経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

テルアビブ大学との共同研究で“夢のバイオプラスチック”製造 テクニオンジャパン 石角完爾

森田英資 ツカサペトコ

国内大手のペットボトル事業者ツカサペトコが、イスラエルのテルアビブ大学環境研究所との共同研究により、海藻由来のバイオプラスチック製造を実現した。イスラエル工科大学の日本における公式組織・テクニオンジャパンの石角完爾社長に、この海洋藻類からの生物分解型植物性プラスチック事業化の背景や、同プロジェクトの概要及び進捗状況などを聞いた。聞き手・文=榎本正義(雑誌『経済界』2022年9月号より)

テクニオンジャパン Golberg教授の実験室
テクニオンジャパン Golberg教授の実験室

石角完爾 テクニオンジャパン社長
いしずみ・かんじ 1947年京都府生まれ。京都大学法学部卒。経産省を経て、ハーバード大学法学部卒、国際弁護士。国際的な大型M&Aのエキスパートとして活躍。2007年ユダヤ教に改宗し、ユダヤ人となる。豊富なユダヤ人ネットワークからイスラエルの最新技術と日本企業を繋ぐ技術商社テクニオンジャパンを経営。

イスラエル・日本による脱炭素プロジェクトとは

―― 日本バイオプラスチック協会によれば、世界のプラスチック生産は1960年代から2019年では約20倍の4億トン/年となり、20年後はさらに2倍になると予測がされています。このうちリサイクルされているものは10%弱に過ぎず、回収されたプラスチックごみの約80%が埋め立てや海洋などの自然界へと投棄されているといいます。50年までに海洋中のプラスチックが魚の重量を上回るともいわれており、環境汚染が深刻化しています。

石角 イスラエルのテルアビブ大学環境研究所は、この問題にいち早く着目し、当社とツカサペトコとの共同研究に着手しました。ツカサペトコは国内大手のペットボトル関連の事業者であり、当社の中心メンバーです。昆布・ワカメ・青のり、特に日本で食用の昆布、ワカメとして使われた後の廃棄残滓昆布ワカメの総量は年間1万5千トン以上に達することに注目したツカサペトコが、イスラエルのテルアビブ大学に研究委託し、残滓昆布ワカメから生分解性プラスチックの原料であるPHAを取り出す技術の開発に成功しました。またテルアビブ大学は日本でも大量に生産されている青のりからも生分解性プラスチックの生成に成功しました。

 海藻を利用してプラスチックを製造するこの技術は飢餓・食糧問題、廃棄バイオマス再利用、脱炭素、脱石油、地球温暖化防止、SDGsのすべての要件を満たし、地球環境やフェアトレードに配慮した画期的な技術として注目されています。

―― プラスチックは水や紫外線により細かく粉砕されますが、自然環境では分解されずに微細化だけが進行します。その結果、回収が困難になってしまうマイクロプラスチック問題がありますね。

石角 目視で確認できない数十ミリミクロンの微細なマイクロプラスチックが魚や貝類の体内に摂取・蓄積されることにより、生態系や人体に悪影響を及ぼすことが懸念されています。そこで今回のプロジェクトに至ったのです。

―― というと?

石角 本件PHAは昆布、ワカメ、青のりなどから海洋微生物が作る自然の物質であるため、海に戻っても石油系のプラスチックや石油系の繊維とは異なり、自然に溶けてなくなるという地球に優しい性質を持っており、その応用範囲は石油系のプラスチックや石油系のフィルム、石油系の繊維、その他の石油系の素材に早急に取って代わっていくべき夢の素材と言われています。

 実は今、このPHAの研究が世界で最もホットな生物化学分野の研究で、最先端を走っているのはスタンフォード大学のスタートアップ事業から生まれたマンゴマテリアル社です。ここは近い将来、デュポンに匹敵するくらいの大企業になると目されています。

海洋微生物によるPHAは石油に代わる夢の素材に

―― 世の中に存在するプラスチックが、海洋微生物由来のプラスチックに置き換わるとしたら、巨大な市場ですね。

石角 そうです。一方で、植物由来の生分解性プラスチックはトウモロコシ・米・サトウキビ・樹木のチップなどからも生産されていますが、食糧問題の観点から、あるいは樹木伐採は地球温暖化に逆行するという観点から、地球環境やフェアトレードなどに考慮した原料が求められていました。廃棄されている昆布やワカメからPHAを作ることはもちろん、ケージを海に沈めて培養することにも私たちは挑戦していますが、漁業協同組合との調整が難しく、現時点では神戸港の中にある神戸マリーナと、京都の若狭湾の2カ所でケージを設置する方向で話が進んでいます。日本は四方を海に囲まれているので、バイオプラスチックの事業化を大きな産業に育てていきたいと考えています。

海藻由来のバイオプラスチックでバイオリファイナリーを目指す

森田英資 ツカサペトコ
森田英資 ツカサペトコ社長


 横浜に本社を置くツカサペトコ。2006年に設立され、飲料用ペットボトルに使う樹脂原料の輸入販売が主力だ。

 「合成樹脂原料も合わせると、年間約10万トン扱っています。今までは石油系のみでしたが、SDGsや社会貢献の観点も大事になるので、非石油由来のバイオ系原料を開発できないかと考え、当社の顧問を務めていただいているテクニオンジャパンの石角社長に相談しました。2021年3月にテルアビブ大学と海藻由来のバイオプラスチックの生産技術のライセンス契約を結んでいます」

 テルアビブ大学の研究では、地中海産の青のりを使っている。それを日本に持ち込むと〝外来種〟となるのでNG。ただし、日本に生息している青のりでもプラスチックの原料であるPHAはできるそうで、どのような海藻を選択するか研究を進めているところだという。

 「これまでは石油由来の製品中心でしたが、今後はバイオリファイナリーとしての道を歩んで行きたい」

 バイオマス(植物、農産物、それらの副産物、廃棄物など)を原料にエネルギー源としてのバイオエタノール、バイオディーゼルや有用化学品を製造する技術開発が進んでおり、これらの製品の一つにバイオプラスチックや工業用酵素がある。このような技術がバイオリファイナリーだ。バイオマスから作られたバイオプラスチックが廃棄され、分解されるときに排出される二酸化炭素は、もともと大気中にあったものであり、再生植物に取り込まれる。このように二酸化炭素は地球環境中で循環され、炭素の絶対量を増やさないのでカーボンニュートラルと言われている。このため、限りある化石資源を使わないで、地球温暖化の防止や循環型社会の形成に役立つ技術として各国で技術開発が進んでいる。

 「生物分解性プラスチックの事業化プロジェクトは、国産の青のりを使うものなので、経産省にも非常に面白いと注目していただいています。国産原料なので、為替リスクや海外からの輸送といった問題もありません。バイオプラスチックは大きな事業になるので、どこかの化学メーカーと組んで進めていくことになるでしょう。今後の当社の柱の一つになるものと期待しています」

会社概要:合成樹脂原料・製品の輸出入及び国内販売、各種化学品の輸出入及び国内販売が主業務。国内はもとより、ソウル、台北、上海を拠点に事業展開。台湾を代表する材料メーカーの南亜プラスチックスの代理店でもある。