経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

財政均衡化政策が生み出した「衰退した地域勝ち、稼いだ地域負け」の構図  -木下 斉

【連載】誰も言わない地方企業経営のリアル(第7回)

戦後の日本では、お金がある地域から国が予算を分配して財政力を調整する「地方交付税交付金」制度ができました。この制度は貧しい農村部などの発展に寄与した一方で、地方が自ら稼ぐというインセンティブを奪いました。地方はいかに国から予算をもらうかを考えるようになり、個別補助金に加え、自治体経営の不足分も地方交付税交付金で調整されるようになっています。今回はこの問題に切り込みます。(文=木下 斉)

木下 斉氏のプロフィール

木下斉
(きのした・ひとし)エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。1982年東京都生まれ。高校生時代からまちづくり事業に取り組み、2000年に全国商店街共同出資会社の社長就任。同年「IT革命」で新語流行語大賞を受賞。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。09年一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。全国各地の地域再生会社への出資、役員を務める。著書『まちづくり幻想』『稼ぐまちが地方を変える』『凡人のための地域再生入門』等。
全国各地の最新情報を配信するnote「狂犬の本音+」(https://note.com/shoutengai
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戦後、誕生した財政均衡化政策の功罪

 戦後の日本では、各種補助金に加え、最終的にお金がない地域に、お金がある地域から国が予算を分配して財政力を調整する「地方交付税交付金」という仕掛けが樹立されました。シャウプ税制によってつくられ、その後拡充されてきた制度です。

 ある意味、地方自治体護送船団方式とも言えるこの政策は、貧しい農村部などの発展に寄与した一方で、自治体経営において大転換を生み出しました。そもそも戦前の日本では財政均衡化政策が長らく議論されていたものの、1940年に小規模な制度が樹立したのみで、基本は各地域が自ら稼ぎ、経営するのが基本でした。地域ごとに自らの地域で新たな雇用を生み出す新産業開発を官民ともに推し進め、豊かな地域を目指していました。前回の記事(「企業城下町の終焉と非工業都市の可能性~明治維新以降の工業成長の次にある成熟型経済への入り口」)で触れた企業城下町などもかつて各地域が豊かさを目指して官民で取り組んだ名残です。

 しかしながら戦後は、地方はいかに国から予算をもらうか、というインセンティブに転換します。個別補助金などだけでなく、最終的な自治体経営としての不足分も地方交付税交付金で調整されることがわかり、自ら稼ぐインセンティブがほぼなくなってしまったのです。

予算は「稼ぐもの」から、「もらうもの」へと変化

 予算は稼ぐものから、もらうものへと変化したことで、自治体はむしろ稼ぐと損をする構図となってしまいました。稼ぎを増やせば、その分交付金を減らされる。財政的な稼ぎになるものを嫌う自治体財政部局の人もいるくらいで、むやみに独自に稼ぐことは国ににらまれるとまで言う人もいます。

 このような構図の中で、地方自治体においては、いかに国から予算を取れるか、が人事評価においても重要な項目となり、地域に新たな産業をつくり新たな税源となる事業を行うことは評価の対象ではなくなりました。

 結果として全国各地で経済成長する産業都市は乏しくなり、戦後復興期を除けば多くの都道府県で最も成長したのは県庁所在地という状況になっています。つまり地域で稼ぐ産業都市が成長するよりも、国から分配される予算の中核都市である県庁所在地に吸い寄せられる人々が増加していったのです。結果として、地域経済に占める公的支援の割合が高まり、ますますもって地域産業のダイナミクスは失われ、地域内ヒエラルキーが固定されていくことになります。

 このように予算は稼ぐものから、もらうものに変化したインパクトは大きく、地域経済のあり方を大きく変えました。

全都道府県、市町村で約1,700のうち75のみが不交付団体

 このような結果、日本の自治体の多くは最終的な赤字の帳尻合わせがなければ、自治体経営が成立しない状況になっています。都道府県で言えば、東京都以外の都道府県が地方交付税をもらう自治体です。約1,700ある市町村のうち、75自治体のみが地方交付税をもらわない自治体です。中身を見れば不交付の自治体の多くは原発などの電源立地のエリアが多く、より強力な国の予算配分があることで財政的に恵まれており、地域産業によって不交付になっている自治体は愛知県内の自動車経済で稼ぐ地域のみといってもいい状況になっています。

