進撃のベンチャー徹底分析 第19回
「ママが輝ける社会をつくる」。そう目標を掲げるのは、母親向けサービスを提供するMamaladyCEOの明石奈々氏だ。明石氏が同社を立ち上げたきっかけは自身の原体験に基づいている。明石氏が幼少期、いつも明るかった母親が、いつもと同じように家庭の料理を作っている最中に失踪した。母親の日常から積み重なる、過度なストレスにより現実逃避をしたことが原因だった。その原体験を通して、明石氏は幼少期から母親が明るくなれる、幸せになれる世界をつくりたいという想いを抱いていた。文・戸村光(雑誌『経済界』2022年11月号より)
家庭のストレスを抱え込む母親
このまま少子高齢化が進めば、日本の人口は2040年に1億人を切り、50年には労働人口が5千万人を切る。この未来は日本人にとって既に共通認識となっている。国も少子化対策に取り組んでいるが、なかなか有効な施策を打てていない。
明石氏は人口減少を食い止める大きな一手となるのは、母親のUX(体験)向上にあるという。日本は女性が専業主婦となり、育児や家事に追われる結果、家庭内のすべてのストレスを抱え込むことが少なくない。そんな母親の体験の中身を向上させることができれば、2人目、3人目を出産する家庭が増えるのではないかと明石氏は語る。
累計フォロワーは3万人超え
明石氏のSNSフォロワーの累計は3万人を超える。これから母親になる女性から、現役の母親までの間で絶大な支持を得ている。そんな明石氏が提供するサービスは、体験向上のためのアイテムが詰まったセットボックス〝ママレディボックス〟と、母親の横のつながりを作り、支え合うコミュニティの運営だ。
フォロワーの声から見つけたママの課題
明石氏はこれまで母親をつなげるイベントを定期的に開催してきた。親子のつながりを作るイベントや、先輩ママから学ぶ勉強会など、フォロワーである顧客の声を拾い上げて、それを解決する場を提供することを目指してきた。
ある日、結婚式の宴会場から場所を使ってもらえないかと明石氏に連絡が入った。コロナ渦で結婚式を行う夫婦が減り、結婚式場は大きな機会損失を生んでいた。その場所を有効活用すると同時に母親の認知度を上げる目的で明石氏に声をかけたのだった。この経験から明石氏は、自身の作ったコミュニティやサービスは母親にリーチしたい企業にとって広告媒体としての価値を持つと理解した。
企業の悩みを解決するママレディボックス
新型コロナが流行するまで、母親向けサービスを提供する企業はイベントやリアルのインタビューを通して顧客の声を聞き、商品開発を行ってきた。しかし、コロナ禍によって、定期的なイベントの開催ができなくなったため、企業はこれまで通りの手法での商品開発が困難となった。そこで明石氏が考案したのが、ママレディボックスだ。明石氏のサービスに登録する母親がアンケートに答えることで、自宅に企業のサンプリング商品が届く仕組みになっている。複数の商品を一つのボックスで届けるため企業は送料を抑えることができ、また質の高いアンケート結果を得ることができる。箱の中には、サンプリング商品などの〝モノ〟のみならず、美容院やエステなど商品券が入っており、毎日をより充実したものとすることができる。
質の高いママの声が話題に取引先は54社に
こうしてママレディボックスで集めたアンケートは、これまで企業が取り組んでいたユーザーインタビューに比べ質の高い丁寧な結果が得られると話題になる。取引先もカゴメ、森永、資生堂など続々と増え、現在までに54社に拡大した。
質の高いアンケート結果を得られる要因は、ママレディボックスを自宅に送付して完結するのではなく、コミュニティに結び付けている点である。ママレディボックスをきっかけに母親同士の横のつながりができることで、普段の生活の悩みを共有し、助け合うことができる。さらにリアルでの母親同士のつながりを生むために定期的にイベントを開催している。
ママが輝ける社会をつくり日本の社会に貢献する
ママレディボックスは母親のみならず、母親になる前のマタニティ期より受け取ることが可能だ。これまでの送付回数はすでに1万回を超えた。
中でも特筆すべきは行政との連携だ。Mamaladyが本社を構える北海道では、これから出産を控える女性に対して母子手帳と同時にママレディボックスの案内が送付される。それにより年間2万8千人の妊婦に告知することができる。これは同社のサービスが母親のUXを向上させるという点が行政に認められるとともに、市民からも絶大な支持を得ているからこそできる取り組みであることは間違いない。
今後、北海道との提携を皮切りに全国の行政との横展開を目指すと明石氏は語る。母親の生活を豊かにする同社のサービスが、日本全国に浸透することで、合計特殊出生率を伸ばし、日本の人口減少問題を解決することを願ってやまない。