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猛暑の「常態化」で笑いの止まらぬ夏の家電業界【特集 猛暑こそチャンス】

特集・エアコン

梅雨が明け、猛暑到来とともに熱中症患者が増えている。熱中症の多くは屋外ではなく室内で起きる。それを防ぐには冷房が必須なのだが、今年は半導体不足によるエアコン不足が懸念された。商品は無事、消費者の手に渡ったのか――。文=関 慎夫、小林千華(雑誌『経済界』2022年9月号より)

特集・エアコン

エアコンより足りない設置工事業者

 「1日4、5軒回ってエアコンを設置しているけれど、とても回り切れない」とうれしい悲鳴を上げるのは、都内のある電気店。この店ではエアコンの小売りも行うと同時に、家電量販店などで販売されたエアコンの設置工事を行っているが、6月下旬の段階で、既にお盆過ぎまでの予約が埋まっているという。

 気象庁が今年の夏は猛暑になるとの長期予報を出したのは5月末のこと。その段階で早い梅雨明けと厳しい暑さの可能性を指摘していた。その予想は見事に的中したわけだが、その頃から、エアコンの売れ行きは加速し始めた。

 同時に心配されたのが、エアコンの品不足だった。新型コロナウイルスの流行による上海のロックダウンとロシアのウクライナ侵攻により世界のサプライチェーンは寸断された。それもあって半導体不足が深刻化、それがエアコン製造にブレーキをかけるのでは、と見られたのだ。

 ただし、7月初旬現在、その心配は杞憂だったようだ。家庭用エアコン国内2強の一角、パナソニックでは、「上海のロックダウンや半導体不足に影響は特になく、計画どおり出荷できる状況となっている」(広報センター)。もう一角のダイキンは、上海に工場を持っているが、「早めに手を打ってきた」(広報部)ため、遅延は出ていないという。

 一部のメーカー、商品では、半導体不足の影響を受けたものもあるようだが、前年モデルなどでやりくりした結果、おおむね購入希望者全員に行き渡っているようだ。

 大手量販店によると、売り上げは昨年比で2割以上伸びている。通常、エアコンは梅雨明け前後から動きが活発化するが、猛暑予想と、それに伴いエアコンメーカーが「早めの準備を」と呼び掛けたこともあって出足がよく、しかもその後、本当に猛暑が来たことで、勢いを増している。
家電業界にとっては「恵みの夏」となっている。

 コロナ禍は多くの業界に傷跡を残したが、実は家電業界は、むしろ恩恵を受けている。空気清浄機は爆発的に売れたほか、部屋の空調に気を使う人も増え、エアコン購入に際しても除菌機能を持つ、高機能・高価格品の売れ行きがよかった。

 そしてこの猛暑である。しかも最近の気候変動を考えると、猛暑の夏が常態化しつつある。今後も、夏が来るたびにエアコン商戦は活況を呈することになりそうだ。

通信販売事業者も意気込みを見せる夏

 この好況を喜んでいるのは家電量販店だけではない。通販業界でもエアコン商戦に各社が参入し、しのぎを削っている。

 ジャパネットたかた執行役員である千々岩俊介氏によれば、同社は毎日生放送のテレビショッピングという業態を生かし、予測のつかない状況で日々変化する顧客のニーズを測っているという。

 「毎日番組を放送し、それに対する消費者の方々からの反応がありますから、求められている商品を提供できていないと感じれば、すぐに修正できる点が強みです」

 前述の通り、各社が設置業者の手配に追われる中でも、ジャパネットたかたは閑散期の間に全国の設置会社に営業を行ったことが功を奏し、大量需要に応える態勢ができた。

 過去に例を見ない猛暑の夏が、いよいよ本番を迎える。今や生活必需品となったエアコンの需要は増すばかりだ。この流れに対応するべく、家電業界の奮闘は続く。

千々岩俊介 ジャパネットたかた執行役員

千々岩俊介 ジャパネットたかた執行役員

需要に応え 常に先手を打つ

―― 例年夏のエアコンの売り上げは、冬と比べていかがでしょうか。

千々岩 夏が高いです。冬の寒さはストーブやこたつでも防げますが、やはり夏の暑さをしのぐには、エアコンがメインになります。

 エアコンの売り上げは、例年であれば、梅雨が明け、気温が30℃を超えた頃に伸び始めるのですが、今年は半導体不足や猛暑予想などの情報を、消費者の方々も敏感に察知されていたのか、5月中旬から順調な売れ行きでした。特に先月は、われわれも「6月にエアコンがこんなに売れるのか」と驚くほどでした。

 また、冷夏と今年のような猛暑の夏を比べると、1・5~2倍ほど売り上げに差がつきます。気温と売り上げには強い相関関係がありますね。

―― この夏に向け、どういった販売戦略を練ってこられましたか。

千々岩 昨年冬から、今年の夏のための商談を進めていました。いつも、メーカー側の意向も踏まえ、販売台数や機種など、具体的な仕入れについて検討します。ただ今年はその戦略を立てた後、3月からの上海ロックダウンによる工場の停止や部品の調達難、早すぎる梅雨明けや猛暑の到来など、予測できなかった事態が次々と起きて、なかなか戦略通りにはいっていない状況ですね。

 しかし当社では、商品の仕入れや販売日の選定、コールセンターでの応対や設置、アフターサービスまでをすべて自社でカバーしていますから、販売のスピード感を自分たちでコントロールできます。より、変化に対応できる点が強みです。今のような、世の中の変化に柔軟に対応する必要のある状況は、むしろチャンスだとポジティブに捉えています。

―― 今年も毎年恒例の、「夏のエアコン祭り」を開催しています。品不足の影響をあまり受けていないようにも見えますが。

千々岩 家電量販店では、たくさんの種類の商品を、少量仕入れることが一般的だと言われています。しかし当社では、販売機種が少ない代わり、1機種につき数万台をメーカーからすべて買い取る形で発注します。

 また、この夏のための商談をしていた昨年冬は、半導体の影響はあったものの、円安の影響は比較的少ない状況でした。

 ただ、エアコンに限らず家電の多くには半導体が使われていますから、今後は私たちもその影響を価格に反映せねばならないこともあるかもしれません。その際は、消費者の皆さまにもきちんと説明して、正々堂々やっていきたいですね。その分、半導体を使わない商品や円安の影響を受けにくい商品の割合を増やし、全体の帳尻を合わせることも考えています。

 熱中症などの健康被害を防ぐためにも、消費者の需要に応える努力を今後も続けていきます。