経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

消費者にも企業にも迫られる「倫理的」選択のために

総論_SHEIN店舗

文=小林千華(雑誌『経済界』巻頭特集「エシカルを選ぶ理由」2023年3月号より)

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瞬く間に若い世代を虜にしたSHEINが抱える闇

 2022年9月7日、日本経済新聞に「企業価値ユニクロ超え」の見出し付きで、中国発ECサイトSHEIN(シーイン)の隆盛に関する記事が掲載された。

 SHEINは、20年頃から主にアパレル製品のEC分野で、Z世代を中心とする若年層への認知を拡大させていった。特に、400円台でブラウスが購入できる圧倒的な安さ、毎日の新作発表による膨大な商品点数を強みに急成長し、22年4月には米ブルームバーグの報道で、推定時価総額が1千億ドル(約12兆3700億円)に達したと発表された。ユニクロやGUを運営するファーストリテイリングの時価総額は、22年後半は8兆円前後で推移している。まさに「企業価値ユニクロ超え」だ。

 ところが22年10月、英チャンネル4は、SHEINで販売される衣料品の製造工場への潜入調査の様子を記録したドキュメンタリー映像を公開。工場労働者の報酬は衣類1着につきわずか4セント(約6円)、休日は月に1日、1日18時間働くこともしばしばーー。その内容は世界に衝撃を与えた。

 報道を受け、SHEINは同社の提携するサプライチェーンへの調査を実施し、2カ所の倉庫で労働時間に関する現地の規定が守られていなかったと発表。12月5日には、今後3、4年かけて、工場刷新に1500万ドル(約20億3千万円)の資金を投じるとの声明を出した。

 高度経済成長期には「安かろう、悪かろう」という言葉も生まれたが、テクノロジーの発展した現代では、この言葉は必ずしも全てのモノには当てはまらなくなった。安さと機能性を兼ね備えた製品が数多く登場し、「安いのは当たり前」になった今、価格競争の激化はとどまるところを知らない。

 しかし、SHEINに関する一連の騒動は、消費者に問いを投げかけた。安ければそれでいいのか。安さを追うあまり、その裏にあるほころびを無視してはいないか。

 そんな現代において、「エシカル」な消費スタイルが注目されている。「エシカル(ethical)」は「倫理的」という意味を持つ英語で、単に価格や機能性だけを理由に購入するのではなく、人や地域、社会に配慮し、「良心に従って」行う消費活動をエシカル消費と呼ぶ。労働者に公正な支払いがされているフェアトレードの製品や、環境負荷の少ないプロセスを踏んで作られた製品を積極的に選ぶことが、エシカル消費の好例だ。SDGs(持続可能な開発目標)の目標12「つくる責任、つかう責任」を果たすための取り組みにもなりうるため、SDGsが国連で採択された15年9月以降、「サステナブル」などの言葉と共に改めて周知されるようになった。

 消費者庁が22年11月に実施した「第3回消費生活意識調査」によれば、エシカル消費を「知っている」と回答した人は26・9%と、前回調査が行われた19年度と比べて14・7ポイント増加している。エシカル消費につながる行動を「実践している」と回答した人の割合も、前回の36・1%に対して今回は76・4%と増加しており、消費者側の意識は少しずつ向上しつつあることがうかがえる。

変化を求められる企業具体的な対応策は

総論_SHEIN店舗2
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 既に多くの企業が、こうした社会変化への対応を強化している。

 アサヒビールは早くも1998年から工場廃棄物ゼロを達成しており、環境課題解決への意識を高く持っている。また、アサヒグループ全体でもビールの製造過程で副産物として残る「ビール酵母」が持つ植物免疫力を引き上げる力に着目して開発された、食品由来の安心・安全な農業資材を展開しており、安定した農作物生産や施設の緑化に貢献している。実際に岐阜県の水田跡地を活用したサツマイモ栽培では、サツマイモの発根が促進され生育が良くなり、収穫量が前年の約1・3倍になったとのことだ。本来廃棄物となるものを副産物と捉え、新たに役立てる方法を見つけることで、廃棄物の削減とさらに別のメリットを同時に享受できる。

 小路明善会長によれば、同社は環境負荷の低減、循環型経済の実現といった目標から、さらに一歩踏み込んだ視点を持っているという。

 「これからはリジェネラティブ(再生)の時代です。サステナブル(持続可能)といった現状維持の目標では不十分で、状況を今以上に良くしていこうという意識を持って社会課題の解決に取り組んでいかなければなりません」

総論_HASUNA_HP
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 また、エシカルという言葉は地球環境だけでなく人権問題などへの配慮の意味も含んでいる。日本発ジュエリーブランドHASUNAは、使用するダイヤモンドの産地や採掘過程にこだわった「エシカルジュエリー」を販売している。ジュエリーに使われるダイヤモンドなどの鉱物は、紛争地域の武器売買の資金源として用いられたり、採掘の過程で児童労働が行われていたりと、購入することで間接的に消費者がそれらの問題に加担してしまうリスクを秘めている。国内で「エシカル」という言葉がほぼ認知されていなかった2009年にHASUNAを創業した白木夏子代表はエシカルジュエリーの販売だけでなく、ジュエリーの持つ背景についても積極的に発信することで、消費者の意識改革を促している。

 企業側がエシカルビジネスの流れを無視できない理由は消費動向以外にもある。財務情報だけではなく、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3点に着目して投資を行うESG投資が拡大し、経営そのものをエシカルに行っているかどうかが、資金調達に直接影響を及ぼしうるようになっているのだ。短期的な利益を追求するだけでは投資家に求められる経営はできない。そんな企業トップの焦りも、エシカル消費のムーブメントを加速させる一因となっている。

 本特集では、企業の代表や担当者への取材を通して、エシカルへの消費者の関心の実態、それによって企業に迫られる変化について分析していく。対応するにあたっての参考になれば幸いだ。