経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

北海道の明るい未来を描いた「2050年ビジョン」の実現に向けて旗振り役に 北海道経済連合会 真弓明彦

北海道経済連合会 会長 真弓明彦

コロナ禍や物価高騰で厳しい経済環境にある日本。観光が主産業の一つである北海道は最も影響を受けた地域だ。さらに全国と比べて10年早く人口減少が進行するなど課題は山積している。北海道経済連合会では足元の対策だけでなく、2050年の望ましい北海道のビジョンを定め、実現に向けて動き出した。真弓明彦会長に現状の課題と将来展望を聞いた。(雑誌『経済界』「新時代を切り拓く北海道特集」2023年2月号より)

北海道経済連合会 会長 真弓明彦
北海道経済連合会 会長 真弓明彦
まゆみ・あきひこ──1954年生まれ。北海道出身。79年北海道大学工学部卒業後、同年北海道電力入社。2012年常務取締役、14年副社長、同年社長に就任。19年会長。同年6月から現職。

「DX推進」や「ゼロカーボン」など、大きな変革期に

 コロナ禍の長期化により北海道では基幹産業の「食」と「観光」を中心に大きなダメージを受けていますが、行動制限や入国制限の緩和、さらには経済回復に向けた施策によって、徐々に観光客が戻りつつあるなど、明るい兆しも出てきています。

 一方、急激な物価高騰により、農業や中小企業においては、生産コスト上昇に対する価格転嫁が難しいこともあり、経営に深刻な影響が生じています。また、コロナ禍の影響を受け続けている飲食や観光事業者においても、〝ゼロゼロ融資〟(コロナウィルス感染症の影響を受けた企業に実質無利子無担保で融資する制度)の返済時期の到来や人手不足が深刻な課題となっています。

 政府は「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を打ち出しており、当会としては、今後の施策内容を注視しながら、引き続き政府や北海道に対して現場の実態をお伝えし、事業者の皆さまを支えるための効果的な対策の実行などについて訴えていきます。

 足元は大変厳しい経済状況ですが、北海道においては人口減少が全国よりも10年早く進行しており、労働者不足や後継者不足、買物難民や交通弱者といった課題もすでに顕在化しています。

 一方、コロナ禍を契機に「DX・GXの推進」「東京一極集中是正の活発化」とともに、「ゼロカーボン北海道」や「食料とエネルギーの安全保障・自給率向上」など、北海道にとって大きな変革となりうる動きも生じています。

 当会では、こうした動きを「豊かな自然と食・再生可能エネルギーなど、北海道が有する多くのポテンシャルを生かし、経済や産業を活性化させていくチャンスである」と捉え、人口減少に起因する諸課題を解決し、持続可能な北海道を実現するための戦略と方策を取りまとめた「2050北海道ビジョン」を、21年6月に公表しました。

 このビジョンは、50年の「望ましい北海道」の姿を描いた上で、バックキャスティングする形でマイルストーンを30年に設定し、そこに向けて「オール北海道」で取り組むべき目標と具体的方策を示したものです。

 30年には、デジタル化によって生産性が向上するとともに、レジリエンス(復元力)も強化されている。多くのチャレンジ人材や企業が北海道に集まり、新たな産業も生まれるなど「稼ぐ力」が向上し、わが国のカーボンニュートラルにも大きく貢献している。そうした北海道の姿を目指しています。

北海道の潜在力を生かし事業活動で成功事例を

宇宙産業の北海道への集積を目指している
宇宙産業の北海道への集積を目指している

 現在、ビジョン実現を目指し、産学官連携の下で取り組んでいる主な事業活動は4点です。1点目は「ゼロカーボン北海道」の推進です。国の骨太方針に2年連続明記され、エネルギー自給率向上の面からも、再エネ賦存量(資源の潜在的な存在量)が全国随一の北海道には、大きな期待が寄せられています。当会が活動を進める上で重要と考えているのは、「脱炭素と地域経済の好循環」です。脱炭素活動に併せて、地域でお金が回り雇用が生まれ、地域経済の活性化と持続可能な地域づくりにつなげることが何より重要です。

 現在、これを目指し、道内で新ビジネスや事業を創り出す「事業化プロジェクト」活動に取り組んでおり、今後は、自治体や企業との連携を強化し、100%再エネで事業を進めようとする道外企業の誘致や道内企業への支援、再エネ関連事業の育成などを進めていきます。

 2点目は「宇宙産業の6次産業化」の推進です。宇宙産業は、北海道の持つポテンシャルを生かし、抱える課題を解決する、そして安全保障の面でも重要な社会インフラです。当会は、射場として地理的優位性のある道東の大樹町で整備中のスペースポートを起点に、宇宙産業の集積を目指した活動を進めています。宇宙産業の6次産業化とは、大樹町に1次産業のスペースポートがあり、その周辺に、2次産業のロケット・衛星などの製造業が集積。3次産業として、ロケットで打ち上げた衛星データをスマート農林水産業、自動除雪や自動運転、さらにはインフラ保全や災害対策など、道内のあらゆる産業で利活用している姿です。現在、30年に向けたアクションプランを策定中であり、23年度から実践します。

大きな波及効果が期待できる2030年冬季五輪の招致へ

 3点目は「スポーツアイランド北海道」を展望した活動です。北海道は、冬は積雪・夏は冷涼な気候という地域特性・強みを有し、四季を通じてスポーツを楽しめる地域です。スポーツは北海道のブランド価値をさらに高める分野と大変期待しており、当会では「スポーツアイランド北海道」と名付けて活動しています。現在は特に、道内に大きな波及効果をもたらす「2030年北海道・札幌冬季オリンピック・パラリンピック大会」の招致に向けた機運の醸成や理解促進活動に注力しています。

 4点目は「北海道の未来を担う人材の育成」です。政府は「人への投資」を重要政策の一つとして掲げておりますが、人口減少が進む北海道においても、人材の育成は重要です。デジタルを活用し企画・実行できる人材や、基幹産業の農業をはじめとする専門人材、地域に貢献できるリーダー人材などの育成を、産学官連携によって進めています。

 日本に限らず世界の社会経済情勢が激変し、不連続、不透明な状況が続いています。そのような中、持続可能な北海道の実現のためには、わが国の食料・エネルギーの自給率向上への貢献を含めて、北海道のポテンシャルを生かす取り組みが大変重要と考えています。北海道が抱える諸課題を解決し、北海道の明るい未来を創り上げるべく、当会は「旗振り役」「コーディネイト役」として、さまざまな方々と北海道の将来への思いを共有し、共に知恵を絞り、アイデアを出し合い、汗をかきながら、一つずつ成功事例や実績を積み重ねてまいります。