。それはそれで構いません。
「死者の書」を使ったアイデア出しはこんな感じです。ベースとなる3つの図はスマートフォンに入れておけば場所を選びません。もちろん紙に印刷して手帳に挟んでおくこともできますし、意外にもお手軽な道具です。
この流れ、ちょっとカッコつけて云い換えると「異質馴化(いしつじゅんか)」というところでしょうか。異なる2つのアイテムから生まれるイノベーション(もどきも含め)。前回ご紹介した属性列挙法が、もともとのお題から徐々に離れていくイメージだとすれば、「死者の書」は1度ポーンと遠くに飛び、少し戻ってくるような感じのプロセスです。
心理的安全性が確保されれば、部下はアイデアを出す
部下の皆さんからすれば、「どんなヘンテコリンな、あるいは実現可能性がそのままでは低そうなアイデア」を出しても大丈夫、という心理的安全性が確保されていれば、安心してアイデアを出すことができます。
「死者の書」という手法は、あくまでも1つのプロセス、アプローチに過ぎません。間違っても「なんで、その文字を選んだんだ?!」などとおっしゃらないように。大事なのは出てきたアイデアであり、この時点では出てきたアイデアの数。メンバーの「わがまま」は自由に泳がせておくべきです。
なお、派生形もあります。「象形文字? 苦手!」な部下の方には「雑誌」あるいは「SNSサーフィン」など、相手方の素材を変える方法もお勧めです。要は、お題と距離のあるビジュアルに偶然的に巡り会えれば機能としては同じことですから。
ついでに、「ビジュアルは苦手だなあ」な部下の方には、「辞書」のような「言葉の集積」を使ってみる手もあります。適当にページを開いて、そのページに載っている言葉とお題とを無理矢理……とやることは同じです。なお、本だとついつい中身、文脈に引っ張られてしまうので、文章ではなく言葉がランダムに並んでいるものが向いています。
ということで、「云い出し」のアプローチ違いの発想法、道具を紹介してみました。どの発想法がいいかは相性なので、残念ながら一概には言えません。上司の皆さんとしては、部下のアイデア力を引き出すための道具として、上手に使い分けていただければ幸いです。
※本連載では読者の皆さまから加藤氏へのご質問もお待ちしております。質問は全て加藤氏にお届けします。その質問、送ってください!
質問送り先:企画編集担当・大澤osawa@keizaikai.co.jp(タイトルに「加藤氏連載の質問」とご明記のうえ、本文に「質問内容」と、記事の感想なども頂けたら嬉しいです)