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先行予約で無駄な在庫を減らし、顧客体験の向上を実現する英Purple Dot

記事作成=hackjpn

多くの小売業者は、自社のWebサイトを立ち上げた際、販売する製品の数を予測し、それを倉庫に運ぶ必要がある。しかし、正しく製品数の予測を行えることはほとんどない。数量に問題が出ると、生産や倉庫保管に遅れが生じ、在庫の売れ残りという問題が発生する。

アイテムが割引プロセスを経ることで売り手にとって不採算になり、商品は埋め立て地で処分されてしまう。このシステムは誰にとっても機能しておらず、買い手も販売者も共に商品を失うことになる。

このように多くの事業者が持続不可能で安価な価格設定戦術に陥っている現状を変え、新しい買い物方法を提供するロンドンの企業が注目を浴びている。

先行予約の成功

英Purple Dotは、企業が在庫と顧客をより適切に管理できる順番待ちリスト管理プラットフォームを運営している。事前販売リストを設定し、順番待ちリストを補充することで、倉庫に到着する前に製品を販売できるようにしている。これにより、販売率の向上、無駄の削減、需要の管理が可能になる。

また、アイテムの過剰生産によって在庫が破壊される状況を防げるため、地球環境にも貢献できる。多くの企業が今日、製品の発売スケジュールを維持するために予約注文に大きく依存しているが、この革新的なプラットフォームが世界のサプライチェーンの持続可能性も向上させている。

Purple Dot
画像:Purple Dotウェブサイトより引用

在庫ロスの最小化を叶える

2019年8月にSkyscannerの従業員であったMadeline Parra氏とJohn Talbott氏によって開始されたPurple Dotは、ファッション系ECに注力している。そこでは季節要因や売れ行き状況などを考慮してディスカウント販売を行うことで、在庫ロスの最小化を図ることができるプロダクトを提供している。

前払い機能をプラグイン形式でEC事業者に提供し、売買が成立したときに売買金額の5%を手数料としてECサイトから徴収する。同プラットフォームを導入するECサイトが全ての商品販売責任を負い、ユーザーとなる消費者に前払いを課すことで信用リスクからも解放される。

消費者に事前デポジットをさせることでECサイトに確実な販売機会を提供する「Pay Now, Buy Later(前払い)」のコンセプトを提唱する同社の仕組みは以下の通りである。

(1)消費者はPurple Dotを導入するECサイトにおいて購入したい商品を選択し、定価よりもディスカウントされた金額(およそ25%減)を前払いする

(2)そのディスカウント金額での販売を受け入れるかどうかはECサイト事業者が都度決定できる

(3)ECサイト事業者が販売を受け入れた場合は、前払い済みのディスカウント金額で売買完了する

(4)逆に販売を受け入れない場合は、消費者は前払いした金額の返金を受けることができる

Purple Dot
画像:Purple Dotウェブサイトより引用

「Worth-the-wait」による恩恵

「待つ価値のある」低価格で製品を要求できるこの「Worth-the-wait」ソリューションを使用することで、消費者は最も人気のある新商品への早期の独占的アクセスや、販売されていないお気に入りの商品を手頃な価格で手に入れることが可能となる。

通常、「待つ価値のある」価格は、推奨小売価格(RRP)から10〜20%の値下げを下回ることがないため、ファッションブランドがシーズン終了時の割引による損失を減らすのに役立つ。たとえばアウトレットスタイルの割引では、RRPマークを60〜80%下回るアイテムが売り切れることが多い。しかし同社のテクノロジーによって、さまざまな製品のライフサイクル全体で割引レベルを大幅に縮小でき、結果としてファッションブランドの利益率を保護するのに役立つ。

同社は最近、Connect Venturesの主導によって、AI Seed、Moxxie Ventures、Andy Chung、AngelListのPhilipp Moehringの支援を受けて、400万ドル(約4億6000万円)のシードラウンドを発表した。食料品や緊急で必要な製品などの購入は待機ベースのショッピングには適していないが、依然として重要なマーケットとして注目を浴びている。

同社のアイデアは、会社の創設者兼CEOであるMadeline氏の子供の頃の経験から生まれたという。同氏の祖母は買い物に出かけるときに、お気に入りの商品がセールになったら電話をかけるよう店員に頼むことがよくあった。だが、ある時店員が販売待ちリスト上から、祖母の名前を削除しているのを見てしまったという。

この体験から、少額の割引で購入できる潜在顧客リストと、より安い価格になるまで待つ準備ができる消費者の双方にとって良い方法を探すようになった。買い物客の忍耐力に報いるために、製造や発売前に製品の需要をより正確に予測したり、シーズン中の販売をより加速したりするのに役立つプロダクトが完成した。 

ファッション業界は製品販売数の予測が難しいため、ブランドは製品の需要を当てずっぽうで見積もることが少なくない。需要予測が外れれば無駄な在庫を抱えることになる。衣服は最終的に焼却処分されることが多く、環境に悪影響を与える。販売と出荷を非同期にする同社プラットフォームによって、注文を受けた分だけを製造でき、結果として無駄が減ることになる。

事業立ち上げからまだ2年半の企業であるため、ディスカウント設定を含む業務プロセスは手動運用の部分が多く残されている。だが、取引量が累積すればECサイトと消費者の両方にとっての最適価格についての学習が進み、データカンパニーとしても存在感を持ちうるポテンシャルを秘めているとみられる。