 結果、ほとんどの自治体はいかに予算をもらうかばかり考えるようになり、独自の産業起こし、税制制度などを国に提案する自主権も実質的に脆弱です。

 例えば、宿泊税なども地方交付税交付金の負担こそあれど、交付団体にはならない東京都が風穴をあけたように、多くの自治体は既にむやみに独自の税制制度などを変えて稼ぐ発想すら出てきません。東京都民は地方交付税の約4割を税金面で負担しており、その分稼がなくてはならないというプレッシャーがかかる日本唯一の地域です。支援を受ける地方がさらに衰退し、財源的に負担をし続ける代わりに、稼ぐインセンティブがある東京がさらに膨張しているのはある意味皮肉な結果です。

衰退すれば、過疎になれば予算が来るを繰り返した結果

 より衰退すればより多くの活性化予算が投入され、より過疎地になれば予算だけでなく過疎債などの独自の借金を行うような支援制度がつくられてきました。しかしながら、支援に次ぐ支援があってもなぜ改善しないのか。

 その一つに、より一層の予算を獲得するためには赤字をつくり出さなくてはならないという構図があります。黒字になり、より財源を稼ぐような事業に支援予算を使えば、結果として将来の国からの交付金などの支援が減少します。そのため、各自治体は国から支援を受けて、より一層赤字になるような巨大施設を整備したり、廃校が決まっている地域にあえて学校を新設したりを繰り返してきました。そのほうがより一層財政は厳しくなり、結果として支援を受けられる、つまり予算が増額になるという意味で合理的だったからです。

 とはいえ、このような方法を取り続けた結果、地域で食える一般産業がどんどんなくなり、地域内における予算配分の規制産業や公共事業関係企業などだけが残っていきました。地元内ヒエラルキーには競争がほとんど存在しないため固定化され、割を食う条件で仕事をさせられることを嫌って、若者や女性は地元を去っていきました。今は技能実習生など駆使して継続している地域が多くありますが、既にかつて韓国・中国・台湾から来ていた実習生は自国発展とともに来日しなくなり、今いるベトナムなどからの実習生も来なくなるのは時間の問題です。

 もらうことを徹底した結果、地域が没落し、地元出身の若者や女性から見放された上に、その身代わりを外国の若者たちに求めたものの、根本的な改善はないためそこもまた見限る状況になってきているのです。

ふるさと納税でわかった、地方のアニマルスピリッツ

 そのような中、私はもう地方は独自の稼ぎをつくる、財政力を改善するなどの気力はないのか、と思っていました。しかしながら、一つの変化が見られたのが「ふるさと納税」です。税制制度としては、全くもって税収総額は増加しないのに、コストばかりかかり、高額納税者が得をするという意味で間違った制度ではありますが、唯一良かったことがあります。それは、自治体が独自の財源を稼ぎたいという気力があるのがわかったことです。

 ふるさと納税制度は、他の制度と異なり、どれだけ集めても自治体の財政力としてはカウントされない、つまり地方交付税交付金が減額にならない制度です。結果として、ふるさと納税を増やしても、交付金も併せてもらえるため、自治体としてはある意味真水の税収となることから、どこも躍起になって取りに行っています。

 肉や魚など地域産業製品を安売りするモデルが多く見られますが、少なくとも自分たちで稼ぎ、その資金で自分たちの必要な財源を稼いでいく形が保証されれば頑張ることがわかりました。

 これまでのように頑張ったら損をする、財政力がなくなっていくほうが支援を受けられるという構図から変化し、今一度、自ら稼ぎ、地域を発展させるインセンティブのある税制、支援制度に変えていくことが必要です。

(参考)

総務省「令和2年度 不交付団体の状況」

https://www.soumu.go.jp/main_content/000700624.pdf