経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

チェーン店を超えた技術で魅力ある日本文化を世界へ くら寿司 田中邦彦

くら寿司 社長 田中邦彦

日本、米国、台湾に560店舗以上を展開する回転すし大手のくら寿司。化学調味料などの4大添加物無添加にこだわるなど、品質を貫きながら新たな挑戦を続ける。コロナ禍で自信を深めたIoT技術を活用した事業展開を含め、今後の展望を探った。(雑誌『経済界』「関西経済! 次の一手!特集」2023年3月号より)

田中邦彦・くら寿司 社長 

くら寿司 社長 田中邦彦
くら寿司 社長 田中邦彦

世界に通用する技術力で本業の深化に挑戦し続ける

── 足元の取り組みは。

田中 オートメーションによる飲食店の可能性を広げています。レストランは、ローマ時代から労働集約的で単純労働のままです。これを解放する取り組みの一環として、スマホによる予約・注文からセルフ会計まで、IoTなどの技術を活用し、お客さまと対店員とのコンタクトレスを実現した「スマートくら寿司」を全店で展開できました。お客さまは入店からお帰りまで従業員に接触することなく飲食をお楽しみいただけます。この導入により、ホールの人員も6人から5人に効率化でき、生産性は上がりました。

 回転すしは、月20アイテム以上もの新商品を出す業界です。システム管理が煩雑になると現場は混乱を起こします。当社はチェーン店でありながら、「こんなことができるんや!」という驚きを提供していきたい。 レストランを科学的に分析し改革していけば、さらにお客さまに喜んでいただけると考えています。

── 海外展開については。

田中 われわれの技術は世界に通用するという自信があります。味への要求レベルが高いとされる台湾で喜ばれ、働く人たちを単純労働からある程度解放できれば、世界に受け入れられる飲食チェーンとなります。

 海外進出は有益で、やらない理由がありません。現在の台湾、アメリカだけでなく、世界の主要な国の大都市圏にくら寿司を出店することで日本の文化を広めたい。マクドナルドやスターバックスなど、世界展開を成功している企業にはポイントがあります。1つの事業を貫いていることです。本業をさらに突き詰め、深化、発展させていくことで成長につなげています。

 当社においては、その一例が「スマートくら寿司」です。それが、今回のコロナ禍で大きな力となりました。今後も命ある限り、本業の回転すしを深化、発展させていきます。

「食卓にもっと魚を!」食の安定供給と漁業創生へ

── 今後の挑戦は。

田中 日本の漁業創生への取り組みです。世界の1人当たりの魚介類消費量はこの50年で約2倍になったにもかかわらず、日本では減少傾向にあります。水産庁のデータによると、日本の漁獲量は1984年の1282万トンをピークに2020年には423万トンに減少し、食卓に魚が上らない状況が増えています。魚を水揚げしても市場に流通しなければ、漁業者さんの収入にはなりません。その結果として、漁業者さんの数が減り、日本の食料自給率3・6%という低さの一因となっています。生活者の皆さんは、コロナ禍で食料を輸入に頼ることの不安がよく分かったのではないでしょうか。農業や漁業の現状を変えなければ、日本の食の安定供給はありません。

 幸いにも、日本には世界第6位の海洋面積を誇る豊かな漁場があります。魚の安定供給と漁業の発展のため、「天然魚プロジェクト」にチャレンジしています。この取り組みの一つとして、獲れた魚を全量買い取る「一船買い」を行っており、あまり市場に出回らない低利用魚も積極的に取り扱うことで、漁業者さんの収入の安定化にも寄与しています。また、自社加工センターがあるため、産地から仕入れた国産天然魚は寿司ネタとしての利用はもちろん、総菜や養殖魚のエサの一部などに加工することで、丸ごと使い切ることができるのです。現在約115の漁師さんと取引できており、2023年からさらに漁業創生に向けた取り組みを進めていきます。

危機を乗り越えた社員と共に世界に日本の魅力を伝える

── 昨今の情勢に対して、どのように取り組んでこられましたか。

田中 コロナ禍は前代未聞の事態で、売り上げは一時半分以下になり、いまだに打撃はありますが、無借金のままで乗り切れています。

 厳しい局面は社員一丸となって取り組んできました。アニメとのコラボなど、以前から手掛けていたことをうまく活用できました。コロナ禍の「Go To Eatキャンペーン」にはシステム対応が必要でしたが、当社は準備が整っており100%展開できました。一にも二にも大切なのは社員です。会社の成長につながるものです。

── 関西の展望については。

田中 大企業の多くは関西で生まれています。その背景には、さまざまな技術を持った企業同士が密接にやりとりをしながら発展してきた歴史があります。ベースにフレンドシップがあるのです。現在多くの企業が東京に本社を移していますが、関西には商売の文化や環境が備わっているのではないでしょうか。

 また魅力的な観光資源も豊富です。例えば和歌山は梅干しや鰹節に加えて、わさびの発祥地でもあります。観光地はそれ自体が商品になりますから、世界中から人が集まります。農業・漁業、そして観光がよみがえれば、関西は世界的に発展するポテンシャルがあります。ここに大いに期待しています。

会社概要
創 業●1977年5月(設立1995年11月)
資本金●20億532万円
売上高●1,830億円(2021年10月末現在)
本 社●大阪府堺市
従業員数●4万1,339人(パート・アルバイト含む)、正社員2,185人(2021年10月末現在)
事業内容●飲食業
https://www.kurasushi.co.jp/company/