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不確実性の時代を超克する積極投資と分配のススメ レンゴー  大坪 清

レンゴー 会長兼CEO 大坪 清

ロシアのウクライナ侵攻による原燃料の高騰や、記録的な円安をはじめ、確実な展望が見えない時代を迎えている。製紙や段ボール、重包装まで、パッケージに関する事業を一気通貫で手掛けるレンゴーは、国内外で主にM&Aにより関連会社を増やし、グループ内のシナジーを最大化している。レンゴー会長の大坪清氏にパラダイム転換期に求められる経営のあり方を聞いた。(雑誌『経済界』「関西経済! 次の一手!特集」2023年3月号より)

大坪 清・レンゴー 会長兼CEOのプロフィール 

レンゴー 会長兼CEO 大坪 清
レンゴー 会長兼CEO 大坪 清
おおつぼ・きよし──1939年大阪府生まれ。62年神戸大学卒業後、住友商事入社。紙パルプ部門を中心に歩み、97年常務取締役欧州総支配人兼欧州住友商事会社社長、2000年住友商事副社長を経て、同年6月レンゴー社長就任、14年会長兼社長に就任し、20年より現職。

海外戦略のカギは先を見据えたM&A

── コロナ禍を乗り越え、海外事業が好調です。中国や東南アジアだけではなく、2022年はドイツに欧州拠点のレンゴー・ヨーロッパを設立しました。

大坪 海外事業はこれからも伸びますから、積極的に投資していきます。当社の売上高の海外比率は20%に達する勢いです。その内訳として、中国を中心としたアジア地域が約60%、欧米が約40%です。今後は欧米を一層開拓していきます。目先はドイツとアメリカでの設備投資に注力していく計画です。

── アメリカではレンゴーのグループ企業であるトライウォール社を通して、重量物包装資材メーカーを新たにM&Aしています。

大坪 現地企業を当社グループに入れたり、日本のグループ企業が海外に進出することによって、多国籍に取引を広げています。例えば、ペットフード用パックの需要が伸びているアメリカには、22年3月に子会社化したタキガワ・コーポレーションが事業展開しています。

 他にも、脱プラスチックによる環境負荷低減の社会的ニーズを受けて、バイオマス原料を利用した食品向けパッケージを開発した朋和産業は、バイデン大統領を輩出したデラウェア州にヘッドオフィスを置き米国ビジネスをスタートし、成功させています。

── 海外戦略において外国為替市場の動向は無視できないものとなっています。歴史的な円安が問題視される一方で、金融緩和による恩恵はありますか。

大坪 資金調達がしやすいのは事実です。行き過ぎた円安はデメリットもあるものの、私としてはプラスの効用が大きいと感じます。黒田日銀総裁の金融緩和が無条件に正しいわけではありませんが、日銀の金融政策に合わせた経営スタイルができている企業はずっと伸びています。多くの議論はあるものの、資金調達がやりやすかったという点で、金融緩和は支持できます。

 当社は設備投資を最重視している会社です。以前は過剰投資なのではないかとよく言われたものですが、現在までにしっかりと効果が出てきています。

── 中期ビジョン「Vision115」ではさらに高い収益目標を掲げています。

大坪 当社は24年度に115周年を迎えるに当たって、中期ビジョン「Vision115」を打ち出しています。115周年には売上高1兆円の達成を目指しており、ここでは高い収益性を実現するという強い思いを込めています。グローバル展開が軌道に乗り、ようやく達成できるという目算が立ちました。この低金利と円安という状況は悪いものではありません。世界的にもロジスティクスのニーズがますます高まっています。

パラダイムの転換期こそ内部留保なき経営を

── 25年は大阪・関西万博が控えています。

大坪 私も役員を務める関西経済連合会としても、大阪・関西万博は重要な国際イベントと位置付けています。現在はロシア・ウクライナ危機による諸資材の価格高騰を受けて当初の予算が大幅に膨らみつつあります。パビリオン出展国への資金援助をはじめ、不測の課題は山積していますが、必ず成功させます。

── 万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」ですが、ロシアによるウクライナ侵攻によりエネルギー価格も高騰し、未来への不透明感が強まっています。

大坪 パラダイムが本格的に変化している状況です。このような転換期を経営者は本気で自覚する必要があります。このような時代こそ、企業は利益を内部留保せずに、どんどん使っていくべきです。そして、そこには従業員に対するリターンをキッチリと含めなければなりません。岸田総理も「成長と分配」の重要性を述べていますが、分配こそ組織の持続的な成長のためには最も重要と言えるものです。

── 企業の内部留保が増える一方、日本の労働分配率はなかなか高まりません。

大坪 危機の時代にあっても、金融緩和の恩恵を受けつつ業績が好調な企業も目立ちます。経団連の十倉雅和会長も、ベースアップを中心に、賞与や手当などを含め、長期的な賃上げに取り組むべきと述べていましたが、私もこれには同意できます。国と産業界が一体となり、分配に積極的な企業をバックアップしていく仕組みを整えていくことは喫緊の課題です。

 働き方改革を強力に推進し、従業員の働きに、しっかりと報いる企業が、長期的な成長を実現できます。数年先までの近視眼的な目線しか持てないサラリーマン的経営者ではこの取り組みは達成できません。「成長と分配」の責務を果たすためにも、オーナーシップを持った経営者が求められているのです。