分析・計測の技術でグローバルに事業展開する堀場製作所。新たな成長を常に問い続ける姿勢は、時代の変化に対応するヒントとなる。世界に視点を置いた社会的課題への取り組みと、関西の持つ可能性について伺った。
「ほんまもん」を求め人財への投資を惜しまない
── コロナをはじめ、さまざまな逆境を乗り超えられる秘訣は。
堀場 足元では回復の兆しはあるものの、自動車産業は世界的に大きな打撃を受けています。長きにわたり業界で存在感を築いてきた当社もその影響を受ける一方で、半導体分野は好調です。リーマンショックの時には半導体・自動車事業ともに業績が落ち込みましたが、医用や科学事業がカバーし、グループ全体では黒字を確保できました。各事業が補い合いながら長期的な成長へつなげるバランス経営の強みがあります。
これもひとえに、8千人を超える社員一人一人が自らの役割を理解して精一杯頑張ってくれていることが大きいですね。半導体部門の社員は決して浮かれていませんし、自動車部門の社員にはしっかりと先を見据えた課題認識があります。
── マネジメントはどのように。
堀場 多様性がカギです。当社には「一人一人違う強みを持っている」という考え方がベースにあります。会社はともすれば、技術も人望もマネジメント能力も全て備わったスーパーマンを求めがちですが、そんな人はまれです。一人一人が自分を知り、超一流の分野を磨いていく「ほんまもん」の集まりでありたい。
当社はチャレンジして失敗した人のアイデアやプロセス、熱意なども評価するという考えがあります。失敗したという結果だけで不当な扱いをしてしまえば、誰もチャレンジしなくなります。正解を当てるのを目的とするのではなく、問いを創る側に回る。社是「おもしろおかしく」は、一人一人の知恵とクリエイティビティを育てています。
B2B事業のお客さまはその道のプロです。自動車や半導体という品質が求められる業界で、当社の製品が世界トップシェアを獲得しているのは、世界のプロが本質的に優れた「ほんまもん」を求めているから。この要求に応えるためには人の力が大切です。人の育成には5~10年の年月が掛かりますが、当社は「人財」への投資を惜しみません。
「モノ」から「コト」へビジネス価値の変化に対応
── 世界的な「ほんまもん」にかける年月は、研究開発も同様ですね。
堀場 ビジネスの価値は「モノ」から「コト」へと広がっています。分析計を作る技術も大切ですが、試料を適切に扱い、正確に分析する際には、「どのように」という問いが付加価値になります。
21年6月、小惑星探査機「はやぶさ2」が採取した小惑星「リュウグウ」の砂を最初に分析するチームの一員に選定されました。「モノ」としての分析計の性能はもとより、貴重な小惑星の試料を正確に分析するためのサンプルハンドリングのアイデアと、新しい分析手法として具現化した設計・開発者の知恵を集積した「コト」を併せて提案し評価いただいたのです。アレンジを効かせた提案こそが当社のビジネスモデルであり、これからの時代のブランド価値創造の源泉となります。
水素エネルギーに関わる分析装置も、誰も水素を話題にしていなかった10年前から研究しています。「ほんまもん」の技術を追求し続けてきた人財が社内にいたのです。
グローバル目標に向けた関西経済の役割とは
── 50年の脱炭素社会実現目標が掲げられ、注目が集まりました。
堀場 当社は水素エネルギーを「つくる」「ためる」「つかう」という全フェーズに関わらせることができます。この技術を展開するべく、新たなビジネスモデルを構築しています。
フランス、ドイツ、アメリカも同じフェーズにいますが、日本は後れを取ってしまうのではと危惧しています。この正解がない問題を自ら考え立ち向かうことこそ、本当のチャレンジとなります。
SDGsについては、世界から見て日本は進んでいます。日本人に備わっている環境や循環を大事にする心で社会はできています。本来イニシアチブを取れる日本が、ルールづくりの得意な欧米の答えを待っているのはもったいないことです。
── 25年に万博もあります。世界視点からの関西経済の役割とは。
堀場 カギは「第二の東京を目指さない」ことです。東京には圧倒的なスケールや官の力があります。関西には民、それぞれの府県で育まれた突出したカルチャーが数多く存在します。例えば学会が京都で開催されれば、海外からの参加者が増えます。関西には超一流の食やエンターテインメントなど、訪れたい魅力が豊富にあるので、個々の「らしさ」をアピールするべきです。
現在、けいはんな学研都市推進機構理事長として、万博の成功に貢献するべく各種実証実験を進めています。グローバリゼーションを含め、最先端技術の研究開発型オープンイノベーション拠点としてのポテンシャルは十分にあります。関西がクリエイティビティを高める豊かさを有することは、人の歴史と文化が物語っています。これを誇りとして生かすことが今後より必要となる。そう確信しています。
会社概要 設 立●1953年1月 資本金●120億1,100万円 売上高●1,870億8,000万円(2020年12月期) 本 社●京都市南区 従業員数●8,269人 事業内容●自動車計測機器、半導体用計測機器、環境用計測機器、科学計測機器、医用計測機器の製造販売。分析・計測に関する周辺機器の製造販売。分析・計測に関する工事、その他の建設工事ならびに関連装置・機器の製造販売 https://www.horiba.com/jpn/ |