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そこまでしてなぜ開く? 3度目の延期が決まったワールドマスターズ

生涯スポーツの世界大会「ワールドマスターズゲームズ2021関西」の国内組織委員会が7月、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2度延期していた大会を、2027年5月に再延期すると発表した。組織委員会の求めていた26年からはさらに1年遅れることになる。文=ジャーナリスト/小田切 隆(雑誌『経済界』2022年10月号より)

ワールドマスターズ

世界各国から5万人出場の皮算用

 ワールドマスターズははじめ、2021年5月に開催する予定だったが、コロナの感染が広がったことで22年5月にいったん延期となり、さらにその後、再延期が決定した。

 組織委は、「2025年大阪・関西万博」から時間がたっておらず、その熱気を引き継げる26年5月に開催することを主張。これに対し、組織委からみて上位にあるIMGA(国際マスターズゲームズ協会)は、25年の台湾大会から日を置かないでの開催になることを嫌い、27年5月に開くことを提案。両者で意見が食い違っていた。

 最終的には、開催日程を決める権限を持つIMGAの主張が通る形となった。

 会期の延期を受け、大会の名称は「ワールドマスターズゲームズ2027関西」に変わった。日程は5月14日からの17日間となる。

 関西2府4県のほか、福井、鳥取、岡山、徳島の各地を会場として、陸上、野球、サッカー、水泳など35競技59種目を行う。対象は30歳以上で、1万5千円を支払えば、5種目まで参加できる。国内、海外から約5万人の参加者を見込んでいる。

 ワールドマスターズが一体、どんなイベントなのか、改めて見ておこう。

 基本的に、中高年齢層のためのスポーツの国際大会で、1985年、第1回大会がカナダのトロントで行われた。大会の創設時に提唱された理念は「スポーツ・フォー・ライフ(人生を豊かにするスポーツ)」だ。

 運営するIMGAの本部はスイス・ローザンヌにある。夏季大会と冬季大会があり、夏季大会はおおむね4年に1度開かれている。関西で2027年に開かれるのは夏季大会だ。

 夏季大会は関西で11回目となる。誘致を主導したのは関西財界で、自治体の連合体「関西広域連合」が協力して、13年に開催が決まった。日本では初の開催となる。

 ワールドマスターズには国内外から多くの参加者が集まる。

 これまで参加者数が最も多かったのは第7回のシドニー大会で、95カ国から2万8676人が集まった。次いで多かったのが、前回第9回のオークランド大会で約100カ国から2万8571人。関西大会は、それらを大きく上回る5万人の参加を目標としている。

 大勢の参加者が集まるので、開催地では経済効果が期待できる。少子高齢化や企業の本社機能の東京への移転などで地盤沈下が指摘される関西でも、ワールドマスターズはスポーツ産業や観光産業の底上げにつながる。17年時点の試算では、国内への経済効果は1461億円、レガシー効果も含めると1兆2329億円に達するとされた。

 さらに、スポンサー企業は、世界に自社をアピールできるチャンスとなる。ワールドマスターズの誘致を主導したのは関西財界で、スポンサーには、関西が本拠の錚々たる企業が名を連ねている。

 「メジャーパートナー」には大和ハウス工業、長谷工コーポレーション、ミズノ、オプテージ、住友電気工業、ウエルシア薬局。「パートナー」にはアシックス、パナソニック、シスメックス。「サポーター」には、ダイキン工業、阪急電鉄、堀場製作所、岩谷産業、JR西日本、近鉄グループホールディングス、サントリーホールディングスなど。

 ワールドマスターズを機にこれらの企業が世界でのプレゼンスを高め、関西経済を巻き返すチャンスは、大いにある。

3度目の延期で懸念される悪影響

 さまざまな想定を壊してしまったのは新型コロナだ。もともと20年の開催を予定していた東京五輪・パラリンピックですら1年延期する中、ワールドマスターズも21年5月から22年5月へ1年、延期せざるをえなかった。

 しかし、新型コロナの猛威は予想以上に長引き、最終的には当初計画から6年も延期することになった。

 スポンサー企業から聞こえてくるのは、期待していたPR効果が薄れたことへの「ガッカリ感」だ。スポンサー企業の中には、当初、ワールドマスターズ開催に向け行うことを計画していた事業ができなくなったところもあり、協賛から降りたいという声も出ているという。

 さらに、会期の延期によって、事務局の運営コストが膨らむことが懸念される。もともと使えるお金は限られているため、事務局の規模縮小や活動の制限につながり、27年の開催まで十分なPR活動を続けていけない懸念もある。

 このように、ワールドマスターズの再延期が及ぼす悪影響は大きい。

 しかし、関西は25年に大阪・関西万博、29年ごろにはカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の開設が予定されている(正確には、IRは今も国が審査中)。27年のワールドマスターズは、ちょうどその中間のタイミングに位置する。

 万博は期間中の来場者数が約2800万人と見込まれ、経済波及効果は約2兆円と試算されている。

 一方、IRへの来場者数は年間約2千万人が予想され、年間の経済波及効果は近畿圏全体で約1兆1400億円と計算される。

 この2大イベントの間にもう一つ、ワールドマスターズをビッグイベントとして成功させることができれば、20年代の後半は世界に向かってずっと、関西の魅力を大規模に発信し続けることができる。

 そのために重要なのは、ワールドマスターズに世界から強い関心を持ってもらい、実際に足を運んでもらうことだ。戦略的にPRしていくと同時に、国内でも、自治体と協力してワールドマスターズを冠したイベントを開催するなど、〝知名度〟を上げていくことが重要となる。

 関西の魅力を発信し続けることができれば、海外から関西に進出する企業を増やし、関西発の新たなイノベーション(技術革新)を生み出していくことなども不可能ではない。

 ピンチをチャンスに変える賢さ、したたかさが、関西経済界に求められている。