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足踏みする経済情勢下でイノベーションによる浮揚を狙う中部経済 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 塚田裕昭

塚田裕昭 三菱UFJ

半導体を含む部品の調達難や中国のロックダウンが日本経済を直撃している。とりわけ製造業が多い中部地方は自動車などの生産に打撃を受ける。中部経済は今後どのように推移するのだろうか。東海・関西地方の経済調査に実績を持つ三菱UFJリサーチ&コンサルティングの塚田裕昭主任研究員に話を聞いた。(雑誌『経済界』2022年11月号より)

塚田裕昭 三菱UFJ
塚田裕昭 三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員
つかだ・ひろあき――大阪市立大学経済学部卒業、一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了。1990年に日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)入行。98年経済企画庁(現・内閣府)に出向、2001年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に入社し、06年より現職。

米国を中心に来年以降も世界経済をけん引していく

 トヨタグループを筆頭に日本のモノづくりをけん引する中部経済。中国でのロックダウンや東南アジアでの工場停止などコロナを原因とした生産停滞が長引くことで、経済活動に下押し圧力が掛かっている。東海エリアにおける鉱工業生産指数は数値見直しのため今年4月以降の公表を停止しているが、トヨタ自動車の国内生産台数の下方修正もあり、足元で踊り場に入ったという。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの塚田裕昭主任研究員は「東海経済の景気は停滞感が強まり、これまで進んできた持ち直しの動きが一服しています。生産や輸出に足踏みがありますが、一時的な停滞の後、中長期的には持ち直し基調で推移するとみています」と説明する。

 部品の調達難による生産縮小の動きが続く一方で、自動車をはじめとした受注残高が増加している。「自動車の需要は底堅いため、製品を作ることができるようになれば、輸出が再び活発化するなど経済の底上げにつながる」という見立てだ。

 「半導体不足が解消される時期を含めて先行き不透明ですが、経済の腰折れはないと考えています。景気の急激な回復は難しくとも、悲観しなくとも良いのではないでしょうか」

東海の物価は相対的に低く個人消費は弱めで推移

鉱工業生産指数
鉱工業生産指数

 日本全体を覆うインフレ懸念も東海エリアでは相対的にはリスクが低い。食品やエネルギーといった身近な商品の値上がりで消費者負担は増しているが、東海エリアの物価水準は他の地域と比べて低めだという。

消費者物価地域差指数
消費者物価地域差指数

 「総務省『消費者物価地域差指数』を見ると、東海地方の物価水準は全国に比べて2%程度低く、全10エリアで下から2番目の水準です。特に愛知県は経済規模の大きさの割に物価水準が低位で推移しており、物価上昇による実質的な負担は相対的に軽めです。一方、愛知県の賃金は東京に次いで2位と高水準をキープしており、消費環境はまずまずです。ただ、実質負担は軽めでも消費マインドは冷え込んでおり、東海の個人消費は全国に比べて弱めで推移しています。この地域特有の消費者の堅実さによるものと考えられます」

 経済産業省「商業動態統計」によると、東海では百貨店、コンビニ、家電量販店がコロナ前の販売実績を下回った。

 「同じ小売業でも、巣ごもり需要を捉えたスーパーや人流抑制で来客が減ったコンビニなど、業況に温度差があります。コロナの感染拡大でレジャーや外食は痛手を被りましたが、落ち込みが大きかったこれらの業態でどの程度の戻りがみられるかが注目されるところです」

 停滞局面がしばらく続く可能性と、将来的には社会の変化に合わせた中部企業のイノベーションが経済の活性化をもたらす可能性を指摘する。

 「トヨタ自動車の電気自動車戦略をはじめ、数々の取り組みが中部地方を起点に新しい需要を生み出し、日本経済を活性化することが期待されます。部品点数の減少を伴うEVシフトは部品メーカーにとってネガティブな要素ですが、今すぐEV社会が到来するわけではありません。時間をかけて時代の変化に対応していくことが求められるでしょう」