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【進撃のベンチャー】スタンフォード発企業 ワイヤレス給電で世界に挑む

進撃のベンチャー_202209

今回取り上げるのは直近で2億円の資金調達を行い、前年比300%で急成長するエイターリンクの社長を務める岩佐凌氏、また創業者でありCTOを務める田邊勇二氏に、5G社会の行く末と同社のグローバル展開について聞いた。(雑誌『経済界』2022年9月号より)

進撃のベンチャー_202209
進撃のベンチャー

スタンフォードで創業するまで

 同社の原点はスタンフォード大学にある。シリコンバレーの中心部に位置するスタンフォード大学で研究員だった田邊氏がワイヤレス給電技術をもとに創業。大学時代に世界最小のペースメーカーを発明している。それまでのペースメーカーは有線により充電する必要があったが、この技術によりワイヤレス充電が可能となり、患者の負担軽減に成功した。この技術をより多くの人に届けたいという思いが、エイターリンク創業へとつながった。

 田邊氏は大学の研究の恩師であるスタンフォード大学のElectrical Engineering学部のエイダ・プーン准教授の協力を得て同社を立ち上げ、ペースメーカーなどのメディカルインプラント領域で事業を開始する。

日米研究環境の違い

 田邊氏は日本ではなくシリコンバレーでの起業を選んだ理由を次のように語る。

 「日本ではエンジニアの地位が高くありません。どうせエンジニアとして挑戦するなら、良い環境と良い条件の中でと考えた結果、自然とシリコンバレーでの起業となりました」

 特に田邊氏の研究分野である電磁波や音波を利用した領域分野では、日本にプロフェッショナル人材が少ない。そのため田邊氏が日本にいた時は、3D CADや電磁解析シミュレータをほぼ独学で学び、実験に使ったという。それに対してスタンフォードでは、研究開発費や専門人材の数などで圧倒的な差があった。そこで田邊氏は、この環境でさらに研究を続けたいと決意、それが起業へとつながった。

商社マンからの転身

 田邊氏は生粋のエンジニア。無線充電の技術を事業会社に話しても食いつきはいいものの商業化は難しかったという。そんな中で、出会ったのが現在、社長を務める岩佐氏だ。岩佐氏は岡谷鋼機に入社、トヨタやデンソーなど大手企業に自動車の精密部品を販売し、年間120億円を売り上げる商社マンだった。シリコンバレー事務所を任され、駐在員として渡米。そこで田邊氏と出会う。

 自動車の製造現場を熟知している岩佐氏は、ワイヤレス給電の技術を聞いた瞬間、頭に雷のような衝撃が走ったという。自動車の製造過程で、小さな精密機器を組み立てる工場では、多くの機械を利用する必要があり、断線トラブルが相次ぐ。一つの機械が断線により停止すれば、すべての機械を一時停止しなければならない。そのたった数秒の断線トラブルによって、数億円の機会損失を生み出すことに商社時代の岩佐さんは頭を悩ませていたという。

 ワイヤレス給電が実現するならば、配線は不要となり、もちろん断線トラブルを防ぐことができる。自分の人生を捧げてでも田邊さんが発明した技術を世界に広めたい。そう思った岩佐氏は出世街道を走っていた商社を辞職。エイターリンク日本支社を創業する。

5Gの前提となる無線充電

 意気投合して日本支社を立ち上げた岩佐氏。創業2年になるが、前年比300%で成長している。5G社会、またその先の6Gの世界へと時代が進歩することで、同社の技術はこれまで以上に必要とされる。

 IoTが普及すれば、これまでインターネットにつながっていなかったあらゆるモノが、ネットにつながるようになる。例えば椅子がネットにつながると、エアコンが椅子の着席状況を判断して、電源を自動でオン/オフにすることができる。離席するとすぐに電源を止めるため、省エネ対策にもなる。

 これまでの技術であれば、椅子にコードを引かなければならなかったが、エイターリンクの無線充電技術があれば、あらゆるものにコードレスに電気を流すことができる。

大手企業が共同開発を求める

 このように5G社会では同社の技術は必要不可欠となる。そんな同社の技術を使いたいと大手企業の引き合いが急増しているという。中でも竹中工務店が先陣を切って共同研究に乗り出し、最大15メートル離れた場所でもLEDライトを点灯させる実証実験をクリアした。

 この技術によってこれまでオフィスビルのクレームの8割を占めていた空調トラブルが軽減されるという。通常4℃ほどある室内の温度誤差感覚を極限まで減らすことが可能だ。

 さらには自動車メーカーや工務店などでも、配線がなくなれば作業効率が格段に向上する。これはそのまま利益に直結するため、エイターリンクの技術は喉から手が出るほど欲しいだろう。

目指すは1千億円企業

 創業して2年、同社は上場の準備に入ろうとしている。しかも日本から世界に挑戦し、2026年頃のナスダック上場を目指すと岩佐氏は語る。世界各国の最先端技術を持った企業が集結するラスベガスのCESにも今年初めて出展、エイターリンクの技術を世界に発表した。海外の投資家の注目を集めたこともあり、グローバルでの勝算を見いだしたという。

 岩佐氏は、「競合会社との技術格差は明らかで、無線充電領域では圧倒的にナンバーワン」と豪語する。近い将来、時価総額1千億円超えの上場が見られる日が楽しみだ。