ゲストは、小児科医で参議院議員の自見はなこさん。新型コロナ発生初期に大型クルーズ船での水際対応にも尽力しました。現在は子どもの成育や子育て支援を行う「こども家庭庁」創設に向けて活動しています。自見さんが思い描く子どもを真ん中に置く社会の姿とは。聞き手&似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=市川文雄(雑誌『経済界』2022年9月号より)
子どもを社会の真ん中にこども家庭庁は時代の要請です
佐藤 医師だった自見さんが2016年に政治家になられたのは、元郵政・金融担当大臣のお父さま(庄三郎氏)の影響か何かですか。
自見 小学生の時に父が勤務医から国会議員になり政治は身近でしたが、当時は政治家には一生ならないと思っていました。父のキャリア終わりの4年間だけ鞄持ちをしたのが政治に関わった最初で、午前中は小児科医をして、午後は父の仕事を手伝っていました。転機は虎の門病院での当直中にかかってきた1本の国際電話です。アメリカに住む女性から日本に留学中の娘さんの医療相談があり、私が対応したところ感動して泣かれたんですね。その女性が加入する保険では、夜間に電話で医療相談も来院もできないのに、日本はなんて良い国なんでしょうと。
佐藤 日米の医療制度の違いが分かるお話ですね。
自見 それで頭をガンと打たれた気持ちになって。日本では患者さん2人が来院し、保険の種類で片方は診療を受けられて、片方は受けられないということはありません。1961年に始まった国民皆保険制度があるからです。この制度を守るには私が政治家になり、次世代に渡していく責任があるという使命感に駆られ、38歳で全国区の医師会の候補者となり、40歳で初当選しました。
佐藤 運命に背中を押された感じですね。そんな世界に誇る日本の医療がコロナ禍で崩壊寸前に陥りました。自見さんは新型コロナ感染初期のダイヤモンド・プリンセス号で対応の陣頭指揮を執られましたね。
自見 乗客・クルー合わせて3700人が乗船する中、私は厚労省政務官として感染症の専門家らと一緒に、20年1月下旬から全員が下船した3月1日まで対応に当たりました。まだ新型コロナがどんな感染症なのか分からない頃でしたが、船のキャプテンが強いリーダーシップを持ち、乗客やクルーを気遣う優しさもあり安心できました。クルーもホスピタリティにあふれ、検疫業務にも協力してくれて、関わった全員の動きが素晴らしかった。私は一人一人が国民栄誉賞ものだと思っています。
佐藤 そうした対応が評価され、イタリアから星勲章が授与されました。
自見 ありがとうございます。結果として700人が感染し、13人が亡くなられたことはお悔やみ申し上げますが、船内の感染対策は本当にしっかり取れていました。
佐藤 当時、メディアでは連日「恐怖の船」といった報道がなされました。お陰で非日常を楽しむ優雅なクルージングのイメージは壊れ、業界も大打撃を受けました。
自見 ある時、船にやってきた某教授が船内を2時間だけ見て回り、「感染コントロールが全くできていない」という実情とは異なる発言を世界に発信してしまって……。残念でしたね。厚労省として広報官を置き、世間に正しい情報を伝えられればよかったと悔やまれます。
佐藤 それでも危険と隣り合わせの初期対応には感謝しかありません。本当にお疲れさまでした。
国民皆保険制度のように次は子育てを社会化する番
佐藤 こども家庭庁創設に向けて主導的な立場で活動されています。
自見 こども家庭庁は時代の要請です。社会の真ん中に子どもを置き、縦割りの医療、療育、教育、福祉に横串を刺し、庁に権限を持たせて子どもや子育てを支援していきます。その前段階として、18年5月に超党派の成育基本法推進議員連盟を立ち上げ、私が事務局長となり、12月に「成育基本法」を成立させました(19年施行)。19年に私は厚生労働大臣政務官になり、子ども担当、労働担当、コロナに際しては医療担当も任されました。超党派で若手の勉強会なども開いています。
佐藤 議員立法の「成育基本法」の成立までが早かったですね。
自見 子どものために水面下で動いたんです。社会のしわ寄せを受けるのは子どもと女性ですから。子どもの自殺は統計史上最多の約500人となり、シングルマザーの貧困率も50%超です。こんな先進国は他にありません。現在は世帯所得が減ってお母さんも働かざるを得ないのに、子どもが熱を出しても会社を休めず、古い価値観を元に母親は家事をやれと言われるのが現実です。
佐藤 女性が活躍するための環境整備や少子化対策が弱いですよね。
自見 少子化の最大の理由は晩婚化です。早めに結婚してもらえれば出生率は回復しますが、今は結婚が生活を圧迫するリスクになります。勉強会で山田太郎議員と共同で行ったアンケートで4万8千件の回答があり、教育に対する声を多数頂きました。例えば塾は費用負担が大きく、22時まで通わせるのは子どもがかわいそう。学校教育の質を上げてほしいとか。アメリカでは親と一緒に夕飯を食べて21時には寝られる環境です。これは学校教育の質が高いから。こうした問題をこども家庭庁でも解決していきます。
佐藤 女性が子どもを産める期間は限られています。その機会損失は防ぎたいですよね。
自見 産める環境さえ整えば、女性は産みたいと考えます。教育費が無償なら、税制面で優遇されるなら、と。日本は国民皆保険制度をつくり、現在は介護も社会化されました。今後は子育てを社会化する番です。
佐藤 子どもは国の宝。これを言葉で終わらせないためにも、こども家庭庁の創設、応援しています。