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最終選考で落ちた就活生を他企業に推薦学生の「頑張り」を評価するサービス ABABA 久保駿貴

金の卵_久保駿貴 ABABA

最終選考で落ちてしまった就活生を別の企業に推薦することで、学生のそれまでの努力を無駄にしない。そんな仕組みを生み出したのが久保駿貴氏。学生と企業のための就活マッチングアプリ「ABABA(アババ)」の魅力とは。文=吉田 浩(雑誌『経済界』2022年9月号より)

金の卵_久保駿貴 ABABA
金の卵発掘プロジェクト2021審査員特別賞受賞
久保駿貴 ABABA CEO
くぼ・しゅんき 1997年生まれ。兵庫県出身。2021年岡山大学理学部卒業。在学中に複数の事業を立ち上げ、20年10月にABABAを創業。翌月に採用できなかった学生を企業間で推薦しあうプラットフォーム「ABABA」をリリース。第17回キャンパスベンチャーグランプリ(CVG)全国大会で経済産業大臣賞、第5回価値デザインコンテストでSDGs日本賞など、受賞歴多数。

最終選考で落ちた就活生が「次の一歩」を踏み出す支援

 何カ月もかけて取り組んできた就職活動の最終面接が終わり、期待に胸を膨らませたのも束の間、「今後のご健闘をお祈りいたします」――不採用を通知するいわゆる「お祈りメール」が届き脱力。毎年、多くの学生がそんな経験をする。それまでにかけた時間と労力が無駄になり、また別の企業に一からエントリーし直さなければならない。学生にしてみれば「だったら最初から落としてくれ」と嘆きたくもなるだろう。

 それでもチャレンジを繰り返せる気力があればまだ良い。今や7人に1人が過酷な就活で精神的に病んでしまう「就活鬱」に陥ると言われており、それが原因の自殺者も年間200人近くにのぼるという。学生の焦りや不安を増幅させるのは、新卒一括採用という日本独自のシステムによるところも大きい。周囲の学生がどんどん内定を獲得する一方、自分はなかなか決まらない。そんな中、やっとこぎ着けた最終選考で無慈悲に落とされれば、平常心でいるほうが難しい。

 ABABAは、そんな学生たちの苦労を少しでも軽減したいという久保駿貴氏の思いから生まれた。同氏が学生時代、友人がようやく最終面接にまでたどり着いた企業から落とされ、しばらく引きこもりのような状態になってしまったのを見て着想したサービスだ。

 企業としては、優秀な学生でも自社の選考基準に合わないという理由で、やむなく採用を見送るケースはよくある。ABABAに登録した企業は、そうした学生を他の企業に推薦することで、学生の再チャレンジを支援することが可能となる。最終選考まで残った学生は優秀である可能性が高いため、推薦された企業にとっても一から選考プロセスを踏む手間が省ける。つまり、優秀な学生を登録企業同士で紹介しあうシステムだ。学生にとってもそれまでの頑張りが認められた形になり、他の企業にエントリーし直す負担を減らせるメリットがある。

 「最終選考で落ちても、次の一歩を踏み出せる仕組みは必要だと思います。いわゆる高学歴の人が挫折を味わって就活鬱に陥るパターンは多い。そのことで、日本を支える貴重な人材を失っているのではないかと思ったんです」と、久保氏は語る。

 最終選考の案内メールなどを提出すれば学生自身でABABAに登録ができるが、ABABAのことを知らない場合も、選考を受けた企業からの案内を受けて登録することができる。良心的な採用担当者にとって、味気ないテンプレのお祈りメールを出すのは心苦しいものだ。消費者として自社のファンだった学生が、落選によってアンチに変貌してしまう可能性もある。そうしたリスクを回避するという面でも、ABABAへの登録を推奨することで学生を支援する姿勢を明確にできるのは、企業にとっても意義が大きいだろう。実際に、「人材獲得ではなく、学生を応援する目的のみで登録している企業もいる」と久保氏は話す。

優秀な人材の循環を生み、地方や無名の企業にも貢献

金の卵_ABABA_HP
金の卵_ABABA_HP

 ABABAを立ち上げる前、久保氏は訪日観光客にガイドをマッチングするサービスや、ファン発信型のクラウドファンディングなどの事業を展開していた。特に起業家になりたいというわけではなかったが、人々が困っていることを解決したいという思いを抱いているうちに、自然と事業を手掛けるようになった。

 ABABAのアプリ開発は基本的にリリースまでは1人で行った。開発は全くの素人だったが、コーディング技術がなくてもプロダクト開発ができるノーコードのプラットフォーム利用が海外で流行っていると知り、自分も挑戦することにした。

 「1日8時間を開発に費やし、体にじんましんが出てくるほどでしたが、実際に着手してから2カ月で作り上げました」と振り返る。リリース後に果たしてうまく稼働するのか、不具合が出たらどうしようかという不安は大きかったが、特に大きな問題は出ず、順調なスタートを切った。

 企業からはアプリを使用したいという声が当初から上がっていたため、需要面での心配は大きくなかった。一方、学生に対しては「最終選考で落ちた」という声をSNSで拾って一人ずつ声掛けしたり、知り合いのつてをたどったりして地道に登録を増やしていった。リリースから約1年半たった現在、登録企業者数は400社以上、学生数は1万人以上に達している。昨年度は、35人の学生が企業とのマッチングから採用決定に至った。マッチングはしたが、採用には至らなかったケースも含めると「大体10~15人に1人の割合で採用が決まっている」(久保氏)という。

 学生からは「周りが内定をもらって落ち込んでいた時にオファーを貰っただけでもうれしかった」「最終で落ちるとすべてが水の泡になる就活において画期的なシステム」といった反響が届いており、退会する際に運営サイドにお礼を言って出ていく人もいるとのことだ。

 今後は登録企業と学生の数を増やしていく傍ら、蓄積した学生と企業のデータを生かして次の展開も視野に入れる。

 「例えば、過去の実績からマッチングしやすい企業同士を割り出したり、学生の性格によって受かりやすい企業と落ちやすい企業を分析してレコメンドしたりといったことができるようになるでしょう。企業と学生が無駄な時間を割くことがないよう役立ててほしいと考えています」

 サービスが広がることで、無名の優良企業や地方企業にも良い人材の循環が生まれることが期待できる。学生と企業の双方が幸せになれるシステムとして、利用が広がっていきそうだ。