経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

メタバースが招くパラダイムシフト。ガラガラポンがこれから始まる フィナンシェ 國光宏尚

國光宏尚 フィナンシェCEO

メタバースはわれわれに何をもたらすのか。メタバースの第一人者の國光宏尚氏は、スマホ出現に続く大きなパラダイムシフトがこれから起きると予言する。その結果、ウェブ1・0では健闘しながらもウェブ2・0に乗り遅れた日本にも、巻き返しのチャンスが訪れる。聞き手=関 慎夫(雑誌『経済界』2022年10月号より)

國光宏尚 フィナンシェCEO
國光宏尚 Thirdverse、フィナンシェCEO
くにみつ・ひろなお 1974年生まれ。米サンタモニカカレッジ卒。2007年にgumiを立ち上げ社長に就任、21年退任。現在はThirdverseおよびフィナンシェCEO。

ウェブ2・0に遅れた日本にもチャンスあり

―― メタバースが盛り上がっていますが、大半の人は、自分とどう関わってくるのか分からないと思っています。

國光 メタバースで一番大きなポイントは、産業のパラダイムシフトが起きることです。直近のパラダイムシフトは2007年です。この年、iPhoneが発売されました。その前年にツイッターとAWSがサービスを開始しています。ここから始まったスマホ、ソーシャル、クラウドというのが過去10数年のパラダイムで、この3つをうまく活用して社会に大きな変革をもたらした会社がウェブ2・0で勝利を収めました。

 一方、日本はその波に乗り遅れました。その結果、GAFA4社の時価総額が、日本の全上場企業の時価総額を上回ってしまった。それ以前のパラダイムでは、日本はiモードやニコニコ動画などで頑張っていた。2000年に針を戻せばNTTドコモの時価総額は20兆円、GAFAは合わせても5兆円しかなかった。それが新しいパラダイムの登場で、一気に逆転してしまった。ただ、GAFAM以外の米国企業の時価総額もこの間、あまり成長していない。つまり新しいパラダイムにうまく乗れた会社だけが成長してきたのがこの15年だったのです。

 それ以前のウェブ1・0時代、データはウェブサイトの中にありました。これを見られるようにしたのがネットスケープやインターネットエクスプローラー(IE)などのブラウザで、見やすく整理したのがヤフー、検索できるようにしたのがグーグルです。でも今ではネットスケープやIEは存在していないし、ヤフーも米国では消えました。つまりウェブ1・0のプレーヤーの多くがウェブ2・0で消えていったわけです。

―― メタバースやウェブ3によって同様なことが起きるわけですね。

國光 先ほど言った3要素、スマホはVR・ARに変わっていく。ソーシャル上の個人データは今後ブロックチェーンに記録される。そしてクラウドはいよいよAIになってくる。つまり、スマホ、ソーシャル、クラウドから、メタバース、ウェブ3、AIというガラガラポンのパラダイムシフトが起きてくる。これは日本にとって大きなチャンスです。

―― メタやアップルなどウェブ2・0の勝ち組は、メタバースにも巨額の投資を行っています。

國光 彼らが先手を打って投資を続けているのは事実です。しかし過去の成功者だからこそ新しい時代に対応できないというイノベーションのジレンマに陥るかもしれない。そこにチャンスがある。日本勢はプラットフォーマーにはなれないかもしれないけれど、メタバースではコンテンツやIPの重要性が増してきます。日本はこの分野に強いため、ここにチャンスがある。

思想的革命が目指す非中央集権型社会

―― メタバースやウェブ3は中央集権ではなく分散型社会だと言われています。それでも覇権を握るプレーヤーが出てくるのでしょうか。

國光 思想としてのウェブ3とイノベーションとしてのウェブ3には違う側面があります。

 もともとインターネット自体、ウエストコーストのヒッピーカルチャーに通じていて、反権力という空気感がありました。権力者が独占していた情報を民衆へ取り戻そうという動きです。ところがそれから20数年がたち、一部の企業がデータも富も支配する構造が生まれた。その象徴がツイッター社によるトランプ大統領(当時)のアカウントのBANです。一企業が法律にも基づかず独断で大統領のアカウントを排除したわけです。

 なぜそうなったか。ウェブ1・0には思想があったけれど、2・0は単なる生産性革命だったからです。それがウェブ3では再び思想的な革命になっていて、インターネットを自分たちの手に取り戻そうというような揺り戻しが起きている。しかもウェブ3を支えるブロックチェーンは、非中央集権的ネットワークです。

 ただし、思想とテクノロジーでは時間軸が違います。そのため分散型社会が到来するのは数十年後。それまではプラットフォーマーなどによる技術革新に頼りながらやっていく。今はその段階です。

―― まだまだ先の話ですね。

國光 ウェブ3が目指す世界の実現には時間がかかりますが、それでも変化の兆しは見えつつあります。例えば、ブロックチェーン上で人々が協力して管理・運営され、中央管理者のいないDAOという組織です。これが株式会社に取って替わる可能性がある。YouTubeは大成功を収めましたが、それによって生じた富を得たのはYouTubeと一部のユーチューバーだけで、YouTubeを初期から応援した人には全く還元されていません。しかしDAOなら、トークンを発行することでプロジェクトにかかわった人すべてにインセンティブを渡すことができるため、それがモチベーションになる。富が独占される世界と、みんなでハッピーになろうという世界があった時、果たしてどっちに参加したいと思いますか。そして後者を選ぶ人が増えた時、プラットフォーマーが今の強さを維持できるのか、とは思います。

―― 今後どのような段階を経てメタバースは普及していくのでしょう。

國光 3つの段階を経ていくと思います。第一フェーズでは世界のゲーマーを取り込む。第二フェーズでタブレット市場、PC市場を取り込む。そして第三フェーズがポストスマホ時代の到来です。

 そのためにはデバイスの普及が不可欠です。バーチャル空間を楽しむにはヘッドマウントディスプレイ(HMD)が必要です。現在一番売れているHMDはメタ社のMeta Quest2で1600万台ほど。恐らく年内に2千万~2500万、来年末には3千万~4千万くらいになる。しかも来年にはソニーのプレイステーションVR2が出て、アップル、マイクロソフト、さらには中国メーカーも参戦する。そうすると3年以内に1億台に到達します。ここまでくればゲーム市場を取り込んだと言えるでしょう。

 次にタブレット、PCを取り込むには、教育現場と仕事の現場で使われるようにならなければなりません。特に教育現場ではVRで教えた方が絶対に理解が早い。そしてポストスマホとなるには、ARグラスのような軽量小型のデバイスの誕生を待つ必要があります。そうした動きが、今後5~10年かけて起きてくる。ただし本当の意味でメタバースが完全に定着するのは、メタバースネーティブの世代になってから。その意味では、もう少し時間はかかりそうですね。