経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

事業モデルの変革により売上高1兆円に挑戦する SCSK 當麻隆昭

當麻隆昭 SCSK

ITサービス大手のSCSK。2011年に住商情報システムとCSKの合併により誕生して以来、10期連続で増収増益増配を達成してきた。4月に社長に就任した當麻隆昭氏は、さらなる成長のためにはビジネスモデルの変革が不可欠と語る。SCSKのこれからを聞いた。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2022年12月号より)

當麻隆昭 SCSK
當麻隆昭 SCSK社長
とうま・たかあき 1965年生まれ。87年にSCSKの前身の1社である住商コンピューターサービス(92年に住商情報システムに社名変更)に入社。2013年4月に執行役員産業システム事業部門事業推進グループ長に就任、18年4月常務執行役員製造・通信システム事業部門長、21年4月常務人事・総務分掌役員、22年4月から社長(現職)。

ポジティブでなければ経営はままならない

―― 4月に社長に就任されました。国際政治、感染症、為替など景気の先行きには不安要素が多くあります。逆境をどうとらえていますか。

當麻 今が逆境かどうか分かりませんが、あまりネガティブに考えず前向きにとらえています。

 私は1987年に住商コンピューターサービスに入社し、システムエンジニア(SE)としてキャリアをスタートしました。自分が担当する案件で問題が発生することや、トラブル中の案件を任されることもありましたが、常に逃げずにやってきました。どんな困難も必死に向き合えば、いずれ乗り越えてお客さまといろんな感情を分かち合えるはずだという信念を持っています。逃げない覚悟は、社長としても忘れずに仕事に打ち込みます。

―― 前向きな気質は幼い頃からのものですか。

當麻 意識的に心掛けている部分もあります。本来、自分自身の性格は、ものすごく心配性です。例えばSEとして現場で仕事をしている時、お客さまとシステムの要件をすり合わせますよね。すると、ふとした瞬間に、あれは伝えただろうか、この認識であっているだろうかと気になってきます。時には夢の中にも打ち合わせシーンが出てきてしまったりもする。こうなっては起きてすぐに確認しないと落ち着きません。結局、ほとんど自分の思っている通りで間違いはないんです。お客さまも「そうそう、當麻さんの言う通りで大丈夫ですよ」と言ってくださる。

 この性格は信頼を積み重ねることにもつながったと思っていますが、根が心配性だからこそ意識的に自分を鼓舞している部分があります。もちろん健全なる危機感やリスク管理は大事ですが、ポジティブに考えるようにしないと、経営はなかなかできません。

―― 社長就任にあたり一番心配したことは何でしょうか。

當麻 心配というより少し苦労したのは、自分がこれまで専門としてこなかった分野の知識を頭に入れていくことです。私は製造業などの産業向けサービスを中心にキャリアを積んできましたので、金融業界などの経験があまりありません。社長就任にあたってすべての領域を改めて勉強し直しました。

 ただ、昨年には社長就任に向けて腹をくくっていましたので、覚悟を決めて走り出すことができました。

―― 具体的に、いつ頃どのように覚悟を決めたのでしょうか。

當麻 昨年の夏です。もともと2020年度から人事領域の役員を担当しており、社外取締役やガバナンス委員会と議論を重ねながら、社長後任人事を含むサクセッションプランを進めていました。21年度に入って候補者を選任するプロセスがあり、そのあたりから自分自身が後任人事の事務局から外されました。それで何となく、あぁ自分が候補に入ったのだなと分かりました。

 その後に社外取締役との面談があり、SCSKの将来に向けた課題や目指すべき会社の姿についてディスカッションをしました。さすがにこれは覚悟を決めねば誠実な受け答えができません。ここで腹をくくりました。最終的な内示を受けたのは昨年12月中頃でしたが、夏くらいには自分の中で覚悟は決まっていたわけです。

―― いざ社長になって約半年が経過しました。當麻社長から見てSCSKという会社に対するイメージは、就任前後で変化はありましたか。

當麻 この2年間、人事領域の役員をやりながら、社長に近い位置でいろんな経営課題を共有して会社の未来を考えてきました。ですから、いざ自分が社長になってから、印象がこれまでと大きく変わったということはありません。

