夏を象徴する食べ物といえば、すぐにアイスクリームやかき氷などの氷菓が思い浮かぶ。この夏予想される猛暑と、3年ぶりの行動制限解除。氷菓業界にとって大きなチャンスとなるこれらの要素を販促に生かすべく、各メーカーが戦略を練る。聞き手・文=小林千華(雑誌『経済界』2022年9月号より)
猛暑と行動制限解除相乗効果で売り上げ増へ
猛暑が予想されるこの夏、氷菓の売り上げも気候に大きく左右されそうだ。
6月27日、日本アイスクリーム協会は、2021年度のアイスクリーム及び氷菓の販売実績を公開した。気象庁によれば同年夏は、「気温の高い状態が続き、年平均気温は全国的に高く、特に北・西日本ではかなり高かった」。これが影響してか、アイスクリームの市場規模は前年度の数値を61億円上回る5258億円と過去最大を記録し、新型コロナによる巣ごもりが続く中でも高い需要を証明した。
形態別の売上高は、コロナ禍の影響を大きく受けた「業務用」が前年比で71億円増と回復を見せ、巣ごもり需要で売り上げを伸ばした「マルチパック」「ホームタイプ」も、ほぼ前年並みを維持する結果となった。
新型コロナによる行動制限が解除された現状と、猛暑との相乗効果で、今年の氷菓の売り上げも上々と思われた。
そんな氷菓業界に大きな打撃を与えているのが、原材料費などの高騰だ。森永乳業をはじめ一部のメーカーは、6月1日出荷分からの家庭用アイスクリームの値上げを実施している。輸入乳原料や油脂、チョコレートなど、原材料費の高騰に加え、原油高の影響で包装資材も高値となっている。書き入れ時である夏を目前に、苦渋の決断を強いられた形だ。
赤城乳業は、9月1日、10月1日出荷分から一部商品を値上げすると発表した。ただ、主力商品である「ガリガリ君」(1本売り)については現在の価格を据え置く。これについて、同社開発マーケティング本部本部長の萩原史雄氏は、「発売当初から重視していた『子どもでも買える手ごろな価格』というコンセプトが、今やガリガリ君のブランドイメージの一つになっている。できる限り価格は維持していきたい」と話す。
どのメーカーにとっても一筋縄ではいかない状況だが、前述の通り、この夏は猛暑との予想に加え、新型コロナ流行が落ち着き、屋外や飲食店で氷菓を楽しむ機会も増加する見込みだ。このチャンスをどう生かすのか、各メーカーの戦略が問われる。
イベントを通じ業界全体で購買意欲向上狙う
氷菓が食べたくなる一番のきっかけはやはり「暑さ」。外出へのハードルが下がった今、各メーカー、団体が、さまざまなイベントを通じて氷菓の購買意欲アップをもくろむ。
日本アイスクリーム協会は、同協会が定める5月9日の「アイスクリームの日」を記念し、商品のサンプリングなどを行う「アイスクリームフェスタ」を全国5都市で開催した。同協会は、アイスクリームの日が制定された1964年以降、毎年この日の前後にアイスクリームのPRを各地で行ってきたが、新型コロナの影響で、今回は3年ぶりの開催となった。氷菓の季節の訪れを知らせ、商品購入への意識を高める狙いだ。
関西のテーマパークやショッピングモールを中心に、炎天下でも溶けにくいアイスクリーム「ディッピンドッツ」を販売するウエルネス阪神は、6月24~26日のプロ野球試合開催に併せて、阪神甲子園球場内で「TORACOディッピンドッツ・ストロベリーパフェ」を限定販売した。6月にもかかわらず各地で記録的な暑さとなったこの期間、冷たい氷菓が屋外スタジアムでの試合観戦の質を向上させたに違いない。
また、フタバ食品は、主力商品「サクレ」を主役とする「サクレ夏フェスタ2022」の初開催を発表した。稲毛海浜公園内の大型レジャー施設「SUNSET BEACH PARK INAGE」とコラボレーションし、サクレを使った限定オリジナルフードが楽しめるイベントだ。ビーチやプールといった、爽やかな氷菓を満喫できるシチュエーションとサクレを掛け合わせ、復活しつつある屋外レジャーの機会に商品を手に取ってもらうきっかけを作る。
3年ぶりに「普通の夏」が戻ってきた今年、人々が氷菓を楽しむ「機会」を作ることが、業界の喫緊の課題だ。
夏の売れ行きが業績を左右する
―― アイスクリームをはじめとする氷菓は、夏に最もよく売れるイメージです。実際のところはどうでしょうか。
萩原 第3四半期である7~9月を夏とすると、年間の業績はその期間で決まると言っても過言ではありません。夏の1カ月あたりの商品売り上げは、冬の3倍以上です。
一般的に、気温が25℃を超えると、ワンハンドで食べられるソフトクリームなどの売り上げが伸び始め、30℃を超えるとガリガリ君のようなかき氷系の商品の売り上げが伸び始めるといわれています。ただ、35℃を超えると、氷菓より飲料にシフトする人が増えるようですね。
あとは、雨や曇りの日よりも、晴れの日の方が売り上げが伸びる傾向にあります。
―― 毎年夏、ウェザーマップと特設サイト「ガリ天」を運営されていますね。
萩原 気候と商品の売り上げの相関関係を測る中で、2006年から運営しています。各地の気温や湿度などの気象データをもとに、人々がガリガリ君を食べたくなる度合いを「ガリ指数」という数値で予想して発表するというもので、毎年気温が25℃に達する頃にサイトをオープンします。各地の梅雨明けに併せて「ガリ前線」が沖縄から東へ動いていく、という仕掛けもあって、随分凝っていますよ。
―― ガリ天がスタートしたきっかけは何だったのですか。
萩原 ある日突然、ウェザーマップの方からお電話をいただいて、ガリガリ君の大ファンの気象予報士がいて、大量の当たり棒がたまったから見に来てほしいとおっしゃるんです。それで行ってみると、本当に50本近くの当たり棒を見せてくださって驚きました。そこからぜひコラボしようということで、実現したのがガリ天です。
ガリ天が始まる前年、05年のガリガリ君の売り上げは約1億5千万本でしたが、21年は約4億本です。05年時点で国民1人あたり年間1本食べていたとすると、今は3本ほど食べていただいている計算ですね。そういう意味では販促につながっているといえます。
―― この夏にはどういった販売戦略で臨みますか。
萩原 新しいフレーバー発売などの話題は、夏に向けて盛り上がるよう企画しています。今年は新たにガリガリ君すもも味を発表し、以前好評だった梨味の再販も決定しています。
新型コロナの流行も落ち着き始め、この夏は外に出て過ごす機会も多いでしょうから、たくさんの人に氷菓で涼んでいただきたいですね。