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ソリューション型受注を貫き、防食の「サービス工事業」へ 丸栄産業 内田康起

丸栄産業 内田康起

防食工事で60年以上の歴史があり、高い技術力ときめ細かいサービスで定評のある丸栄産業。現在は業界では珍しいソリューション型受注で「サービス工事業」の確立を目指している。最近ではベンチャー企業と組んだロボット開発など、新分野にも乗り出している。(雑誌『経済界』2023年1月号より)

丸栄産業 内田康起
丸栄産業 内田康起(うちだ・やすおき)

製鉄所からビルリニューアルまで、膨大にある防食需要

 「腐食への挑戦」を掲げ、全国規模で事業を展開している丸栄産業は、防食工事の分野で業界に広く知られている存在だ。

 内田社長によれば、国内の防食の需要は「膨大な量」という。道路や橋などのインフラから工場まで、あらゆる構造物に鉄やコンクリートが使われているが、「鉄は必ず錆び、コンクリートは必ず劣化する」からだ。特に近年は「現状設備の延命化や、適切な設備稼働の観点からメンテナンスや維持補修が重視される傾向にある」という。

 1958年に内田社長の父親が創業した同社は、以来64年間にわたり、全国で工事実績を重ね、現在は本社のほか北海道、関東、関西、九州などに14拠点を展開する。売上構成は重防食と呼ばれるプラント鋼構造物向け工事が約8割を占め、次いでコンクリート防食、マンション・ビルリニューアルが1割ずつだ。

 メインの重防食は、主に国内大手の製鉄所や製油所構内でのプラント設備の防食・メンテナンスを手掛ける。コンクリート防食は高速道路の橋脚補強を主軸に、し尿処理場や下水処理場での実績も広がってきた。マンション・ビルリニューアルは20年ほど前から北九州エリアを中心に手掛けてきた。

 業績は安定している。売上高は2019年7月期が約40億円、20年7月期が約45億円、21年7月期が約50億円となった。直近の22年7月期は約45億円で約1割減収だったが、これは非効率な出先拠点を一部閉じたためで、利益は前期並みを維持した。

 同社の強みは技術志向にある。「創業以来、技術力の高い仕事でノウハウを積んできた」といい、他社と共同で新型塗料なども開発し、国際特許も取得している。

ベンチャー企業と組んで作業ロボット開発に挑戦

 特長は、単に工事を請け負うだけでなく、提案から施工、アフターフォローまで一貫したワンストップ型の業務を実践していることだ。「仕様書作成や予算申請の手伝いまで、工事以外の部分で顧客の業務負担を軽減できるように手伝っている」(内田社長)ほどの徹底ぶりで、業界でも珍しい。

 内田社長はワンストップ型に「ソリューション」提案を加える「サービス工事業」を確立させたい考えだ。そして「サービスの基本中の基本は顧客への反応スピードだ」とし、そのスピードを上げるために社内の業務フローを見直す構造改革を進めている。

 中でも力を入れているのがデジタル化だ。22年に「システム課」を新設し、自社内でデジタル化を推進する体制を構築しつつある。また、工事現場に出向く社員には、最新のデジタルツールを装備させ、これまで紙ベースで仕事をしていたものを順次デジタル化して、業務負担の軽減に取り組んでいる。勤怠管理も例外ではなく、給与明細も個人ごとにデジタル配信となっている。

 「入口から出口まで全てをデジタル化していく」と意気込む。

 一方で、社員の働きやすさも追求する。労働環境や待遇改善はもちろん、人事制度も見直す。従来は幹部を目指すコース、生活に合わせて働き方を重視するコース、専門スキルを重視するコースを設けて複線化していたが、価値観の多様化に合わせてさらなる細分化も検討する。

 人材育成にも積極的に取り組んでいる。幹部候補を対象に内田社長自ら講話する「社長塾」を毎月開催。このほか一般社員も対象に社外から講師を招き、OJTを含めて座学と実学の研修を通してのスキルアップと人間力アップを進めている。

 新入社員のリクルーティングにも力を入れている、新規採用はこの数年、文系、理系にかかわらず女性も含めて募集しており、毎年5人前後採用。また即戦力として期待できる中途採用も始めた。「新卒と中途採用をバランス良く配置することで、お互いを高め合う化学反応に期待したい」と語る。

 実は同社、数年前からベンチャー企業と組んで自走式ロボットの開発にも取り組んでいる。顧客先の現場から得たニーズに応えるもので、危険な場所や悪環境でも人間に代わって作業できるロボットだ。22年9月には最終段階の試作機も完成し、今後現場でテストを繰り返して1年後の実用化を目指している。

 「実用化できれば、当社の取引先だけでなく業界全体の困り事を解消できるはず」と期待を込める。

 「人の行く裏に道あり花の山」

 周囲と同じことをやるのではなく、自らが信じる独自路線を進めていくという内田社長の経営信条である。鉄やコンクリートは必ず腐食し劣化する。それを防ぎ、維持する仕事は社会にとって必要不可欠で、長い年月をかけて同社は技術力を高め、顧客のニーズに応えてきた。今はこれにロボット事業も加え事業領域は拡大の一途をたどっている。

 現状に満足せず、顧客第一主義を貫いて自らを〝サービス工事業〟と位置付ける同社の挑戦はこれからも続いていく。 

会社概要
設立   1958年6月
資本金  5,000万円
売上高  45億円
本社   福岡県北九州市小倉南区
従業員数 121人
事業内容 塗装工事、コンクリート防食、マンション・ビル改修工事
https://marueisangyou.jp/