経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

食料・水・環境を一体と捉え地球規模で人の未来を支える クボタ 北尾裕一

クボタ 社長 北尾裕一

農機メーカーとして国内トップ、世界でも第3位のシェアを誇るグローバルメーカーのクボタ。創業期から社会課題の解決に取り組んできた。命を支えるプラットフォーマーとして、未来を見据える構想を伺った。(雑誌『経済界』「関西経済! 次の一手!特集」2023年3月号より)

北尾裕一・クボタ社長 

クボタ 社長 北尾裕一
クボタ 社長 北尾裕一

「食料・水・環境」領域でクボタならではの価値を提供

 クボタが北米への輸出に乗り出したのが50年前。近年は販売製造拠点だけでなく、世界中に開発研究所を創設している。2022年はインドのエスコーツ社を連結子会社化、アジアでの地位を固める。今や農業機械の海外販売が売り上げの70%以上を占める同社は、地産地消による真のグローバル化に向けて攻めの姿勢を崩さない。取り組みはそれだけではない。日本の農業の課題解決から地球規模の「食料・水・環境」の領域で価値を提供している。

 創業は1890年。当時コレラの蔓延をきっかけに、安心して水を供給できるようにと国内初の水道管を量産化、現在は世界中の上下水道インフラを支えている。

 「『泥臭い』会社です。地道に社会を支えていくというのが私たちのDNAです」と北尾社長。水道に始まり、社会の発展に伴って生じる課題を真摯に解決してきた。創業者の久保田権四郎氏が遺した「品物には正しき意味に於ける商品価値を具現せしむること」との言葉が根付いている。

 戦後の農業食糧危機に当たっては農機具を機械化、1960年代に工業化が進む中で環境問題やごみ問題など、世の中に常に目を向けてきた。持続可能な社会づくりに創業以来取り組んできたのだ。

 ただし、失敗もあった。90年頃、時代の波に乗って異業種のコンピュータービジネスに飛び込むも、知恵も技術者もない事業は続かず、会社の強みを見直す機会になったという。

北尾社長は会社を「地べたを這うGAFA」と呼ぶ。流行りに飛びつくのではなく、人が営む社会での暮らしを地面から支えるところに存在価値がある。現在の事業は多岐にわたるが、「食料・水・環境」から逸脱するものはない。

コロナ禍で見えた使命と長期ビジョン

 社長就任は2020年のコロナ禍。国際情勢のさまざまなファクターが複雑に絡み合い、部品調達や人材不足などのバランスを取ることに悩まされたという。「この3年間はジェットコースターでした」と語る。しかし、国内外の顧客の期待は変わらず、需要が減ることはなかった。この状況に「われわれはエッセンシャル企業として、命を守り社会を支えているという誇りを、社員全員でより強く持つことができた。130年の歴史を振り返り、この認識を強められた」と振り返る。

 この状況下で打ち出したのが、長期ビジョン「GMB(Global Major Brand)2030」だ。地球規模で社会の姿を捉え直し、会社の役割について議論を重ねた。

 カーボンニュートラルについては、事業における取り組みに加えて、農業全般で発生する二酸化炭素やメタン、フロンガスといった温室効果ガス問題に向き合っていく。

 例えば、水田から発生するメタンガスは、センサーを使って水量を調整するデバイスによってコントロールできる。また肥料の散布量をコントロールすることで、肥料残りから発生する窒素を減らすことができ、COの300倍も地球温暖化に影響があるとされる一酸化二窒素の発生を抑えることが可能だ。実現に向けて、研究を進めている。

 日本では農業従事者の高齢化と後継者不足が深刻化しており、農家自体の数も減少している。そこで、それら課題に対するソリューションを、ICTやAI技術を活用した「スマート農業」で提案していく。

 農機の自動運転や、収穫物の量・水分量・タンパク質をデータ収集できる、KSAS(Kubota Smart Agri System)開発も進めている。農業生産から消費までを捉えるプラットフォーマーとして飲食店・小売店や消費者などの流通をデータ化することで、生産計画を適正化する。

 今まで農家の経験と勘に頼ってきた農業を見える化・自動化することで、最適な食の提供を実現する。新たな担い手も増やすことで、日本の食を支えていくのだ。

社内外でシナジーを生み、地球規模で価値を提供

 長期ビジョンの達成には、新たな発想やイノベーティブな技術が必要になる。

 「食料・水・環境の分野が連携することでシナジーを生む。これにより、世界でクボタにしかできない強みを発揮できる」

 社内横断の価値創造、またスタートアップをはじめ他社との連携にも積極的だ。北尾社長には、同社がプラットフォーマーとして構想する「スマートビレッジ」構想がある。人口減少・高齢化が進む地域で、農業、水、廃棄物といった資源をITやDXを活用して有機的に循環し、人々が自然と共存しながら暮らす村をつくるのだ。日本にふるさとが再び実現するかもしれない。

 創業130年を超える大木はしっかりと根を張ってきた。同志と共に、そこで生きる人や自然の恵みに貢献し、「豊かな社会と自然の循環にコミットする『命を支えるプラットフォーマー』」としての存在意義をもって、未来に実りをもたらす。 

会社概要
創 業●1890年
資本金●841億円
売上高●2兆1,968億円(2021年12月期連結)
本 社●大阪市浪速区
従業員数●4万3,293人
事業内容●農業機械、建設機械、産業用エンジン、水環境インフラ関連製品の製造・販売など
https://www.kubota.co.jp/