経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

起業を志す子どもは雑草 親は除草剤をまかないで SEVEN ファウンダー 山本敏行

山本敏行 SEVEN


ゲストは、起業家・スタートアップとエンジェル投資家をつなぐコミュニティ「SEVEN」を運営する山本敏行さん。日本発のユニコーン輩出を目指し、高校生社長ホールディングスで起業家教育も行っています。起業に絡めた子どもの教育とSEVENの取り組みについて伺いました。聞き手&似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=市川文雄(雑誌『経済界』2022年10月号より)

山本敏行 SEVEN
山本敏行 SEVEN ファウンダー
やまもと・としゆき 1979年大阪府生まれ。2000年中央大学法学部在学中に留学先のロサンゼルスで「ECstudio(現・Chatwork)」創業。19年東証マザーズ上場を機にCEO職を弟・正喜氏に譲り、エンジェル投資家に。20年SEVEN起業。

高校生向け起業家教育で日本発のユニコーンを

佐藤有美と山本敏行
佐藤有美と山本敏行

佐藤 最近は子ども向けの金融教育が始まっていて、野村グループでは社員が講師となって小中高生に教えているそうです。起業にも必須の教育かと思いますが、山本さんはこの流れをどう感じますか。

山本 お金や起業の教育は歓迎です。日本でユニコーン(創業10年以内で評価額10億ドル超の非上場ベンチャー)を育てていくには、子どもの頃からお金や資産運用について考え、また起業家やビジネスに触れることが大切です。私は今、茨城県立常陸大宮高等学校商業科の生徒が株主となって運営する株式会社、高校生社長ホールディングスの取締役を務めています。そこで先進的な金融教育・起業家教育を行い、ユニコーンになれる起業家の卵を見つけ、シリコンバレー留学などを経験させ、未来の日本経済を底上げするという長期的なプロジェクトを進めています。

佐藤 ユニコーンの起業塾! 素敵です。弊社も経済界GoldenPitch(旧・金の卵発掘プロジェクト)を11年続けていますが、夢のある若い起業家を育てるのは、赤ちゃんが大人に成長するのを待つように時間と根気が必要です。一方、若い起業家が挑戦する雰囲気が出てきたのは喜ばしいことですが、最近は志や社会的責任なしに起業し、理想と現実のギャップに全部投げ出してしまう人も見かけます。その辺の起業家マインドを含めた教育はどうされているのですか。

山本 メジャーリーガーの大谷翔平選手のようなロールモデルをつくり、真剣さや姿勢を学んでもらいたいと考えています。同じ課題を目の前にしても、真剣さ、熱量、興味の度合いは人によって違いますから。あとは、私も高校生の頃、親や先生、友達から、「お前は変わり者だ」と言われました。今同じような境遇の子たちに、「君たちはおかしくない」と言える文化を創りたい。よく東京で高校生向けイベントを開催すると、親に応援されてくる子、反対されて来られない子もいます。起業する子は雑草なので、親や先生は雑草のまま除草剤をまかないでほしい。

佐藤 私は母に、「普通はこうあるべき」と言われて育ちました。しかし、弊社の創業者である父から、「有美さん、普通だったら普通にしかなれないんだよ」と言われて安心しました。親が変われば日本は変わりますし、素質のある子は自ら日本の村社会を飛び出してほしいですね。

山本 良い言葉ですね。ただ日本には日本の文化や価値観があるので、アメリカのやり方をまねしても成功しません。アメリカに学ぶところは学び、日本人の良さを生かした起業ができるよう支援したいですね。

佐藤 もう一つ、なぜ日本でGAFAは生まれないのでしょう。

山本 日本と世界のマーケットニーズの違いが大きいです。日本には今もFAXや印鑑などガラパゴスな文化が残っています。例えば日本企業でビジネスチャットの導入を増やそうとカスタマイズしていくと、世界のニーズとずれてしまう。ユニコーンは最初から世界戦略を立てていますし、いろいろな要因があります。

SEVENのサービスを今後はオフラインでも展開

燦々_書影

佐藤 山本さんは2018年にChatworkを弟の正喜さんに譲られ、コロナ禍の20年に起業家スタートアップとエンジェル投資家をつなぐコミュニティ「SEVEN」を立ち上げています。

山本 コロナ禍で起業家や投資家を取り巻く環境が変わりました。例えば、地方の起業家は東京に行かなければ資金調達が難しいのに、外出禁止になって全国でイベントが開催できなくなり、資金調達難民が増えました。そこでZoomを使って毎月7日と21日の夜7時にスタートアップ7社がピッチをして調達につなげる、また経営者は起業家と出会えて投資ができるSEVENの仕組みをつくったのです。この2年間で30社以上が調達に至っています。

佐藤 オンラインは物理的な距離を超えられるのがいいですよね。

山本 そうですね。実はSEVENの投資先の半数以上は東京以外です。

佐藤 それは意外です。でも地方には可能性がありますよね。SEVENは起業家の教育だけでなく、投資家の教育もされていますね。

山本 そうです。例えば起業家のプレゼンの練習では、YouTubeで5分の動画を送ってもらい、改善点をフィードバックしています。また、若い起業家は誰に支援してもらえばいいのか分からないので、私たちが投資家を選別して紹介しています。一方、経営者であってもエンジェル投資では素人なので、起業家の選び方や投資の基準を教えています。この両方を育てていく仕組みがあるのはSEVENの特徴ですね。

佐藤 今後の展開は。

山本 オンラインでの形はできたので、これからは全国のシェアオフィスと提携してオフラインでサービス提供できる形を構築していきます。主要駅にはSEVENの拠点があるようにしたいですね。

佐藤 期待しています。

山本敏行・SEVENファウンダー
山本敏行・SEVENファウンダー