経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

東大発ベンチャーが手掛けるエレベーターのデジタル広告

羅悠鴻 (株)東京

シリコンバレーで起業し、ベンチャー企業や投資家情報を武器に活躍するハックジャパンCEOの戸村光氏。本連載では、同氏が独自の視点から注目する企業を毎回取り上げ、その事業戦略や資金調達の手法などを解説する。今回は、エレベーター広告事業を手掛ける株式会社東京の羅悠鴻社長だ。(雑誌『経済界』2022年8月号より)

羅悠鴻 (株)東京
羅悠鴻 (株)東京

天文学に貢献するためにイーロン・マスクを目指す

 「自分は令和版遣唐使である」

 そう語るのは、エレベーター広告事業を手掛ける株式会社東京の羅悠鴻社長だ。同社は都内を拠点に約1500台のエレベーターにデジタル広告を搭載しており、その広告事業を収益源としている。2021年11月時点で6千社の社員にリーチすることができ、月間売り上げは2千万円。対前年比1000%で成長しており、現在は7月までの広告が完売状態にあるという。また羅社長は*Forbes 30 Under 30に選出されており、世界的にも注目される起業家である。

 羅社長の父親である羅志偉氏は中国から国費留学で、ロボット開発の研究をするために来日した。現在は神戸大学大学院の教授を務める。また母親はシステム開発のエンジニアだ。

 羅社長は日本で生まれ、幼少時から両親に天文台や科学センターに連れていってもらい、そこで天文学に興味を持ち始めたという。その後東京大学に進学。大学では、「はやぶさ2」に搭載した光学航法カメラを開発したことで知られる杉田精司教授の元で天文学を研究した。

 羅社長が特に興味を持ったのは、惑星探査。しかし研究開発費用は1千億円を超える。仮に自分が首相になったとしても、その予算は到底捻出できないことに気づいた。自身の研究を進めるには、イーロン・マスクのように起業家として成功を収めるほか手段がない。そこで起業を決意する。

 羅社長はビジネスアイデアを探る時に中国に行くという。中国のテクノロジーは日本よりも進んでおり、成長する中国企業を調査することで、次に日本市場で何が流行るのかを予測することができるからだ。

 ある日、日本に帰国後、東大の研究室に立ち寄った羅社長。エレベータに乗ると壁が張り紙だらけだったことに、違和感を感じたという。中国都心部のエレベーターではデジタル広告が普及していたからだ。羅社長はこの時、エレベーター広告事業に起業家として挑戦しようと決意した。

ゴールドラッシュ時代のつるはし屋に学ぶ

 1848年、アメリカカリフォルニア州でゴールドラッシュが始まった。わずか1千人が暮らす小さな街であったサンフランシスコは翌年2万5千人の都市へと成長した。

 世界各国から金を掘り当てるため労働者が集結したが、金を掘り当てられる人はごくわずかで、命を落とすリスクもあった。しかしながらそんな中、一攫千金した業者がある。それは採掘者に対してインフラや生活必需品を提供した者たちだ。採掘者のための汚れても洗いやすい素材のデニムをつくった会社は、現在の若者がこぞって買うリーバイスに成長した。サンフランシスコに向かう採掘者のための鉄道を引いたセントラルパシフィック社の代表は後にスタンフォード大学を設立した。

 現在日本で急成長する市場はSaaS領域だ。そのSaaS会社がVCから巨額マネーを調達した後、自らのサービスを知ってもらうために広告宣伝費に資金を投入する。羅社長は、ゴールドラッシュ時のつるはし業者のように、成長する企業が利用する広告サービスおよび周辺サービスを主軸に㈱東京を成長させようと考えた。

 もっとも創業当初の2年間の売り上げはゼロ。苦戦の毎日だった。デジタル広告をエレベーターに導入する場合、ビルのオーナーに改修工事費用の負担は一切ないにもかかわらず、相手にされなかったという。しかし、ソニー元会長であり、先日お亡くなりになった出井伸之氏、ヤフー社長の小澤隆生氏など、日本を代表する投資家から資金調達したことを皮切りに、ビルのオーナーや不動産デベロッパーの対応が変わったという。

 そこから納入実績を増やしていき、2019年に三菱地所と合弁会社を設立したことでさらに加速、現在までの累計導入数は1500を超えた。

「令和版遣唐使」の意味するもの

進撃のベンチャー_特集
進撃のベンチャー_特集

 冒頭の言葉に戻ろう。

 飛鳥時代から平安時代にかけて、日本は遣唐使を中国に送り、当時の最先端の技術を学び、日本に持ち帰った。それと同じように、自分が令和版遣唐使となって中国のテクノロジーを日本に取り入れ、日本の発展に貢献したいという願いがこの言葉には込められているという。現在の主力事業はエレベーター広告事業だが、今後はメタバースやWeb3にも展開していく方針だ。

 筆者が渡米した13年は、日本を代表する企業がこぞってシリコンバレーへと駐在員を派遣して、流行りのテクノロジーを調査する時代だった。しかし時代の潮目は中国に向かいつつある。AI技術、ハードウエア、メタバース、これらの領域は中国を無視しては語れない時代となってきた。

 遣唐使が海を渡った時代から1400年を経て、われわれはまた〝中国からテクノロジーを取り入れる〟そんな時代を迎えている。

 「中国企業は日本の製品をすぐにパクる」。そんな言葉が飛び交う時代は既に終わった。そのことにわれわれは気づかなければならない。

*Forbes 30 Under 30:Forbesが発表する世界を変える29歳以下の30名のアワード。