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マーケティングとしてのエシカルの意義 アクタス 大重 亨

大重亨 アクタス

ヨーロッパ家具の輸入・販売で知られ、現在は生活雑貨を含めたライフスタイル全般を扱うアクタスも独自の循環システムの構築など環境経営に注力している。大重亨氏にマーケティングとしてのエシカルの意義を聞いた。聞き手=金本景介(雑誌『経済界』巻頭特集「エシカルを選ぶ理由」2023年3月号より)

大重亨 アクタス
大重 亨 アクタス常務取締役
おおしげ・とおる 1961年京都市生まれ。同志社大学法学部卒業後、84年アクタス入社。2006年マーケティング部門および商品開発部門の部長を兼任後、08年に執行役員、16年に取締役兼マーケティング本部長に就任。20年2月から現職。主にブランディングとマーケティングを担当。

ーー 今日では「サステナビリティ」や「SDGs」を聞かない日はありませんが、アクタスは2009年時点でリサイクルシステム「エコループ」を実施しています。スタート当初、反響はありましたか。

大重 現在と比べて隔世の感がありますが、正直なところ当時はメディアからの反応は薄かったです。「エコループ」はお客さまから引き取った使用済の家具を素材パーツごとに解体し、廃棄物を再資源化する取り組みです。例えば木材部分は家具の芯材として使うパーティクルボードに再生しています。従来は引き取った家具は焼却していたのですが、前職で木工職人だった社員から、木材は芯材として再利用できると発案があったのがキッカケです。

 社内でも、若い世代はエコへの意識がひときわ強く、社会の常識が更新されていることを実感します。顧客への定点的なアンケート調査を通しても、この傾向は加速しています。特にコロナ禍のニューノーマルを経て、自分の生活をより丁寧に見直している方が増えました。家具も頻繁に買い換えるのではなく、良いモノを買ってなるべく長く使いたいという方が増え、一度あたりの購入単価も増えています。

ーー 企業の環境配慮の取り組みが、若い世代の支持を生み、それが結果として利益にもつながります。大量消費社会の象徴であるラグジュアリーブランドもエシカルを全面に打ち出す潮流があります。

大重 「モードの帝王」ジョルジオ・アルマーニも、持続可能性を考慮しつつ発表するコレクションの回数を減らすべきだと述べていますね。私の管掌はマーケティングですが、顧客からの信頼を得ること以上に、社員が自社に対する誇りを持つことが最重要だと考えています。エシカルはその点で、最も優れたツールです。環境経営についても徹底的に社内で話し合い、文化が浸透しきっています。この企業の誠実な取り組みが若い社員のモチベーションになっています。

――創業時からの理念にも「エシカル」に通底するところがあります。

大重 53年前に当社は創業しましたが、当時の京都近代美術館で開催されたヨーロッパのリビングアート展に創業メンバーは強く胸を打たれました。北欧を中心とした素晴らしいデザインの家具の展示です。当時は、物が氾濫した高度経済成長期でしたが、これを契機として住生活を真の意味で豊かにするためには愛着を持って長く使える家具を届けなければならないという今に続く方針が決まりました。

 この創業時の精神を引き継ぎ、どのような修理にも応えるメンテナンス体制を整えています。最近も50年前に当社1号店で購入していただいたデンマーク製のテーブルと椅子の修理依頼がありましたが、本来、家具は次世代に受け継がれるものです。この姿勢を一貫することが結果としてサステナブルな成長につながります。