経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

暑い夏こそなくてはならない。日本の文化〝花火大会〟【特集 猛暑こそチャンス】

特集_森田金清 熱海温泉ホテル旅館協同組合

新型コロナウイルスが流行し始めてから、まん延防止措置や緊急事態宣言などにより、娯楽や旅行の機会が多く失われた。今年は久しぶりに行動制限のない夏を楽しめる。夏といえばやっぱり花火。夏の風物詩である「花火大会」は過去2年、全国的に中止に追い込まれたが、今年はどのように行われるのだろうか。聞き手・文=萩原梨湖(雑誌『経済界』2022年9月号より)

特集_熱海_hanabi-18s(切り抜き)
特集_熱海


参加者と地域住民、誰もが安心して花火を楽しめるように

 2020年、21年は新型コロナウイルスの影響により各地で花火大会が中止された。

 毎年約95万人が訪れる関東随一の花火大会、「隅田川花火大会」や35万人が訪れる「びわ湖大花火大会」も2年続けて中止しており、3年目の今年も中止との発表があった。

 隅田川花火大会は95万人の観客が集まるに際して、チケットや座席での入場者管理ができないことが中止の理由の一つだそうだ。またどちらの花火大会も地域住民への配慮を最優先にした結果だ。

 一方で行動制限がかからない今年は復活する花火大会も少なくない。

 8月6日に開催される千葉市の「幕張ビーチ花火フェスタ」は市民限定無料招待で2万人の募集を行った。会場には2万人分の座席が設けられており、対人距離を確保することができる。市民限定ということなら地域住民も安心して来場することができるし、千葉市民だけの特別感も感じられるだろう。もちろんライブ配信も行われるため、千葉市民以外も楽しめる。

 和歌山県の南紀白浜では今年「SHIRAHAMA2022花火ラリー」が行われる。1回約800発の花火が夏の間計6回行われる小規模分散型花火大会で、「白浜花火大会」という大規模な花火大会が中止になった和歌山県としてはうれしいイベントだ。

 今年はこのように観客の分散や人数制限など、各地で工夫をこらしながら、花火大会を復活させようとしている。花火大会は夏のイベントに欠かせないものだが、地域経済にとっても重要な役割を果たしている。

 新潟県の長岡市では今年3年ぶりに長岡まつり大花火大会が行われる。長岡市によると、毎年100万人が訪れるこの花火大会が19年に新潟県に及ぼした経済効果は84・3億円。準備費は花火玉の購入を含む「花火行事費」、「会場設営費」、警備や案内にかかる「安全対策費」などその他を合わせて4億円。これだけの費用でその21倍の経済効果を生むのだから、花火大会は地域の活性化や経済状況の向上に不可欠であることが分かる。

 今年復活した花火大会の一つに「熱海海上花火大会」がある。熱海にとっても花火大会は、地元の観光業を活気づけるための最重要イベントだ。今年は7、8月に6回、9月に1回、11、12月に3回開催される。

 この花火大会は、1950年に起こった熱海大火という火事の鎮魂を目的として始められ現在に続く。火災当時は住宅や旅館、商店、消防署など、建物979棟ほどが焼失、市街地のおよそ4分の1が消滅した。その後復興に向けた地元市民の努力は続き、復興と努力に報いるべく52年に花火を打ち上げたのが始まりだ。それが今日まで受け継がれ、1年を通して開催される花火大会となり、多くの人に親しまれている。

 熱海の花火は、熱海市観光協会と熱海温泉ホテル旅館協同組合とで主催しており、組合には熱海の中心地にある60件ほどの旅館が加盟している。

 「これらの旅館の中には泊まった部屋から花火を鑑賞できるプランもあり、この花火大会を目当てに来る観光客が多い」。こう語るのは熱海温泉ホテル旅館協同組合の理事長、森田金清氏。

 森田氏は今年の夏、花火大会の人出が完全に戻ることを切実に願っている。

特集_森田金清 熱海温泉ホテル旅館協同組合
森田金清 熱海温泉ホテル旅館協同組合理事長

「花火があるから泊まりたかった」今年は期待に応えたい

―― 昨年、一昨年とコロナ禍で花火大会ができませんでした。影響は大きかったですか。

森田 はい、非常に大きかったです。一昨年は全国的に中止で、昨年は開催するはずだったんですが、花火大会の時期にまん延防止措置が発令されて、やむなく中止にしました。苦渋の決断でした。そこで10月から今年の1月までに5、6回振り替えて実施しました。

 私の経営する旅館には花火目当てで宿泊してくださるお客さまが多くいらっしゃるんですけど、その方たちに「ごめんなさい。こういう事情で花火はできなくなっちゃったんです」と伝えると、半分以上のお客さまが残念ですけど次回にします、と言ってキャンセルされました。

 海に面していて花火が鑑賞できる部屋で、少しお値段の高い花火料金というのがあるんですけど、それを平日料金に下げます、と言っても、「花火があるから行きたかったので今回は取りやめます」という方がたくさんいました。

―― 今年は夏の花火が復活します。どのくらいの人出を見込んでいますか。

森田 会場の収容人数が3万5千~4万人くらいですので、毎回の花火大会が満員になると思います。

 会場には地元の飲食業の方々の中から抽選で選ばれた10店だけ屋台を出すんですが、それがあることでより盛り上がるはずです。コロナが流行りだしてから会場での屋台販売は一切なしにしていたんですが、お客さま側も盛り上がるし、屋台側も売り上げがいいので今年からは今まで通りやろうと思っています。

―― 熱海の花火の魅力は。

森田 熱海の花火は三方向が山に囲まれていて音がサラウンドしますし、宿の部屋からも眺めがいいということで大変好評を得ています。

 今年は海岸線の端から端にかけて約3万発花火を上げます。ナイアガラという滝を表現した仕掛け花火も行うので非常にダイナミックな眺めになると思います。

―― 宿泊客は戻ってきましたか。

森田 ゴールデンウイークで言えば人出も売り上げも完全にコロナ前に戻りました。でも大型連休を除いた平日休日を合わせるとまだコロナ前の1、2割減という感じです。

 夏の週末はほぼ埋まっていて順調ですが、平日はもう一歩というところです。7、8月は週末の予約が埋まるのが早いんですよ。花火料金の部屋の予約もすでに埋まっています。

 今年はまだ海外旅行に行く人は少ないでしょうから、われわれにとっていいフォローとなることを期待しています。何しろ、熱海は都心から沖縄や北海道へ行くときとは違い、準備にも移動にも時間がかからないから、週末の休みだけですぐに行くことができます。

 場合によっては日帰りでも行けます。若い人なんかはスイーツを食べ、丼ものを食べ、それで満足して帰っていきます。われわれとしては宿泊してくれないと売り上げが立たないので、できれば泊まっていってほしいですね。でも、旅行の再開やお試しにはちょうどいい観光地だと思っています。思い立ったら、ぜひ熱海に足を運んで花火を楽しんでいただきたいと思います。