ケニアの首都ナイロビで、タクシー運転手向けのマイクロファイナンス(小口融資)事業を展開しているHAKKI AFRICAの小林嶺司氏。事業環境が整っておらず、未知の部分が多いアフリカで起業した理由と事業の展望について語ってもらった。(雑誌『経済界』2022年10月号より)
タクシー運転手向けの小口融資をケニアで実施
「起業した場所がなぜアフリカだったのか」――恐らくそんな疑問をこれまで何度もぶつけられてきたであろう。多くの日本人ビジネスパーソンにとってアフリカは未知の世界だ。ましてやそこで起業するともなれば、よほど現地に馴染みがあるかビジネスの経験が豊富なのかと想像してしまう。だが、小林氏はその質問に対してこう答える。
「江戸時代や昭和初期の日本に生まれたかった願望を昔から抱いていたんですよ。活気があって何も仕組みが整っていないところで自由に新しいことをするのが好きで。それができるのはアフリカしかなかった、という感じです」
日本で複数の事業を興した経験はあるものの、2018年7月にケニアに完全移住を果たすまで、アフリカとの関わりはバックパッカーとして訪れたことがある程度。現地でビジネスを手掛けるのは初めての経験だった。小林氏は現在、ケニアの首都ナイロビで、タクシー運転手を対象としたマイクロファイナンス(小口融資)を提供している。従業員22人のうち日本人は3人だけで、あとは現地採用。文字通り地域に根を下ろした形で、一から事業を興してきた。
ケニアでは人口の8割程度が非正規雇用者で、多くの人々が小売店や露天商などの自営業で生計を立てている。タクシー運転手もその1つで、現在約20万人が従事している。最近ではUberをはじめとするオンラインサービスのドライバーとして働く人々も増加中だ。
だが、運転手の大半は自家用車を持たず、銀行口座も持っていないためローンで購入することができない。無担保ローンとなると年利350~1000%という信じられない高金利を支払わなければならないため、仕方なくレンタカーを借りてUberなどのドライバーとして働くのが一般化している。
そこで小林氏は、現地で高い普及率を誇るモバイルマネー「M-PESA(エムペサ)」の利用履歴から運転手の信用情報をスコアリングし、中古車ローンを実施する仕組みを作り上げた。売り上げの安定性が高く、多重債務を抱えているなどの問題がなければ、車を担保に年利60%(現在は55%)でローンを組めるようにしたのだ。これにより、運転手はレンタカーを借りるよりも金銭的負担を抑えながら事業を営むことができる。
「大事なのは運転手の生活を壊さないこと。金融サービスが未発達なので、貸して終わりではなく、借り手が売り上げをしっかり立てられるように見ていかなくてはいけません」と、小林氏は話す。
ケニアでは、商業銀行や預金も扱えるマイクロファイナンス事業への参入条件は厳しいものの、貸金業への参入は容易だ。その一方、日本では当たり前の売掛金などの概念がなく、売買が成立した時点で支払いがないと貸し倒れになる覚悟を持たなければならない。そうした環境で金融サービスを営むのは当然ながらハイリスクだが、伸びしろの大きさを考えると非常に魅力的なマーケットだと小林氏はとらえている。
金融事業を軸にビジネスをさらに拡大
小林氏はケニアに来た当初、無担保のマイクロファイナンス事業からスタートした。しかし、新型コロナ禍によって、無担保ローンの債務者に対して返済期間を延長させるよう政府から通達があり、結局回収できたのは全体の50%程度。事業の継続が難しくなったため、中古車を担保にローンを組んでもらう現在の形態にシフトした。日本だと価値がないような中古車でも、現地ではそれなりの担保価値がつくことから、貸し倒れリスクを軽減できるメリットがある。
日本人の感覚からすると、年利60%でも十分高いように思えるが、ケニアでは自動車ローンは70~80%が一般的。あまりに金利を下げ過ぎると、借り手が浮いたお金を遊興費などに使ってしまう恐れがあるため、一気に下げずに少しずつ見直していく方針だ。担保で回収した分も含めると返済率は今のところ95%を達成しており、貸し倒れになるケースはほとんどないという。
「正直なところ、お金に関する人々の計画性は低いのですが、これは文化です。昔の日本も似たような感じだったのではないかと思いますが、アフリカの場合は政情の不安定さや自然災害などのリスクを考えると、貯蓄するより使ってしまう方が経済合理性が高いんです。ただ、ナイロビに関しては律儀に返済する人が多い印象です」
今後の展開として、マーケット拡大のために自家用車向けのファイナンスなども手掛けたいと小林氏は語る。
「競合する銀行の審査に落ちた人など、どうしても信用リスクの高い人が対象になりがちなのでそこをどうするかが課題。スピーディな審査など独自性を打ち出していくことが鍵となるでしょう」と語る。
今年3月には2・2億円の資金調達にも成功するなど、事業拡大への基盤が着実に整ってきた。この先5~10年ほどは自動車関連事業を軸とし、最終的には金融を軸にしたコングロマリットのような企業体を目指すという。
最後に普段の生活について尋ねると「ナイロビに関しては、ラーメンや寿司も食べられるし、家政婦さんも1カ月1万~2万円くらいで雇えるので非常に快適ですよ」と笑顔で語ってみせた。どんな環境にも順応できる精神面のタフさも、異国の地でビジネスを行う上での強力な武器なのだろう。