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最大の脅威は隣国の中国 日本は新しい安保をつくる時 ロバート・D・エルドリッヂ エルドリッヂ研究所代表

ロバート・D・エルドリッヂ

ゲストは、日米外交史などを研究するエルドリッヂ研究所代表のロバート・D・エルドリッヂさん。ロシアのウクライナ侵攻による世界情勢の変化や、隣国の中国や韓国の最新動向を元に、日本の現状と外交に警鐘を鳴らします。これからの日本のあり方について提言を頂きました。聞き手=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=菱田諭士(雑誌『経済界』2022年8月号より)

ロバート・D・エルドリッヂ
ロバート・D・エルドリッヂ エルドリッヂ研究所代表
1968年米国ニュージャージー州生まれ。90年来日。神戸大学大学院・法学研究科博士課程後期課程(政治学・博士号)。専門は日本政治外交史、日米関係論、戦後沖縄史、安全保障、外交など。著書『中国の脅威に向けた新日米同盟』など。

文科省のプログラムで来日。日米関係の研究や提言を行う

佐藤 エルドリッヂさんは以前、米国海兵隊にお勤めで、現在はご自身の研究所で日米関係などについて研究や情報発信をされています。来日のきっかけは。

エルドリッヂ 1990年に文部科学省JETプログラムの4期生として来日しました。外国語の先生を日本の学校に派遣するプログラムで、私の赴任先は兵庫県の中学校でした。そこで歴史や文化に触れ日本が大好きになり、1年間の滞在予定が気づけば人生の3分の2に及んでいます。同じ頃、神戸大学大学院で日米関係の研究をするようになりました。

佐藤 日本の大学院ですか。

エルドリッヂ きっかけはある小学生との会話でした。当時は日米貿易摩擦問題があり、「なぜアメリカ人は日本人を嫌いなのか」と聞かれたのです。そう思う理由を尋ねると、「メディアがそう伝えているから」だと言います。それで日米関係に影響を与えるメディアの役割を研究しようと思ったのです。

佐藤 人生を変える出会いですね。
エルドリッヂ そうなりました。他にも95年の阪神・淡路大震災を機に日本の防災や危機管理について、また沖縄米兵少女暴行事件があり米軍再編の議論がある中、沖縄研究も始めました。米国海兵隊で政策提言や実行の仕事にも関わりました。現在は研究所を立ち上げ、日本国内の問題を調査、執筆しています。

佐藤 今年は沖縄祖国復帰50周年を迎えましたが、コロナの影響もあり沖縄は静かでしたね。日本国内の問題とは具体的にどんなことを。

エルドリッヂ 地方創生、少子化、人口減少、人材育成、大学改革です。一例を挙げると、日本では東京一極集中が進んでいますが、地方に元気がなければ国は元気になりません。防災の面からも、今もし関東大震災規模の地震が東京で起きたら日本経済や社会は崩壊します。企業も政府も大学も地方に分散するべきです。

佐藤 地方にも若くて元気な起業家はいますし、彼らの活躍が日本社会に活力を与えます。昨今は働き方も多様化していますし、東京一極集中から脱したいですね。

日本が主権を守るため脱中国の関係づくりを

佐藤有美とロバート・D・エルドリッヂ
佐藤有美とロバート・D・エルドリッヂ

佐藤 ロシアのウクライナ侵攻があり、日本への影響も心配です。

エルドリッヂ この戦争でロシアが悪い、ウクライナが正しいと決めつけるのは賢くありません。報道も、ロシアの侵略には批判が出るのに、米国の侵略は批判されません。NATOの拡大も言われますが、1990年以降の14カ国は、主権国家として自ら望んで加盟してきた国ばかり。しかし、ロシアからすると西側の勢力拡大と映るのでしょう。

佐藤 双方の立場がありますしね。

エルドリッヂ 加えて「ウクライナはNATOに加盟できる」という誤ったメッセージや、ロシア侵攻に際し米国のバイデン大統領の「ウクライナに派兵しない」という発言も抑止力を崩す原因となりました。制裁も科されていますが、実際のところ効いていないようです。

佐藤 それでも輸出入の制限などの制裁はロシアの一般国民の生活を脅かしますし、制裁する側にも影響が出ます。今後の米国の関与は。

エルドリッヂ 米国はこの戦争を泥沼化させ、ロシアの弱体化とプーチン政権の転覆を狙っているのでしょう。根拠として、最新の武器を投入したり、国際社会で協力して停戦合意、平和交渉すれば戦争は終結するのに、そうしないからです。いわば代理戦争。とはいえ、大勢のウクライナ人が犠牲となり、ロシアも弱体化していません。もしプーチン政権が転覆しても、より凶悪な人間が独裁政権を立てるかもしれません。

佐藤 ロシアの狙いとは。

エルドリッヂ 真意は分かりませんが、誤算はあったはずです。一つは、ウクライナ侵攻によりNATOの団結と拡大につながったこと。中立国だったスウェーデンとフィンランドも加盟を表明しました。今後は国際社会で孤立し、経済大国となった中国への依存度を増していくでしょう。中国とは同盟関係にありますが、ロシアは属国のようです。

佐藤 北朝鮮や韓国については。

エルドリッヂ 北朝鮮は軍事力を年々増しており、軽視できない存在になっています。2024年の米国大統領選でトランプ氏が再選すれば、北朝鮮問題に再び取り組むでしょう。日本も今から対応の準備を整えておくべきです。韓国は尹政権になりました。日本は外交でも人間性を重視しますが、人を信頼しすぎると騙されます。正しいことは堂々と主張するべきです。韓国は感情論を押し付けてきますが、尖閣諸島を取られれば日米同盟の解消、沖縄米軍の撤退につながります。すると、中国(尖閣)、ロシア(北方領土)、韓国(竹島)で対日同盟関係ができます。

佐藤 日本には脅威ですね。

エルドリッヂ 最大の脅威は中国です。中国との戦争は既に始まっています。戦争は軍事戦だけでなく、政治戦、情報戦もあります。中国は日本を孤立させ、発言力、経済力、防衛力を最小限にしたいのです。唯一の同盟国である米国をアジア太平洋地域から追い出そうとしています。

佐藤 日本が主権を守るために、どうすればいいのでしょう。

エルドリッヂ 中国との経済や貿易関係を切り離すことです。今年は日米安全保障条約(旧安保)ができて70年。今はさらに新しい安保が必要な時に来ています。

ロバート・D・エルドリッヂ
ロバート・D・エルドリッヂ