九州を代表する大手私鉄の西日本鉄道。2020年度はコロナ禍の直撃を受けて赤字に陥ったが、現在はⅤ字回復中だ。福岡都心部で進む複数の都市開発に意欲的に取り組んでおり、23年から順次、開業する予定だ。(雑誌『経済界』2023年1月号より)
過去最大赤字からⅤ字回復今期予想も上方修正
鉄道事業のほかバス、物流、ホテル・レジャー、不動産、流通など多岐にわたって事業を展開する西日本鉄道。2020年度は過去最大の赤字となったが、21年度は見事にⅤ字回復した。鉄道やバスの運賃・割引サービスの見直し、ICカードの乗車ポイント廃止や、レジャー施設の閉鎖をはじめとした「聖域なき構造改革」と、戦略部門である国際物流事業で輸出入取扱高を大幅に増やしたことが大きな要因だ。林田浩一社長は「『構造改革にしっかり取り組めば黒字は確保できる』という信念でやってきた」と振り返る。
コロナ禍で組み直した〝修正〟第15次中期経営計画の最終年度となる今期は、国際物流事業が引き続き好調で、通期業績見通しは直近予想よりさらに上方修正した。営業収益は約10%の増収、当期純利益こそ減益だが、営業利益、経常利益は増益を見込んでいる。
一方、鉄道・バス利用者数の戻りはコロナ前の7~8割ほどで、中でも高齢者の利用減が顕著だ。そこで22年10月から、ICカードの「スターnimoca」を利用した65歳以上を対象に、鉄道運賃の2割をポイントバックするサービスを開始し、利用者の拡大を狙っている。
リッツカールトンが入居する大型複合ビルが天神に誕生
福岡の都心部では、複数の大型都市開発が進んでいる。象徴的なのは福岡市の中心部・天神で、福岡市が主導して30棟のビルの建て替えを促す再開発プロジェクト「天神ビッグバン」。その目玉の一つは同社が約850億円を投じる「福ビル街区建替プロジェクト」だ。本社が入居していたビルを隣接のビル2棟とともに建て替えるもので、解体を経て21年12月に着工。24年12月の完成、25年春の開業を予定する。
「訪れる人々を常にワクワク・ドキドキさせる新しい価値を生み出し続ける場所」として「創造交差点」をコンセプトに掲げ、西日本最大級の基準階面積を備えたオフィスと商業、ホテルで構成する。ホテルフロアにはplan・Do・See運営のライフスタイル型ホテルが進出するほか、ビル中層階のスカイロビーに、米国のスタートアップ支援企業ケンブリッジ・イノベーション・センターがコワーキングスペースなどの起業家支援拠点をオープンする予定だ。林田社長は「福岡の地元の良さとグローバルの良さを合わせ持ったビルにしたい。楽しみにしていてほしい」と力を込める。
また、同社は積水ハウスや地場企業らとともに、天神ビッグバンの〝西のゲート〟と位置付けられている「福岡大名ガーデンシティ」の再開発にも参加。地下1階・地上25階建て、約111mの複合ビルで、ラグジュアリーホテルの「ザ・リッツ・カールトン」が入居することで話題となっている。建物はほぼ完成し、23年にホテルが開業予定だ。「主に商業フロアのリーシングを担っており、順調に進んでいる」とする林田社長。天神に主要鉄道路線のターミナル駅を持つ同社にとって「再開発で天神の価値を上げることはわれわれの役目だと思っている」と語る。
23年度からは第16次中期経営計画がスタートする。林田社長は、成長戦略の肝として引き続き天神をはじめとした地元福岡での開発に取り組むとともに、そのノウハウを持って福岡の外にも展開していく考えだ。例えば、同社はこれまでにも首都圏で分譲マンションを開発してきたが、「今後はオフィスや物流施設も考えたい」(林田社長)とする。
一方で、「公共交通があってこその西鉄グループだ」とも強調する。昨今、国内各地で地方路線の役割について議論が起こっているが、「当社も自治体や地域と今後の公共交通の在り方について一緒に考えることを呼び掛けたい」と話す。
前社長の倉富純男会長(九州経済連合会会長)からバトンタッチして1年半余り。厳しい状況からの船出だったが、本格的に林田カラーを打ち出していくのはこれからだ。
会社概要 設立 1908年12月 資本金 261億5,729万円 売上高 4,271億5,900万円(2021年度連結) 本社 福岡市博多区 従業員数 1万8,576人(2021年度末連結) 事業内容 鉄道、自動車による運送事業、利用運送事業、航空運送代理店業、通関業、不動産売買・賃貸業、ホテル事業、その他 https://www.nishitetsu.co.jp/ |