経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

世界一のベビーブランドを目指すミキハウスの高付加価値戦略―ミキハウス


2021年に創業50周年を迎えたミキハウス。節目の年に当たり、あらためて「これまで」の軌跡を振り返るとともに、100年企業を目指して、「これから」どんな一歩を踏み出そうとしているのか。木村皓一社長の舵取りに焦点を当てた。

ミキハウス 社長・木村皓一
ミキハウス 社長・木村皓一 (きむら・こういち)

本社竣工に垣間見るミキハウスの進取の気性と高級志向

 大阪府八尾市に本社を置くミキハウス。子を持つ親なら誰もが憧れるベビー&子供服ブランド・ミキハウスグループの総本山だ。最寄り駅に降り立つと、柔和で優美な曲線形状とガラス張りを組み合わせた瀟洒(しょうしゃ)な社屋が見えてくる。自然光を巧みに取り込み、館内に光のニュアンスを与えるデザインは、今から30年前、建築家・黒川紀章が設計したもの。時が経っても色あせない普遍性が見事だ。

 実はこの社屋、総工費100億円以上が投じられている。建てる前には「社員からも銀行からも(笑)反対されました」と木村社長。しかし、「世界中の富裕層がミキハウスに憧れ、『来日した際には本店で買い物がしたい』と思うようになる。そのためにもふさわしい社屋や店づくりが必要だ」と説得。

 今や日本発の世界ブランドとして押しも押されもせぬ存在のミキハウスだが、30年前すでに、未来を見越していたかのような采配には驚かされるばかりだ。

 こうした木村社長の「進取の気性」を伝えるエピソードには事欠かない。創業前にも、氏の父が営んでいた家業(婦人服製造業)は継がず、たった1人で会社を起こすと決めたのも「薄利多売に見切りを付けていた」からだった。創業後しばらくは苦難の日々が続いたが、それでも心を占めていたのは「安物は売りたくない。高くても本当に良いものを、その真価が分かる人に届けたい」という強い想い。そのこだわりから、売り歩く先も最初から高級子供服専門店を選んだ。

 「持ち込んだサンプルの品質が良いことは一目瞭然。バイヤーとの商談では手ごたえを感じても、なかなか取引には至りませんでした。門前払いになることもしばしばで、それは悔しさを募らせたものです。それでもオシャレなデザインや優れた品質など、付加価値の高い子供服を作りたいという意思は変わりませんでした」

 創業時から海外に目を向け、積極的にグローバル展開を推進した点についても先見の明を感じざるを得ない。こうと決めたら曲げない強い意志と、「良いものを安く売るのはおかしい。高くても、その価値に見合った価格で売るべき」とする信念。さらに、目先の利益には目もくれず、自身が理想とする未来をつくり出すため、高い付加価値を追求する木村社長の舵取りが奏功し、ミキハウスは着実に成長路線を進み続けて、今がある。

 「1980年代にはアメリカの高級百貨店への出店を皮切りに、パリに海外初の直営店、2013年にはイギリスの高級老舗百貨店ハロッズとの取引も始まりました。世界一のデパートにミキハウスの商品が並ぶようになり、世界のハイブランドの仲間入りをした気分でした」と木村社長は笑う。

世界一のベビーブランドへ全国産院との連携にも注力

 「どんな商品やサービスであれ、値段が高いのには理由がある。確かな仕事をしている、顧客を満足させてみせるというプライドの証」

 木村社長のそんな品質へのこだわりが、高付加価値戦略に落とし込まれ、ミキハウスのブランドイメージが醸成された。良いものを適正価格で、確かなものを販売するブランドへの信頼は厚い。「大切なわが子が初めて身に着けるものはミキハウスで」と考える世界中のファンに対し、ラグジュアリーなベビー用品の企画開発に取り組んでいる。

 メードインジャパンにこだわり、上質な素材を使った商品群を展開。少子化もあいまって、親だけでなく祖父母も孫が使う肌着や衣類、寝具には「上質なもの」を買い与える世情も追い風になっている。さらにコロナ禍を受け、抗菌・抗ウイルス加工への期待と需要も高まり、「ピュアベールシリーズ」も好調だ。「ピュアベール加工のマスクを販売した時には注文が殺到し、生産が追いつかず、逆にご迷惑をおかけした」と反省する一幕も。

 最後に、今後のミキハウスの50年についても聞いた。

 「キーワードは『赤ちゃん』。オギャーと泣いてこの世に生まれてきた赤ちゃんにとって、一番必要な企業でありたい。オーガニックコットンやシルク、海島綿などの素材、ピュアベール加工、妊産婦やそのご家族の利用しやすい売り場づくりもそう。赤ちゃんと家族に必要なサービスに取り組み始めています」と木村社長。

 その一例が全国産院とのコラボレーションだ。各地で主力な産院と連携し、オンラインの「出産準備セミナー」で情報提供を行うとともに、産婦の出産・退院のお祝いとして、肌着・プレシューズ・おくるみなど、思い出に残るミキハウス製品を贈る取り組みだ。贈る方も受け取る方も必ず笑顔になる、誰かの幸せが連鎖する事業は必ずや成功する。

 「赤ちゃん」はいわば明るい未来の象徴であり、架け橋でもある。大阪にミキハウスがある限り、子育て世代の未来はもちろん、関西経済の行く末も明るいと感じられる。

会社概要
設 立●1978年9月
資本金●20億3,000万円
売上高●166億5,400万円(2021年2月期)
本 社●大阪府八尾市
従業員数●569人
事業内容●子供服および子供を取り巻くファミリー関連商品の企画・製造・販売、出版・教育・子育て支援などの文化事業
https://www.mikihouse.co.jp/