結婚式事業、ホテル事業を通して地域創生や環境課題の解決に貢献し続けるテイクアンドギヴ・ニーズ。新宿区・神楽坂のTRUNK(HOUSE)で、野尻佳孝会長にエシカル消費への考え方を聞いた。聞き手=小林千華 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』巻頭特集「エシカルを選ぶ理由」2023年3月号より)
野尻佳孝・テイクアンドギヴ・ニーズ会長/TRUNK社長のプロフィール
侃々諤々の末たどり着いた。無理せず楽しめる社会貢献
ーー ここTRUNK(HOUSE)は、料亭をフルリノベーションした宿泊施設だそうですね。
野尻 はい。もともと料亭でしたが、その後は芸者さんの踊りの稽古場にもなっていました。訪日外国人がたくさんやって来るようになって、京都は賑わっていたけれど、同じように和の雰囲気漂うこの神楽坂にはいまいち盛り上がりがなかった。海外からの観光客を惹きつけるような仕掛けを、ということで、かつては花街でもあった神楽坂の歴史を感じられるこの建物を、味わいは残しつつブティックホテルにリノベーションしました。
渋谷区神宮前のTRUNK(HOTEL)も街にインパクトを与えたいと考えて生み出したホテルです。海外の観光客、そして渋谷区の皆さまから支持していただいたことが、周辺地域の街並みを変え、エリアの価値上昇にまでつながったと考えています。
成功の要因として、ホテルのコンセプトである「ソーシャライジング」の理念があると思います。テイクアンドギヴ・ニーズがホテル事業をやろうということでTRUNKを立ち上げた際、創業メンバー10名ほどで、ホテル事業をやる目的や目指す姿、そもそも自分たちは何がしたいのかについて、時間をかけて何度も話し合ったんです。そして出てきたキーワードのひとつが「貢献」でした。そこで、自分たちの目指す社会貢献のスタイルを、ホテルという商材を通じていろんな人を巻き込みつつ共創していくことを目標としました。
ーー その実現に向けて掲げた「ソーシャライジング」とは、どういったコンセプトなのでしょうか。
野尻 当社ではソーシャライジングを「自分らしく、無理せず等身大で、社会的な目的を持って生活すること」と定義づけています。特に、自分たちとお客さま、自分たちと取引先、会社と従業員といったあらゆる関係性を良好にすることを大きなテーマとし、社会との良好な関係性づくりというのをすべての行動に取り入れていくように社員にも呼びかけています。
このソーシャライジングという広域のテーマの中に、「エシカル」「サステナブル」といった内容も入るイメージです。
ーー 具体的な取り組みは。
野尻 もともとテイクアンドギヴ・ニーズとしても、ウェディング事業において、司会やヘアメイクのスタッフなどを現地の方に依頼したり、食事には地域の食材を使用したりと、地域社会に貢献する取り組みを行っていました。ワインも日本産のものを意識的に多く取り扱っています。廃棄予定のドレスのパーツを組み合わせた「アップサイクルドレス」のレンタルなど、地球環境への配慮も意識しています。
TRUNKとしては、TRUNK(HOTEL)内のショップでリサイクル・アップサイクルによって生まれた製品や地元産の製品を販売したりしています。レストランでは、シェフたちが自ら、子ども食堂をチャペルで開催したり、規格外野菜を採用したメニュー開発を行うなど、ソーシャライジングのキーワードとなる社会とのさまざまな「関係性」を重視した取り組みを行っています。
商品そのものの魅力には妥協しない姿勢が大切
ーー 製造プロセスや素材にこだわれば、その分コストもかかります。サステナビリティやエシカル消費の流れに沿うべきだと考えても、なかなか舵を切れない事業者も多そうです。
野尻 そうですね。消費者だって「エシカルだから、サステナブルだから買おう」とはまだなかなか考えません。まず商品そのものに魅力があってこそ選ばれるのです。
TRUNKでも、ソーシャライジングの発想を取り入れた商材を積極的に扱っていこうと決めたとき、何より大切にしたのが「クリエイティブ」でした。商品の見た目や機能性にこだわる「TRUNKアトリエ」というチームを新設し、まずは商品力を上げようと。その分人件費もかかりますが、選ばれるホテルにするには必要なコストだと考えています。このTRUNK(HOUSE)にしても、ソーシャライジングというコンセプトを知らないお客さまでも利用したいと思っていただけるように、内装・外装のデザインやアメニティ、施設でできる体験に工夫を凝らしました。
消費者側の意識に関しても、製品のバックグラウンドを意識して買う、素材や製造プロセスまでよく調べて買うことをすぐに習慣づけることは難しい。まずは商品の見た目や機能性に惹かれて購入して、後から「これって地球環境に配慮したプロセスで作られていたんだ」とか「この製品を選ぶことで被災地支援に貢献できたんだ」などと気付くような体験を積み重ねていただいたほうが、意識改革につながりやすいと思います。
ーー 日本でもエシカル・サステナブルな消費活動は今後メジャーになるでしょうか。
野尻 なると思いますよ。日本って、変わる時は本当にガラッと変わる国ですから。このパンデミックでも人との接し方やマスクへの姿勢が一気に変化したように、人々の消費スタイルも、恐らく5年以内くらいには大きく変わるだろうと思います。
今はあらゆる製品の原材料やエネルギーの価格高騰が起きていて、企業は利益が出せず賃金も上がらない。こういう状況が続けば、企業も消費者もこれでいいのか、今持つべき姿勢とは何なのかと考え始めるはずです。誰もが周囲に流されすぎず、自分が正しいと思える経済活動、消費活動をしようと思えるようになるのが理想ですね。
TRUNKの創業メンバーが自分たちのやりたいことを問い続けて「貢献」という結論が出てきたように、僕は人の潜在的な欲求には社会のため、人のためになりたいという気持ちがあると思う。それが顕在化して、行動に表れてくるのにそう時間はかからないはずです。若い世代は既に意識がそちらへ傾いていますしね。企業もその流れを汲んでいくべきだと切に思います。