 SCSKグループは、コンサルティングからシステム開発、検証サービス、ITインフラ構築、データセンター、業務工程の外部委託であるBPOなど、ビジネス領域で必要なITサービスをフルラインアップで提供することができる会社です。初の国産ERP「ProActive」は、29年間で6500社以上の導入実績を持つ優秀なパッケージです。また、住友商事のグループ企業という強みを生かして事業を展開しているのも一つの特徴です。

 しかし、こうした強みをうまく発信できておらず、やや特色が見えにくいのも事実だと認識しています。

―― 業績面では、11年に住商情報システムとCSKが合併してSCSKとなって以来、10期連続で増収増益増配を達成しており、非常に好調です。この結果はいかにして実現できたのでしょうか。
當麻 正直な気持ちを申し上げれば、IT業界には追い風が吹いておりますので、需給の動向を見ても達成して当たり前の結果だと考えています。もちろんさまざまな努力の積み重ねがあったのは間違いありません。

 例えば、社内では「ものづくり革新」と呼んでいますが、品質へのこだわりは常に追求してきました。12年度からは、これまで社内に蓄積してきたノウハウを結集し、プロジェクト管理とシステム開発のためのプロセス標準となる「SmartEpisode Plus(SE+)」を導入しています。こうした積み重ねによって不採算プロジェクトやトラブルプロジェクトを抑えることで、逸失利益とそこに関わった人員の機会損失の低減につながり、二重の意味で業績には好影響を生み出すことに成功しました。

 また、「DX事業化」として重点4領域を定め、モビリティ、金融サービスプラットフォーム、ヘルスケア、カスタマーエクスペリエンスの領域を中心に投資を積極的に行っています。これらの領域は0から1を作り上げるという点で業績貢献には時間を要しますが、こうした事業投資を実行しながらも、増収増益を達成することができました。

受託開発型の姿勢を見直し営業利益15%実現へ

當麻隆昭 SCSK2
當麻隆昭 SCSK

―― 今年は、20年4月から取り組んできた中期経営計画の最終年度でもあります。足元の業績は好調ですが、次期中計に向けて課題を挙げるとすれば何でしょうか。
當麻 やはり事業モデルの変革です。11年の合併以来、徹底的に営業利益向上にこだわる改革を進めてきました。その結果が、収益力の高い企業文化の構築につながっています。営業利益は12年3月期に6・4%でしたが、17年3月期が10%を超え、22年3月期は11・5%まできました。われわれはここで成長を止めず、早期に15%の達成を目指します。

 そのために不可欠なのが事業モデルの転換です。お客さまのニーズに応えて製品を作っていく受託開発型のシステムインテグレーターでは到底到達できません。われわれが目指すのは、クラウドサービスインテグレーターです。マーケットを的確にとらえ、ProActiveに代表される知財をさらに増やし、自社開発のクラウドサービスを軸に展開するやり方に変えていかないと収益力は上がってきません。事業モデル変革こそが、次期中計で重きを置くところです。ここは待ったなしですから、既に着手しているところです。

―― 當麻社長が描くビジネスモデル変革を成し遂げた先に、どのような企業になるのでしょうか。

當麻 受身で時代の変化に対応していくのをやめ、社会変革の方向性を決定づける存在になるはずです。われわれは、事業を通じてお客さまの向かうべき道筋に影響を与え、社会変革の方向性を決定付けるゲームチェンジャーを目指します。

 30年までの中長期的な目標で言えば、これまで培ってきたITの技術と経験を生かして外部と共創し、DXによって社会課題の解決や新しい価値の創出を目指す「共創ITカンパニー」という姿を掲げています。業績面で言えば、22年3月期に約4141億円だった売上高を1兆円まで押し上げることに挑戦します。

 そこで最も大事なのはエンジニアの市場価値を向上させることです。次期中計では事業ポートフォリオに応じた人材ポートフォリオのあるべき姿も提示する予定です。そしてポートフォリオを達成するための人的資本への投資も着実に行います。

