経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

見据えていたのはコロナの先和食グループは次世代へ SRSホールディングス 重里政彦

「和食さと」、「にぎり長次郎」など、和食を中心に多種多様なカテゴリーをもつSRSホールディングス。外食産業各社はこの2年間、コロナ禍で苦しんできたが、SRSは2021年に新業態を展開するなど、攻めの姿勢を貫いた。同社を率いる3代目社長、重里政彦氏に話を聞いた。聞き手=浅野 晶 Photo=藤岡修平(雑誌『経済界』2022年9月号より)

重里政彦 SRSホールディングス社長
しげさと・まさひこ 1968年生まれ。東京大学を卒業し、トーメン、アリスタライフサイエンスを経て2008年サトレストランシステムズ社長室長。10年取締役、14年副社長を経て、17年4月社長に就任。同年サトレストランシステムズは持ち株会社制となり、SRSホールディングスの下にサトフードサービスなどがぶら下がる形となった。

顧客ニーズに合った業態開発と組織構造

―― 新型コロナウイルスの影響はいかがでしたか。

重里 久しぶりに「これはまずいかもしれない」と思いましたね。過去に売り上げが激減したのは、リーマンショック、東日本大震災、そして今回です。ただ、感染拡大防止のための協力金が大企業も対象になってからは、アフターコロナに向けて注力することができました。ちなみに、過去2年の売上高は、本来見込んでいた数字の2割減で済みました。

―― 打撃を比較的抑えられた要因はどこにあると思いますか。

重里 ビジネスモデルについて、私が10年以上社員に宣言し続けていることがあります。それは、贅沢食ではなく、よりカジュアルな普段使いのできる日常食にシフトしていくことに加え、中食需要も視野に入れた業態にシフトしていくことが重要であるということです。

 当社の各業態はテイクアウト等の中食需要の取り込みは、得意ではありませんでしたが、コロナ以前から中食需要が伸びていた事実がありました。女性の社会進出などの流れから、外食と中食を一つのマーケットとしてとらえる必要がある、そして当面そのマーケットはシュリンクすることはないと見ていました。実際コロナ禍でもとんかつの「かつや」、てんぷらの「天丼・天ぷら本舗 さん天」などはテイクアウト・デリバリー売り上げの獲得により好調でしたし、今も伸びています。当初、外食担当のメンバーはテイクアウトのマーケットに注力することをやや後回しにしていましたが、コロナでその重要性を理解することができました。中食に特化した新たな業態「サトマルシェ」も2021年に始め、今後の展開が楽しみです。

 もうひとつ、酒類に頼らないことが大きく影響しました。飲みにケーションや大人数での忘年会は減少しています。アルコール比率の高い業態を縮小していたこともあって、コロナによる売り上げへの大きなダメージは避けられたように思います。

―― 社長就任から5年になります。会社は変わりましたか。

重里 就任は創立50周年を翌年に控えた17年でしたが、変化を実感したことはほとんどありませんでした。というのも、入社した08年から会社の重要な役割を担っているという責任感を持っていたからです。6月に入社、9月にはリーマンショックです。振り返るとこれが最もしんどい山だったように思います。

 前職が商社だったため、当時の社長である兄は、私に仕入れや海外事業のテコ入れをさせるつもりだったと思います。ところがリーマンショックがきっかけで、当時、主力事業であった和食さとは業績が悪化、立て直しを命ぜられたのです。

 会社には借金がありましたから、時間的猶予はなく、これ以上業績を落とすわけにはいきません。約半年間かけて全店長と本社社員に1対1で面談をし、現状認識を行いました。付け焼刃で売り上げを上げるよりも、長期的にアクションしていくための組織固めが重要だと判断したのです。最初は警戒心を示したり、遠慮している社員もいましたが、次第に正直に話してくれるようになり、問題が明確になってきました。

―― 何が問題だったのですか。

重里 チャレンジしづらい組織体制が見えたのです。面談で、良い意見やアイデアを持つ主力メンバー候補となりうる30代の社員が何人かいることが分かりました。「これならやれるんちゃうかな」とビジョンを描けたことはうれしい誤算でした。

従業員のオーナーシップが会社を育てる

―― どのように変えたのですか。

重里 最も大切なことはオーナーシップです。意欲や構想はあっても、上長の指示や許可がなければアクションしにくい環境でした。それを自分で考えて動かしていく気持ちにさせる。自由に行動することには結果に対する責任が伴います。その重みを経験できる機会を与えました。チャレンジできる組織にするために、例えば上司を総入れ替えするというような厳しい組織変更も必要でした。

―― 思い切った改革にはエネルギーが必要です。

重里 外から入った人間だからこそできたように思います。よく言われるのは、6カ月組織にいれば情が湧いて厳しい改革はできなかっただろうということ。状況は危機的だったので、気持ちは重くならず、スピード感を持って改革に取り組めた印象があります。リストラなどの痛みを伴うことなく雇用を守れました。

 よかったのは、創業家の強みで、多少の社内からの反発や抵抗があっても進められたことです。裏ではいろいろあったようですが(笑)。

―― 大切にしていることは?

重里 従業員が、共通の目的に向かって前に進めるかどうかです。意見が違う時に何度も話し合い、肚落ちして会社を良い方向に進められるか。17年に分社化したのも、自らチームビルディングできる社長をたくさん作りたかったためです。売り上げ規模にかかわらず社長は大変です。それぞれがオーナーシップを持ちながら努力するほど価値のあることはありません。最後は「人」です。

―― 組織で目的を共有するには?

重里 リーマンショックの時は、危機的状況を共有できたため、目的を明確化しやすかったといえます。中途半端にうまくいっていると、皆の考えがバラバラになりやすいです。

 目的に向けて想いを持っている人は社員だけではありません。店舗で働くパートさんには、本当にお店を愛してくれている方もいる。そういう方に正社員になっていただき、店長としてお店をお任せしました。

―― 世界情勢や物価高など楽観できない状態が続きますが、どのように見据えておられますか。

重里 食材の高騰による代替やメニュー作りの工夫などは、過去の経験からクリアできると思っています。私が懸念しているのは、秋以降に予想される、食材、生活物資に加えた電気代高騰による一般家庭での消費の下落です。エネルギー価格の高騰等による物価上昇に対してはもう一度戦略を見直す必要がありそうです。

 そのような中でも変わらないのは、お客さまの目線を常に持ち続けること。マーケットインの発想で、価格優位性を保つための努力をし続けるということです。外部環境が変化しても、生産性向上、仕入れの工夫、オペレーションの見直しなど、やるべきことをやり続けていくには、お客さまに必要とされる存在であることが起点だと考えます。