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旺盛な需要受け生産増強急ぐ、最大手キャンピングカーメーカー  ナッツ 荒木賢治

ナッツ 荒木賢治

キャンピングカーメーカー国内最大手のナッツが、旺盛な需要に応えるため国内外で生産体制を増強する。同時に自社と業界団体で並行してキャンピングカー文化を根付かせる各種施策にも力を入れる。(雑誌『経済界』2023年1月号より)

ナッツ 荒木賢治
ナッツ 代表取締役CEO 荒木賢治(あらき・けんじ)

売上高右肩上がり、バックオーダー800台

 アルファロメオやマセラティで知られる多国籍自動車メーカー・ステランティスの日本法人ステランティス・ジャパンは、2022年9月に傘下のフィアットプロフェッショナルの人気商用バン「デュカト」を日本のキャンピングカー市場で拡販するため、国内5社と正規販売代理店契約を結んだ。そのうちの1社であるキャンピングカーメーカーのナッツは、国内全体の年間生産台数約8600台のうち約1100台を製造販売する最大手だ。

 同社の売上高は20年12月期が約74億円、翌21年12月期が約84億円と伸び、今期は90億円に達する見通し。一方、「契約ベースでは既に100億円を超えており、バックオーダーは800台以上抱えている」(荒木賢治代表取締役CEO)という人気ぶりだ。

 このため、生産体制の増強も急ぐ。現在、同社は北九州、中国・大連、フィリピン・セブに3工場を展開しているが、22年8月に大連工場を拡張移転。同年10月には北九州工場の敷地を約3300㎡拡張し、物流機能を強化した。セブ工場は21年12月に第2工場を新しく稼働させたばかりだが、敷地約3300㎡の第3工場を近く新設する計画。これで全体の生産能力は2割ほど増すという。

 「現在、納車待ちは短くて8カ月、長ければ2年にもなる。できるだけ縮めたい」と語る荒木氏。本社のある福岡県内で約16万5千㎡の工場用地取得も検討しており、「設備投資を続け、10年後には年間生産台数1万台を目指したい」と意気込む。

働きやすさを追求し、採用も強化

 自社の成長に合わせて採用にも力を入れている。2年前に170人だった国内の社員数は現在220人。荒木氏は「今でも足りていないので引き続き増やしていきたい」と語る。知名度アップのためにテレビCMも放映中だ。

 同時に、社内の働きやすさも追求する。近年、同社は夏季休暇の拡大を進めており、22年は10日間設けた。「来年は2週間、再来年は3週間というように順次期間を長くし、最終的には4週間にする」という。また、ナッツには社員専用のレンタルキャンピングカーが30台もあり、社員の福利厚生やキャンピングカーの体験はもちろん、CSR(企業の社会的責任)の一環として九州経産局や地元自治体と〝災害時連携協定〟を結んでいる。22年は9月に太宰府市、10月に宗像市と締結したばかりだ。社員自らキャンピングカーの魅力を体験してもらうことが狙いで、長期休暇中に利用する者も多く好評だ。

 さらに同社は社員が若いのも特徴だ。平均年齢は30歳ほどで、荒木氏は「若い社員が多いことは、これからも会社が成長していくということ。当社の未来は明るい」と笑みを見せる。中には若くして幹部に昇格する社員もおり、過去に24歳で課長に昇格した社員は現在40代前半で本部長を務める。北九州工場では22年に29歳の部長が誕生した。「年齢も性別もそれまでのキャリアも関係ない。やる気と能力さえあれば役職は上げる」と荒木氏。若い幹部社員が活躍していることで、リクルート効果がさらに高まりそうだ。

キャンピングカー文化を根付かせるための取り組み

 国内のキャンピングカー市場に目を移すと、この10年間拡大が続いている。業界団体の日本RV協会の統計では国内のキャンピングカー販売額は12年以降右肩上がりで、20年は過去最高の582億円。続く21年は9%増の635億円で過去最高を更新した。荒木氏によれば、購入層は40代、50代、60代が30%ずつを占めるが、最大240回払いの新車ローンが誕生したことなどを背景に、最近は30代も増えているという。

 それでも、キャンピングカー先進国の欧米に比べれば「国内市場は相当小さく、ニッチ産業を抜け出せていない」という。荒木氏は「日本のキャンピングカー文化がまだまだ成熟していないからだ」と指摘する。

 そこで同社は、日本にキャンピングカー文化を根付かせる施策にも注力している。その一つが「新しい遊びの提案と出会いの場の提供」をコンセプトに、自社のキャンピングカーオーナーたちを集める一大イベント「ナッツRV感謝祭」だ。先の10月に静岡県で開催した感謝祭には関東から関西に在住する500台超のオーナーが、それぞれのキャンピングカーで会場を訪れ交流を深めた。

 キャンピングカー文化を根付かせる活動は自社内に留まらない。荒木氏が会長を務める日本RV協会でも〝RVパーク〟というキャンピングカー等を中心とした車中泊施設を精力的に全国展開して、現在は340カ所を超える勢いだ。また、多数のイベントを開催し、その魅力を伝えている。22年9月には「ツーリズムEXPOジャパン2022」にも出展。キャンピングカーによる「くるま旅」ならびに「車中泊」を強くPRした。荒木氏は「航空機、船、電車、バスという旅の手段に、新たに『くるま旅』を浸透させたい。これからも広くアピールしていく」と力を込めた。 

会社概要
創業   1990年
資本金  1,000万円
売上高  84億円
本社   福岡県遠賀郡岡垣町
従業員数 220人(海外除く)
事業内容 キャンピングカー製造販売、特殊車両製造ほか
https://nutsrv.co.jp/