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第5回 GAFAMのWeb2.0と、話題のweb3は何が違うのか? 足立明穂

足立氏

【連載】NFTが変える経済とビジネス

最近話題のweb3は、ビックテックのGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)のWeb2.0とは異なるビジネスモデルと言われます。現在はGAFAMのような企業に勤務していた優秀なエンジニアがweb3のスタートアップ企業に転職するケースも増えています。一方、web3のビジネスは夢物語で、うまくいかないと言う人たちもいます。今回はWeb2.0とweb3が対立する関係にあるのかどうかを含め考えてみます。(文=足立明穂)

足立氏
足立明穂(あだち・あきほ)。ITビジネスコンサルタント。1962年京都府生まれ。Windows95の登場前にアメリカのシリコンバレーに出向し、黎明期のインターネットに触れ、世の中が激変すると確信。以降はインターネット関連のベンチャー企業を転々とする。ブロックチェーンやNFTなど最新の技術の説明に定評があり、企業や商工会議所での講演多数。NFT専門家としてテレビ番組等でも活躍。著書に『だれにでもわかるNFTの解説書』(ライブ・パブリッシング https://amzn.to/3rGkmSy)ほか。Twitter: https://twitter.com/TanishiNishi

進む法規制。GAFAMの何が問題で反感を持つ人がいるのか?

GAFAMは、世界中で利用されるインターネットサービスを提供する巨大企業です。多くのサービスが無料、あるいは安価に利用できます。なぜ、そんなことができるのかというと、他の企業が決して真似できない広告ビジネスによる莫大な収益があるからです。

広告ビジネスの利益を上げるためには、ユーザが何を求めているのかを知り、それに合致する広告を表示することが大事です。そのために、メールや検索サービス、SNSなどのサービスを無料で提供し、世界中の人々の情報を収集しています。このデータがあるからこそ、巨大企業になれたのです。

昔は、このように収集したデータは企業の所有物と考えられていました。ところが、これらのデータを作り出したのは個人で、それぞれの個人の所有物であるという考え方が出てきて、個人情報保護の法整備が進んできました。その結果、ビッグテックといえども、それに従わざるを得なくなっています。

特にEUでは、GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)が2018年から施行されており、EU以外で運用されているサービスであってもEU在住の人がアクセスする場合は適応されるという厳しいものになっています。このため、Yahoo! JAPANはEUからのアクセスを遮断することとなり、EU在住の日本人にとって大きな衝撃となりました。

(参考)Yahoo! JAPAN、欧州からの接続遮断へ 「法令順守の対応コスト面からサービス継続不能」(ITmedia)

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2202/01/news107.html

このような規制をかける理由は、単に情報を利用するためではなく、表示されるデータをコントロールし、偏った情報のみ表示・提供される状態になってしまうことを問題としているからです。よくSNSで問題になるエコーチェンバー現象と言われるもので、自分の関心のある投稿や動画ばかりが表示されるようになることで、「世の中、自分と同じ価値観の人が多い」と勘違いし、自分の考え方が正しいと錯覚してしまうのです。

web3のベースはブロックチェーン。GAFAMと何が違うのか?

GAFAMのように一極集中でデータ管理をすると、結果的に、そこが大きな権力を持つようになり、個人対応などが難しくなります。この権力が集中するのを覆そうとしているのがweb3のベースになるブロックチェーンです。

ブロックチェーンは、インターネット上で誰もが利用できる帳簿のようなもの。そこに、自分のさまざまな履歴を記録することができます。しかし、GAFAMのようなサービスと違って、登録時に氏名など入力する必要はなく、ランダムな文字列で構成されるアドレスが与えられます。そのアドレスを自ら公表しない限り、どこの誰なのか分からない匿名性を維持できます。つまり、匿名にするのか、氏名を明らかにするかは、ユーザに委ねられているのです。

また、1人で複数のアドレスを持つことができるので、プライベート、仕事、趣味によって使い分けることも可能。仕事のアドレスでブロックチェーンを調べれば、その人の職歴が分かりますし、趣味のアドレスで検索すれば野球が大好きで週末の社会人草野球によく参加していることも分かります。そして、それらを別の人物(人格)として見せることができるのです。まさに、web3でよく言われる「分散化」です。

GAFAMのような巨大企業が個人のデータを独り占めし、分析して行動をコントロールする中央集権から、個人が自分自身のデータをコントロールする非中央集権・分散化の世界に切り替えていこうというのがweb3の根底の考え方です。

社会の構造から個人の人格までもが分散化するため、ブロックチェーンを活用し、その上にさまざまなサービスを構築することになります。それらのサービスへの乗り換えが進むことで、GAFAMのような企業の影響力が次第に弱まると考えられます。

Web2.0とweb3は対立しない。メリットとデメリットの把握を

中央集権か分散化かということで、どうしてもWeb2.0とweb3は対立関係で語られることが多いです。「中央集権は一部の巨大企業が莫大な利益を得て、格差がますます広がる!」、「分散化などしたら意見がバラバラになって、何もまとまらなくなる!」など、それぞれの言い分がぶつかり合います。

しかし、個人的には、これらは対立するのではなく共存していくものだと思います。これまでも、さまざまな技術が開発され広がってきていますが、それ以前のものが消えたのかというとまったく消えてなくなることはありませんでした。例えば、携帯電話が出てきても、いまだに固定電話も使われ続けています。

現状でのweb3で考えてみても、さまざまなユニークなスタートアップ企業やプロジェクトが動いていますが、それを告知したりスタッフを集めるためには、Web2.0のSNSを利用しなければなりません。

また、web3は個人で自分のデータをコントロールできることは最大のメリットですが、管理者がいないのでパスワードを忘れた場合に二度とログインできないという最大のデメリットもあります。実際、web3で活躍している著名な方でも、パスワードを忘れてしまい、個人で所有していた暗号資産を引き出せなくなったという笑い話をよく聞きます。銀行や証券会社がそんな状態になったら、困ってしまいますよね。

中央集権が悪いとか、分散化が全てということではなく、それぞれにあるメリットやデメリットをしっかりと理解して、どんな活動やサービス、社会のルールに当てはめられるのかをしっかりと考えていく。そんな時代になっていきそうです。