経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

創業130年の「信頼」を守り世界中に独自製品と健康を届ける 森下仁丹 森下雄司

森下仁丹 社長 森下雄司

生薬を配合した口中清涼剤「仁丹」を筆頭にヘルスケア製品や医薬品、化粧品などを製造・販売する森下仁丹。創業130周年を迎えるその長い歴史を築いてきたのは、製品の独自性と、人と製品をつなぐ「信頼」と「安心」だ。(雑誌『経済界』「関西経済! 次の一手!特集」2023年3月号より)

森下雄司・森下仁丹社長 

森下仁丹 社長 森下雄司
森下仁丹 社長 森下雄司

数十年先を見据えて柔軟に時代が求める製品開発に挑戦

 近年は新型コロナウイルス感染症の影響によって消費者の健康意識が高まり、同社のサプリメントなどヘルスケア製品の受注は好調に推移した。海外の店舗の一部では休業を余儀なくされ、リテール事業は足踏み状態となったが、全体で見ると大きな影響はなく、2022年を終えることができたという。

 「脂肪の代謝を促進し、体脂肪を低減する機能を持つローズヒップエキスなど、独自の機能性素材を提供しているお客さまも製品展開を強化しており、需要が新たな分野にスライドしたと実感しています」と森下社長は話す。

 ウクライナ情勢による原材料不足などの影響はあるものの、仕入れの分散購買を進めるなど、事前に対策を打つことで製品の安定供給に努めている。こうした急激な社会情勢の変化は、自社の強みについて考え直す機会になったという。

 「円安による原材料価格の高騰も今後は影響が出てくるでしょう。それを前提に事業を進める必要がありますが、組織が柔軟性を持ち、目の前のお客さまが求めるヘルスケア製品の開発に挑戦し続けたい」

 時代の変遷に応じて常に新たな挑戦をしてきた。創業時から100年以上愛されている「仁丹」も、時代の嗜好に合わせて「グリーン仁丹」や「梅仁丹」、液体タイプなど多様な製品に展開している。またコア技術の「シームレスカプセル」や独自素材などは数十年前から研究開発に取り組んでおり、現在は事業の柱になっている。

 22年には大手グローバル化粧品会社との共同研究により、「シームレスカプセル」の技術を用いた化粧品カプセルを開発。サプライヤーとして技術革新にも取り組んでいる。

 「急激に前進するわけではありませんが、10年、20年先を見据えて広くアンテナを張り、自分たちにできることは何か、各部門がそれぞれの考えで地道に取り組み、健康に役立つ製品を生み出していきます」

100年企業の責任を持ち全ステークホルダーに誠実に

 森下仁丹は23年に130周年を迎える。長い歴史を背景に、この先数十年を見据えて歩む同社から伝わるのは、「信頼」を大切にする姿勢だ。

 「130年の歴史は私たちの成果ではなく、先人が積み上げてきたもの。ありがたく思うと同時に、今後の成長への責任を重く感じています。長年、多くのお客さまに当社製品を信頼してご購入いただいていますが、私たちが一つでも無責任なことをすれば全てが水泡に帰します。歴史をおごらず、常に自分たちを省みながら、安心して口に入れていただける製品をつくり続けます」

 取引先や仕入先に対しても、誠実さを重視する姿勢は変わらない。一方的な値上げなど、どちらかが不利益になることを良しとせず、これまで共に歩んだ歴史を大切に共存共栄の信頼関係を築いている。

 創業以来培ってきた「信頼」への責任は、SDGsへの取り組みにも表れている。滋賀工場ではISO14001を取得し、クリーン燃料である天然ガスを用いた「コージェネレーションシステム」を導入してCO排出量の削減に取り組んでいる。社内には委員会を設置し、社員一人一人が「メーカーとしてできること」を自発的に考える機会を設けた。事業や社内活動に際しても、コストだけでなく環境に配慮した意識で議論が進んでいるという。

 健康経営にも積極的に取り組んでおり、22年まで4年連続で「健康経営優良法人」に認定された。「社員皆が元気でいてくれないと会社が成り立ちません。健康を発信する企業だからなおさら、自分たちがまず一番に健康でなければ」と健康増進・疾病予防に注力する。

 「急拡大しようとすれば、大事にすべきことが後回しになり、どこかにゆがみが起きてしまう。背伸びせず、爪先立ちくらいでいろいろなことに取り組んでいきます」

 全てのステークホルダーからの信頼を裏切らず誠実に向き合う姿勢が、今日につながっているのだ。

「ならでは」の製品を追求し世界市場の拡大を目指す

 今後の成長は、強みである「独自性」の追求にあると話す森下社長。「『仁丹』に並ぶ製品をつくるのは大変ですが、『シームレスカプセル』や独自素材の深掘りなどで『ならでは』の製品を開発し、一人でも多くの方に届けたいと考えています」

 製品開発と並行して、今後10~20年かけて海外市場のさらなる拡大を目指す。台湾やベトナムなどアジアを中心に、世界各国のパートナー企業と連携を深め、店舗とインターネット通販の両輪で展開していく。

 「仁丹」のパッケージにも描かれている「大礼服マーク」と呼ばれるロゴマークは外交官を表している。創業者である森下博氏の「人々の健康のために、仁丹を世界中に広めたい」という願いから生まれたマークだ。マークを背負った製品が外交官のように日本をはじめ各国に広く駆け巡り、関西企業の底力を世界に証明してくれるに違いない。 

会社概要
創 業●1893年2月(設立1936年11月)
資本金●35億3,740万円
売上高●95億6,300万円
本 社●大阪市中央区
従業員数●348人
事業内容●医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器ならびに食品等の製造および販売
https://www.jintan.co.jp/