【連載】NFTが変える経済とビジネス
NFTやweb3が広がってきて、「トークン」という言葉が聞かれるようになりました。この言葉、なかなか日本語に当てはまる言葉がなく、辞書などを見ても、「証拠・印、代用貨幣、プログラムコードで意味を持つ最小単位」というよく分からない説明が書かれています。とはいえ、このトークンを理解しておかないと、web3が何を変えようとしているのか理解できません。トークンは仮想通貨の話よりも、もっと広い範囲で捉えるべきものです。ぜひ、今回の内容でトークンの意味を感覚的につかんでください。(文=足立明穂)
足立明穂氏のプロフィール
web3で金融業界に広がるトークンという言葉
昨今、金融業界でトークンという言葉が使われるようになっています。2つの事例を紹介しましょう。
1つ目は、三井物産デジタル・アセットマネジメント、三井住友信託銀行、野村證券、BOOSTRYが、不動産セキュリティ・トークンを発行したニュース。
□不動産セキュリティ・トークンの公募及び発行に関する協業について(参考)
https://www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/nsc/20220907/20220907.html
これまで不動産の売買というと、書類の手続きが必要で何かと面倒でした。それをトークンという形でのオンライン売買が可能になったのです。オンラインなので流動性が高くなり、この不動産のデジタル証券(トークン)は、100億円規模になっています。
□「不動産のデジタル証券」シリーズ運用残高100億円到達のお知らせ(参考)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000029.000056997.html
もう一つ紹介したいのが、国際送金・決済システムのSWIFTでもトークン化した証券などを売買できる実験を行っています。
□SWIFT、中銀デジタル通貨の国際ネットワークで青写真
https://jp.reuters.com/article/cenbank-digital-idJPKBN2R00P3
CBCD(中央銀行デジタル通貨)を含めて実験を行っているので、今後、不動産や債券などがトークン化され、デジタルマネーでの国際取引になるのは間違いないようです。そのうち、日本に来ることなく海外の人たちが日本国内の不動産を売買するということが起きてくるでしょう。
このように経済の世界では、次に来るトークンの取引がいつでもできるように準備が着々と進んでいます。
そもそもトークンとは? 太陽光発電の電気トークンの可能性
改めて、「トークン」とはどういうものでしょうか? web3でのトークンは、お金に代わる価値交換ができるツールといえるでしょう。回数券や切符、映画の入場券などもトークンの一種です。お金で支払う代わりに、回数券や切符といった代用品で支払っています。トークンを使って価値を交換しているのです。ただし、回数券や切符は限られた商品にしか使えないので、何も経済が変わる要素は見いだせませんが、これから先、電気がトークン化されると、経済が大きく変わる可能性があることを考えてみます。
太陽光発電を行っていると、天気の良い日はたくさんの電気が発電でき、余剰な電気を売電することになりますが、現状は発電したその時に売るしかありません。また、いつ販売しても一定価格での売電になっていて、電気がひっ迫していても、電気が余っていても同じ価格です。しかし、発電して余剰になった電気を蓄えて好きな時に売電できるようになると、話が変わってきます。
好きな時に売電できるようになると、例えば電気のひっ迫する暑い日の午後や、冬の寒い日の午前中などに売れば、需要が大きくなるので電気を高く売ることができ、逆に余っている時は蓄えておくことができます。
ただし、電気の価格を変動させると生産が大変になるので、電気トークンを作り売電した場合は電気トークンで支払われるようにすると、トークンの支払い量を変動させることで、需要と価格のバランスを調整できるようになります。つまり、電気がひっ迫している時に電気を売るとトークンを多くもらえるようになり、余っている時はトークンが少なくなるということで、売電価格を調整できるのです。そして、その電気トークンで利用した電気代金を支払うようになれば、高い時に電気を売って、安い時にトークンで支払うことができるようになります。
さらに、これが広がって、電気トークンを持っている人が増えていくと仮想通貨のように売買される電気トークン交換市場が生まれるでしょう。そうなれば、電気トークンで電気代だけでなく水道代やガス代、あるいは近所のスーパーでの支払いに使うことも出てくる可能性もあります。
トークンについて、少しはご理解いただけたでしょうか? 最初の特定の価値交換の「証拠・印」という役割から、交換できる市場が出来上がってくると「代用貨幣」として使われるようになり、そのうちトークンで他の商品も売買されるような経済圏まで広がる可能性が出てきます。これを支えるのがブロックチェーンであり、その上にさまざまなサービスが展開されるようになって、web3が広がっていくのです。
web3のトークンで危うくなる法定通貨の価値
このようなトークンをweb3の基礎技術になるブロックチェーンで発行することにより、偽造や改ざんが難しくなります。セキュリティが向上することで、運用コストが抑えられることから、多くの流通の中でさまざまなトークンが発行される可能性が出てきます。
今はトークンというと仮想通貨のような形ですが、これが電気や水道、あるいは野菜や肉などまで結び付いていくと、さまざまなトークンが支払いに使われるようになり、法定通貨とは違う経済圏、最初は小さな経済圏があちこちに立ち上がってくるでしょう。
まるで田舎の村社会で近所の人たちでの物々交換のようなトークン経済圏が、デジタルとインターネット、そしてブロックチェーンによって立ち上がってきます。
そうなると、円やドルといった中央銀行が発行する法定通貨が使われることが減り、だんだんと法定通貨そのものの意味が変わってきます。特にブロックチェーンに基づくトークンでは、簡単に海外取引ができるようになり、円やドルの為替レートも関係ありません。
とはいえ、各国は法律を使って法定通貨の信用を維持しようとするでしょうし、トークンがマネーロンダリングや犯罪に使われる恐れもあります。そう考えると、web3が広がりトークン経済やNFTが広がるのを何もしないで見ているわけにもいきません。どんな技術にもメリットとデメリットがあります。まだ始まったばかりのweb3は、誰もが気が付いていない画期的な利用方法もあるでしょうし、思いがけない落とし穴も潜んでいるかもしれません。だからこそ、関心を持って本質を知っておく必要があります。