ゲストは作家、研修講師、俳優、ラジオパーソナリティ、国際イベント審査員などマルチに活躍する中谷彰宏さん。現在はリーダー育成やビジネスマナー研修を行う「中谷塾」を運営しています。そんな中谷さんとカッコいい大人の立ち居振る舞いについて語り合いました。似顔絵&聞き手=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=西畑孝則(雑誌『経済界』2023年3月号より)
中谷彰宏氏のプロフィール
TPOに合った身だしなみはその人の存在価値を高める
佐藤 友人の企業の上場記念パーティーでは偶然にも同じテーブルでご一緒できてうれしかったです。ありがとうございました。
中谷 こちらこそありがとうございました。パーティーの席次は大事ですよね。新たな出会いもありますし。僕は初対面の人と話す時、その人の笑顔と、身だしなみがきちんとしているかを見ています。
佐藤 どちらも重要ですね。最近はビジネスの世界でもカジュアル化が進んでいます。弊社は経済界倶楽部の会合をホテルで毎月開催していますが、中にはジャージやジーパンで来る人もいます。カジュアルがすべてダメというわけではないのですが、TPOを弁えてほしいですね。
中谷 パーティーや会合の招待を受けたら、ドレスコードと食事の形式は事前に確認します。ドレスコードがない場では最低でもタキシードですね。若手向けのビジネスマナー研修でもタキシードを1着仕立てておけと必ず言います。これはおしゃれのためではなく、主催者への配慮です。場の雰囲気に合った身だしなみはその人の価値を高めますし、その場にふさわしい存在なのか、またそこでチャンスをつかめるかにまで広がる話です。佐藤さんは先日も上品な訪問着をお召しでしたね。
佐藤 ありがとうございます。最近は結婚式でも紬や小紋を着てくる若い女性がいて衝撃を受けます。本人に悪気はなくとも、ご両親や周囲の大人が教えてあげないと、本人が恥をかくのに。私は着付けも自分でできますが、今は着付けで具合が悪くなる若い女性も多いと聞きます。日本の伝統的な習慣・文化が薄れている気がして寂しくなります。
中谷 そうですね。マナーに関しては社会人の立ち居振る舞いを学ぶ機会も、間違っていても注意される経験もないから何が正しいのか分からないのでしょう。そこは自分でおかしいと気づけるか、センスが問われます。会社であれば、経営者や上司がカッコいい見本となり、若手に体験させることです。ある経営者は、銀座の専門店で部下全員のオーダーシャツを仕立てて贈っているそうです。昔は銀座のクラブがそうしたマナーを学ぶ場でした。
佐藤 銀座のクラブは社交場ですしね。ただ、スーツも着物も普段から着ていないと、いざという時に着こなせないですよね。
中谷 そうですね。湘南で日焼けした中年男性に白シャツが似合うのも着こなせているからです。着こなしで大切なのは、ジャストサイズかどうかと生地ですね。ペラペラの生地では格好が付きません。僕は美術館での仕事も多いのですが、きちんとした格好で行くと、気持ちが引き締まり作品を見る感度も上がります。
佐藤 背筋が伸びますよね。
次の時代のリーダーを育てるそれが「中谷塾」の役割
佐藤 中谷さんは2008年から社会人などにリーダー研修やビジネスマナー等を教える中谷塾を主宰されています。近年は独立・起業を目指す人も増えていますよね。
中谷 増えています。ただ、名刺に「起業準備中」と書く人もいて、そんな情けないことを書くくらいなら早く起業してしまえと思います。この起業までを躊躇なくできるのがフリースクールに通う小中学生です。子どもが会社を設立し、資金繰りに困るフリースクールを買い取って運営しているケースもあります。
佐藤 すごい! 子どもには無限の可能性がありますね。リーダーに育つ子どもたちが世にどんどん出てきてほしいですね。
中谷 知人の自衛隊の幕僚長が、「世の中すべての人を助けるのはマザー・テレサに任せておいて、自分はリーダーを育てるのが仕事」と話していました。震災や事故が起きた時も、個々の力がなくても優れたリーダーがいれば生き残れるからだと。
佐藤 なるほど。では個々を育てるにはどうしたらいいのでしょう。
中谷 一案として、企業であれば副業を勧めます。日本では本業だけを頑張る人が潔いとされますが、現代は違います。副業を通して外部の情報に触れることができ、人脈も視野も広がり、本業引退後のセカンドキャリアにもなり、報酬も受け取れます。メリットは多いですね。
佐藤 私も同じ考えです。コロナ禍で社会的に副業を推奨する流れができて、老舗出版社の弊社も副業を正式に解禁しました。就業時間は会社の仕事に集中し、アフター5や土日は社外の仕事や自己投資など好きなことをしてもらい、そこで得たものを本業にも生かしてほしい。一サラリーマンではなく、自営業の経営者としての自覚と責任感が芽生えますしね。中谷さんの今後の目標は。
中谷 中谷塾を通して、次の時代のリーダーを育てることです。京都では明治2年に明治天皇が東京に移られた後、次のリーダーを育てる教育体制を整えるべく、64校の町立小学校をつくりました。次に地域経済を潤そうと外国人客を取り込むため、日本初の国際博覧会を開催しました。これで町の人々は英語を学びました。こうした環境があったから時代のリーダーが生まれ、京都は発展していったのです。中谷塾はそうしたリーダー教育のお手伝いをしていきます。冒頭のパーティーや会合の話に戻ると、経営者であっても、着席してスマホばかり見て交流しない人は成長できませんし、魅力もありません。
佐藤 まさしく(笑)。私も積極的に交流して成長を目指します!