 エンジニアの市場価値向上は業界全体の課題でもあります。ITの世界で、GAFAのような巨大外資企業に対抗していくためには、一人一人の市場価値を上げることにこだわる必要がある。ここは魂を入れてやり遂げたいところです。

―― 市場価値向上というのは、賃金アップということですか。

當麻 当然、報酬も上げていかないといけませんが、報酬と合わせてワークエンゲージメントを高めていきます。言い換えれば働きがいです。SCSKの社会に対する貢献の大きさや、エンジニア自身がどのように世の中に貢献していけるかを実感できる会社にならねばなりません。これこそが働きがいになります。ですから、社員全員が仕事を通じて働きがいや心の豊かさを感じられる「Well-Being経営」を追求していきます。ウェルビーイングという言葉は、今ではよく使われるようになりましたが、私は昔からそういう経営に憧れていました。

 09年に西日本エリアの本部長になった時、改めて社員の顔を見渡しました。そこで、社員みんなを幸せにしなくちゃいけないと強く思ったのです。本部長になる前は部長でしたので、結婚式に参加させてもらった社員も多くいて、奥さんや子どもの顔を知っているメンバーもいます。ですから、社員はもちろん、その家族まで幸せにしなくちゃいけないと強烈に実感しました。そこからどうすれば社員は幸せになれるか必死で考えて、何とか少しでも働きやすい会社になるようにいろんな人事施策もやってきました。けれど、社員アンケートを見ていると働きがいのスコアが今ひとつ改善しませんでした。

―― それはなぜでしょうか。

當麻 これは業界の傾向でもあります。われわれのこれまでの業務は、顧客企業の事業効率化やコスト削減、事務効率化など、どちらかというと裏方の仕事です。一般コンシューマー向けの製品を提供している企業に比べて働きがいを感じにくかったのです。

 でも、これからは違います。DXを筆頭に、社会課題をITの力で解決していく機会が数多くある。いま、われわれは、東名阪に加え、グループとして国内に46の事業拠点を構えています。例えば沖縄であれば首里城復興を支援するなどITの力で課題解決を行う地方創生DXに力を入れています。このようにIT企業も社会への貢献を実感しやすい世の中になってきました。ですから、われわれは単純に働きやすい会社に留まらず、働きがいのある会社を目指していきます。

ITの可能性を追求し知名度にもこだわる

―― 今年から始まったテレビCMのフレーズは「無いぞ、知名度。SCSK あるぞ、ITの可能性。SCSK」です。ITの可能性は今言ったようなものだとして、「無いぞ、知名度。」というのはどういう意図でしょうか。
當麻 先ほど申し上げたように、われわれの仕事は黒子でした。だから自分たちの事業をBtoBでしかとらえることができなかった。しかし、BtoBtoCだということを意識しなければいけません。企業は社会の公器ですから、これは当たり前の話です。

 そう考えたときに、われわれのお客さまの先に存在する、社会全体や生活者個人というのは、もっと意識していくべきなんです。これまでそういう意識がやや薄く、業界を超えた知名度にこだわってきませんでしたので、「無いぞ、知名度。」という、やや自虐的なメッセージを使いました。

 また、CMは企業認知度向上施策ではありますが、社員の誇りにもなるはずです。実際に、田舎の親から電話がかかってきたとか、友達から声をかけてもらったとか、そんな反響も聞こえてきています。社員の誇りも知名度もこだわりたい。これはワークモチベーションにもつながっていくはずです。

―― ご自身のやりがい、生きがいは何でしょうか。

當麻 SCSKグループの企業価値を最大化すること、これに尽きます。収益の拡大や資本効率の向上といった経済価値の創出、また、われわれの事業を通じて社会価値を創出することで、結果的に、現在の時価総額7千数百億円から早期に1兆円を目指したいと思います。とにかく企業価値を上げ、ランキングで100位内に入るような会社にしたい。それらが結局、社員の幸せにつながると私は信じています。これが私のモチベーションです。