経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

話題の尽きないグロース市場と「モテる」経営者たち

文・和田一樹(雑誌『経済界』2023年4月号より)

eスポーツにVTuber新ジャンルの企業が台頭

IPO社数
IPO社数

 東証再編から間もなく1年がたつ。2022年4月22日、東京証券取引所は、市場第一部・市場第二部・マザーズ・JASDAQ(スタンダード・グロース)の4つの市場区分を、グローバル企業が中心の「プライム市場」、国内経済の軸となる「スタンダード市場」、高い成長性が期待できる「グロース市場」の3つの新しい市場区分へと再編した。

 主な目的は各市場のすみ分け理由の明確化である。13年の東証と大阪証券取引所との経営統合などを経て、それぞれの市場のコンセプトや関係性が分かりにくくなっていた。結果的に、日本の株式市場の活性化を妨げていたと言われる。今回の再編によって特に海外投資家を呼び込み、日本市場の流動性を高めることで活性化が期待される。企業側としても、再編にあたって改めて自分たちが何を目指す企業なのか再定義のきっかけになった。

 22年、東証を含む国内の取引所に上場した企業は91社だった。21年が125社だったことを考えると減少している印象もあるが、19年の86社、20年の93社と比べれば同様の水準だったことが分かる。また、91社というのは、リーマン・ショック後で見れば4番目に多い数でもあった。内訳をみると、再編前のマザーズの10社を含めた70社がグロース市場で、全体の4分の3以上を占めた。再編後のグロース市場は、これまでのマザーズ・JASDAQ(グロース)の受け皿となっており、ベンチャー・スタートアップ企業は主にこの市場に上場する。日本市場の未来を担う企業が揃うのがグロース市場ということになる。

 再編にあたり、グロース市場で上場を維持する目安のひとつとして、上場から10年経過時点で時価総額40億円以上という基準が設けられた。マザーズの場合は10億円であったことと比べると、上場後にしっかりと高い成長を遂げることが求められている。

 将来性が求められる市場だけに、新しい事業領域で成長している企業が上場してくるのもグロース市場の特徴である。22年も、VTuberグループ「にじさんじ」の運営を行うANYCOLOR(エニーカラー)や、64ページでも取り上げる、eスポーツ関連企業のウェルプレイド・ライゼストなどが多くの注目を集めた。実際にウェルプレイド・ライゼストは、公開価格1170円に対し初値で6200円を付け、上昇率は22年新規上場銘柄でトップとなる5倍超えであったし、エニーカラーも公開価格1530円に対して初値は4810円を付けた。他にも、グロース市場の新規上場銘柄は12月30日終値時点で公開価格を上回っていた企業が多く、パーキンソン病専門の有料老人ホームを中心に介護事業を展開するサンウェルズや、フリーランスを活用したコンサルティング・システムの開発支援などを行うイントループ、本誌第一特集の24ページで取り上げたM&A総合研究所などは初値からの上昇率が2倍を超えた。

 1月末時点でエニーカラーは時価総額が1620億円を上回り、M&A総合研究所も1980億円を超え、それぞれグロース市場の時価総額ランキングで上位につけるなど、まさに看板銘柄になっている。

上場で大金を得るのは起業家の一つの夢

IPO企業社長平均年齢の推移
IPO企業社長平均年齢の推移

 上場によって知名度、信頼度が高まれば、資金調達や人材の採用がしやすくなって今後の成長を大きく加速させるのは間違いない。ただ、それ以外にも大量の株を持っている創業者や従業員にとって、株式上場には夢がある。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏は12年の上場で総額1兆円もの資産を得たと言われているし、国内でも18年にIPOしたメルカリでは、35人以上の従業員・役員がストックオプションによって6億円以上の資産を得たことが話題になった。

 もちろん現実的には上場時に経営者が売却できる株式には限度があるし、自己資産を増やすことを優先するならば、足元の市況が悪ければ上場を延期するという選択肢もある。22年に新規上場した経営者たちはそれをしなかったわけで、単純な資金調達におさまらない価値を求めて上場をしたことになる。

 ただ、上場にあたって経営者たちのパーソナリティに注目が集まるのも事実である。帝国データバンクの調べによれば、グロース市場以外も含めたIPO企業の社長平均年齢は、全国の社長平均年齢を10歳近く下回る水準で推移してきた。22年にIPOを行った企業の社長の平均年齢は51・2歳で、年代別にみると、「40代」が最も多く全体の33・0%を占めたという。

 グロース市場に上場する企業には従業員数が数十人規模の企業も多く、創業者がトップとして率いているケースも多い。そうなれば必然的に社長のカリスマ性が組織全体へ与える影響も大きくなる。また、本特集58ページのプログリット社長・岡田祥吾氏は、昨年9月30日にテレビ朝日の弘中綾香アナウンサーと結婚を発表し、60ページのAViC社長・市原創吾氏は週刊誌で女優の中条あやみさんと結婚に向けて準備をすすめていると報道されるなど、プライベートの交友関係も話題になる。男女の交際関係に限った話ではないが、経営者にとって「モテる」というのは大きな資質である。

 今回の特集では、22年に新規上場した企業を中心にグロース市場のすごいトップ8人を取り上げる。