経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「世界から貧困をなくしたい」目標につながるビジネスを作る ユーグレナ 福本拓元

微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)を使った健康食品で一世を風靡したユーグレナ社。2021年には原料の一部にユーグレナの油脂を使用したバイオ燃料でジェット機の飛行に成功した。創業当初から不変の理念とエシカルなビジネスモデルについて、ユーグレナヘルスケアカンパニー長の福本拓元氏に聞いた。聞き手=萩原梨湖(雑誌『経済界』巻頭特集「エシカルを選ぶ理由」2023年3月号より)

福本拓元 ユーグレナ
福本拓元 ユーグレナ執行役員ユーグレナヘルスケアカンパニー長

事業の拡大そのものが社会貢献になる

ーー 2021年6月4日にユーグレナのバイオ燃料「サステオ」を使用したジェット機の飛行に成功しました。さらに企業の注目度が高まりますね。

福本 そうですね。でも、もともとはバイオ燃料の製造を目的に事業を始めたわけではありません。創業のきっかけは、社長の出雲が18歳の時、バングラデシュで子どもたちの栄養失調を目の当たりにしたことです。栄養の偏った食事を続けているため5歳未満の約半数の子どもが何かしらの栄養問題を抱えている、そんな状況に遭遇した出雲は、世の中の栄養問題を解決することを決意しました。

 その決意から約5年後に私と出雲は出会い、出雲と共にユーグレナの研究をしてきた現CTOの鈴木も含めた3人で会社を立ち上げました。05年に世界で初めて屋外でユーグレナの食用大量培養に成功し、14年からは栄養豊富なユーグレナクッキーをバングラデシュの子どもたちに無償で提供する活動を始めました。私は創業時からユーグレナ商品の事業化を担当しており、今でも食品や化粧品など、売り上げの中心を担う事業全般を担当しています。

ーー エシカルな視点は創業時から続いていたのですね。

福本 われわれの会社そのものがそもそもエシカルな思考からスタートしていると言えます。しかしタイミング的に、エシカルな事業が注目される時期ではありませんでした。創業当時はサステナブルなんていう言葉は誰にも知られていませんでしたし、SDGsも15年に国連が作った目標です。

 創業した05年というのは07年にノーベル平和賞を受賞したアル・ゴアさんの本『不都合な真実』が流行しており、地球温暖化に対する危機感や政府の対応に提言し意識改革を促すドキュメンタリー映画も制作されました。

 誰もがこのままでは地球が破綻してしまうという危機感を持ち、日本は環境ブームを迎えます。しかしその後リーマンショックや東日本大震災などがおこり、日本社会は社会貢献や地球温暖化防止どころではなくなります。日本のCSR活動は03年ごろに高まりをみせましたが、日本の多くの企業がコストや採用人数を削減し、社会貢献費も大幅にカットしました。高まり始めた日本のCSR活動が縮小しているさなかでわれわれの事業は始まったのです。

ーー 今もウクライナ情勢やパンデミックの影響で経済が不安定になっていますが、社会貢献の意識がまた途絶えてしまうのではないですか。

福本 確かに今の流れは、エシカルな取り組みをするには逆風の状況かもしれません。ただ、前回と違うのは危機感の大きさです。戦争の影響やパンデミック、異常気象を経験したことで、従来の生活を続けていくことの難しさを誰もが実感していると思います。

 非常に悪い事態ではありますが、違う見方をすれば、エシカルな思考を推進していくための一つのエンジンになり得るととらえることもできます。消費者だけでなく、企業側も「その事業の成長が果たして社会に貢献するのか」という観点をもって事業を選択するべきです。

日本企業の社会貢献は建前にすぎない

ーー 日本はまだまだそのような企業は少ないですね。

福本 日本でCSR活動を取り入れている企業は数多くありますが、そのほとんどがボランティア的な取り組みで、ビジネスとして成立しているものはあまりありません。

 数年前、CSR活動について真剣に取り組んでいる会社の経営者を集め、グラミン銀行やバングラデシュのNGO「BRAC」の方たちとサミットを開催する機会がありました。

 私はその時、社の代表として参加したのですが、彼らに日本のCSR活動について厳しい指摘を受けたことを鮮明に覚えています。「企業はCSR活動を、事業が作り出す社会課題への弁明としかとらえていないだろう」という指摘でした。

 BRACは、農業開発・教育・保健・金融ビジネスなどを行う大規模なNGO組織で、グラミン銀行は、生活困窮者に対して小規模な額を無担保で融資し、就労の支援をする銀行です。そんな彼らからしてみれば、日本企業がしていることは小手先だけの慈善活動にすぎません。

 グラミン銀行は生活困窮者の方にお金を貸すため、一見慈善事業のように見えるかもしれませんが、弱い人たちを救済するためだけにやっているのではないのです。貸したお金を軸に事業をしてもらい、稼いだお金でさらに事業を拡大してもらいます。職に就く支援をし、自力で生活費を稼げるようにする、これ自体がグラミン銀行のビジネスの核にあたりこれこそがソーシャルビジネスだと彼らは語りました。

ーー 本物のエシカル経営とは何かを教わったのですね。

福本 これは、私を含めその場にいた経営者には耳の痛い話でした。健康食品やバイオ燃料には真剣に取り組んでいましたし、われわれが世界の栄養問題をなくすという決意があっただけにショックを受けましたが、考えてみれば当然のことです。

 〝一応やっておこう〟という気持ちで始めたCSR活動はボランティアの形式が多く、会社が儲かっているうちは取り組むことができますが、景気が低迷し経営がピンチになると真っ先に切り捨てる対象となります。

 われわれがバングラデシュで子どもたちにユーグレナクッキーを配布する「ユーグレナGENKIプログラム」は、商品の売り上げの一部をプログラムの運営費に充てており、利益が社会へ還元される仕組みです。これは集った利益の一部を還元しているのではなく、最初から原価構造に費用を組み込んでいるので、どんな状況でもバングラデシュで子どもたちへユーグレナクッキーの配布を続けることができます。このプログラムは14年に開始し、現在までで1470万1092食分(22年10月末時点)のクッキーを配布することができました。

ーー 他にエシカル経営を成功させる秘訣はありますか。

福本 バイオ燃料事業においてはリーダーの決断力が特に発揮されたと思っています。原料の一部にユーグレナの油脂を使って製造したバイオ燃料でジェット機を飛ばした実績の裏には、実は65億円のも投資がありました。これはバイオ燃料製造実証プラントへの投資だったのですが、実証プラントというのは試験用の工場であるためいずれは役目を終えるものです。本業のヘルスケア事業がもう少し成長して、バイオ燃料事業の成長が見込めてからの投資でもいいのではないかというのが当時の率直な意見でしたが、出雲は一歩も引きませんでしたね。

 今われわれは、バイオ燃料事業を行うことができ、バイオ燃料の導入先も増え、そしてESG投資家などからの評価も得ています。バイオ燃料事業の今があるのはあの判断のお陰です。出雲は少年心を持ち、夢を語り続ける人です。そういう人だったから「人と地球を健康にする」という信念を持ち続け、折れずにここまで到達できたんだと思います。ユーグレナ自体がエシカルな存在ですから、ぜひ今後の活躍も期待していただきたいです。