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強靭な北海道経済をつくり日本経済のさらなる発展に貢献する 経済産業省 北海道経済産業局長 岩永正嗣

北海道経済産業局長 岩永正嗣

コロナ禍は多くの産業に深刻な打撃を与えたが、デジタル化やリモートワークの普及など、ポジティブな側面もある。実際、北海道では農業や観光分野で最先端技術を利活用する事例が増え、スタートアップへの支援体制も整った。その現状を岩永正嗣局長に聞いた。(雑誌『経済界』「新時代を切り拓く北海道特集」2023年2月号より)

北海道経済産業局長 岩永正嗣
経済産業省 北海道経済産業局長 岩永正嗣
いわなが・まさし──1967年生まれ。千葉県出身。91年慶應義塾大学経済学部卒業、同年通商産業省(現・経済産業省)入省。貿易経済協力局資金協力課長、通商政策局北東アジア課長、資源エネルギー庁資源・燃料部石油精製備蓄課長、外務省在中華人民共和国日本国大使館公使、大臣官房審議官などを経て22年7月より現職。

地域資源を活かした高付加価値ビジネス創出へ

 北海道は、広大な面積に人口が分散し、都市への集積度が低い広域分散型構造にあることに加え、少子高齢化等により全国を上回るペースで人口減少が進んでいることからさまざまな構造的課題を抱えています。また、新型コロナウイルス感染症の流行は、「食」「観光」を基幹産業とする北海道経済に大きな打撃を与えました。

 一方で、新型コロナの感染拡大は、デジタル化、リモート化を加速。北海道は、豊かな自然環境や快適な生活環境、さらには農林水産業やエネルギー資源の高いポテンシャルという強みを活かし、構造的な課題を乗り越え、新たなビジネスや生活のモデルを構築していくフェーズに入りつつあります。足元の経済情勢には依然厳しさもあるものの、北海道経済はポストコロナの経済社会を力強く切り拓き、日本経済に貢献していくことができると考えています。

 北海道では、大規模化が進む農業など一次産業や、労働集約的な生産形態がいまだに多い食品製造業などの主要産業において、生産性向上や人手不足等の課題への対応が急務となっています。また、地域社会においては、人口減少が進む中、豊かな自然環境や観光資源など多様な魅力を生かした新たなまちづくり、公共インフラやサービスの提供が求められています。

 政府としても、こうした課題の解決に向けて、DXの推進やロボット、IoT、AIの導入の加速に取り組んでいます。例えば、農業の現場では、無人トラクターやドローンの社会実装や衛星画像の活用、食品製造業の現場では、水産加工におけるロボットや画像解析技術を活用した省力化・生産性向上などさまざまな事例が進んでいます。

ポストコロナを切り拓くスタートアップを支援

 地域の課題は、大手企業のみならず、特に中堅・中小企業にとってはビジネスチャンスでもあります。特に新たなビジネスモデルを創造するスタートアップ企業の活躍が期待されます。

 このため経済産業局では、スタートアップ企業の創出に先⾏して取り組んできた札幌市をはじめ関係機関と連携し、スタートアップ企業の事業化⽀援や、地域の多様な課題を解決するための道内自治体とのマッチングを実施するなど、さまざまな形でスタートアップ企業の成⻑⽀援に取り組んでいます。

 また、地域発でグローバルな活躍を目指すスタートアップ企業を選定し、公的機関と民間企業が連携して集中支援を実施することで、スタートアップ企業の飛躍的な成長を図ることを目的としたJ-Startup HOKKAIDOを始動。道内のスタートアップ・エコシステムの形成・強化を目指しています。

 こうした中、農業、宇宙、AI、医療・バイオなど幅広い複数の分野において、技術などを持っている優れたスタートアップが輩出されてきております。

ATをコアにした地域観光産業活性化

 「北海道のコロナ前の2019年度、インバウンド需要は4300億円。これは同年の北海道の財の輸出3100億円を大きく上回る」と鶴雅グループの大西雅之社長(日本旅館協会会長)が指摘するように、北海道にとって観光、インバウンド需要への対応は重要です。

 中でも「自然」「異文化体験」「アクティビティ」という要素で構成される体験型の旅行「アドベンチャーツーリズム(AT)」は、世界での市場規模が70兆円とも言われる有望形態です。23年9月にはアジアで初めてのワールドサミットが北海道で開催されます。経済産業局としても、北海道や関係組織と連携してATによる新たな需要創出に取り組む地域・企業の発掘・支援などを強化していきます。

再エネ活動を通じたカーボンニュートラルの実現

 北海道は、太陽光、風力、バイオマス、地熱などの再生可能エネルギーにおいて、全国トップクラスのポテンシャルを有しています。中でも、再エネ導入拡大の切り札である「洋上風力発電」については、日本海側を中心に風況の良い北海道が全国的に注目されているところ、国としてもその導入推進に向け、再エネ海域利用法の施行による制度面の整備や、グリーンイノベーション基金を用いた技術的支援を進めています。また、再エネのさらなる導入には調整力強化が不可欠であり、系統用蓄電池の導入支援、新々北本連系線の増強を図っていくとともに、北海道・本州間の海底直流送電線の整備計画が検討されているところです。

 一方、エネルギーの地産地消の考えも必要です。豊富な再エネ、冷涼な気候、平坦かつ広大な土地の確保が可能という特性を生かしたデータセンターの立地についても、今後のさらなる進展が期待されています。また、企業、自治体とも連携し、バイオガスのメタノール変換技術の開発をはじめ、再エネの地産地消プロジェクトの組成等を進めています。

 23年4月には「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」が札幌で開催されます。当該開催に向けて、こうした取り組みがますます進むことが期待されます。

 産業構造審議会は、22年6月、これまでの産業政策を大きく見直す「新機軸」を打ち出しました。テーマは「ミッション志向」。地域の産業政策も、既存の業界区分等を前提とする産業を軸としたものから、自治体、産業・企業をはじめ、あらゆるプレーヤーが中長期の地域や社会の課題を共有し、それぞれが持つ特徴、強みを生かしつつ、ビジネスの視点からそれら課題を解決していく「ミッション志向」でのアプローチが鍵となるのではないでしょうか。域内の多様な個性を生かして社会全体での「包摂的成長」を実現する。北海道はそうした新たな発展のモデルたり得るものと確信しています。