経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

自動車用品のパイオニアが挑む、攻めと守りのものづくり戦略 大橋産業 藤井啓子

大橋産業 社長 藤井啓子

自動車用品ブランドの先駆けである「BAL」を展開する大橋産業。創業から66年を迎える今、品質第一の創業精神は守りながらも、ものづくりのあり方や社内体制が大きく変化している。2021年に社長に就任した藤井氏に事業戦略を伺った。(雑誌『経済界』2023年5月号「注目企業2023」特集より)

大橋産業 社長 藤井啓子氏

大橋産業 社長 藤井啓子

大橋産業 社長 藤井啓子 ふじい・けいこ

独自の品質管理体制を徹底し創業以来「品質第一」を貫く

ジャッキやドライブレコーダー、バッテリー充電器などを扱う自動車用品ブランド「BAL」。創業以来「品質第一」をモットーに全ての製品において独自の品質管理体制を徹底し、高い品質を維持している。

設計段階から厳しい自社規格の下で開発を進め、電気・電子課と機構設計課および品質保証・管理部それぞれの部署で十分な評価・検証をした後に量産。初回製造時には立ち合い検査を行う。工場内の検査だけでなく、量産時には生産ラインから抜き取り、本社で検査を実施。万が一不合格の場合、工場からの出荷を許可しない。さらに入荷後も再度本社で検査を実施し、合格した製品のみを販売店に提供する。3重の抜き取り検査を実施し、不良品の発生流出を防ぐという徹底ぶりだ。

カスタマーサポートも自社で行うためエンドユーザーからの意見を直接聞く機会が多く、新製品の開発や継続的なバージョンアップに生きている。例えば2022年に発売したドライブレコーダーミラー「BALUCE(バルーチェ)Ⅱ」は19年に発売した初代ドライブレコーダーミラーを進化させたもの。ソニーの画像補正技術を搭載し、夜間でも鮮明な映像を確認・録画できる。

「BALブランドへのお客さまからの信頼は高く、『BALなら安心』という認識を持っていただいています。その信頼を引き継げたことがありがたく、今後も崩してはならないものです」と藤井社長は話す。

社員全員が開発担当者。声が生きる組織へと転換

「誠心誠意」を社訓とし、信頼のものづくりを守り抜く姿勢は、半世紀以上変わらない。しかし今、社内体制は転換点に立っている。昭和・平成時代の同社のスタイルはトップダウン。社員は与えられた仕事を正確にこなすことに注力し、それが品質の高い製品の安定供給につながっていた。しかし藤井社長は、社長就任前から現場で社員とコミュニケーションを取る中で、個々の発言の場がないことに課題を感じていた。

そこで「時代に合った働きやすい環境をつくり、入社して良かったと思ってもらえる会社にしたい」と藤井社長は社内改革に着手。「社内の風通しを良くする」という目標の下、会議の場を設置し、これまでに業務のDX化、パッケージのプラスチック廃止やデザイン刷新、コミュニケーション円滑化など、多様な改革を社員全員で進めてきた。

特に社員の総力を発揮しているのが新商品開発だ。設計・開発部門だけでなく事務職も含めた全部署でアイデアを持ち寄り、企画会議を実施している。BALUCEも社員の提案から生まれ、全員で開発した商品の一つ。ブランド名の「BAL」とイタリア語の「LUCE(輝き)」を組み合わせたネーミングは、これまで発言の場がなかった事務職の女性による発案だという。意外なスキルが顕在化し、斬新なアイデアが商品に新しい価値を生み出している。

スキルアップを目的とした勉強会も社員の提案から始まった。技術的な知見を有する社員が講師となり、希望する社員が受講できる仕組みで、部署の隔たりなく質問や意見が活発に飛び交うという。

この同社の大転換を示すべく、今年2月にはブランドロゴも刷新。「BAL」の文字を囲む円には「人との和を大切に、全社員が一丸となって挑戦し続ける」という想いが、アルファベットのエッジには「革新性」が表現されている。安心・安全でアイデアに満ちた製品を開発し続けるという決意の表明である。

時代のニーズをキャッチし新領域への挑戦も検討

社長就任1年間で大きく会社を転換してきた藤井社長だが、当初は家業である大橋産業を承継する気はなかったという。自動車用品という男性社会の業界で、女性社長として会社を背負うことにプレッシャーも感じていた。しかし、「会社が築いてきたものを自分が引き継ぎ、社員を守っていきたい」と覚悟を決めて社長に就任。男女差のない評価制度や女性管理職への登用、年功序列の撤廃、時代に合致する社内体制を築いていきたいと話す。

事業に関しても、展示会等から国内外の情報を収集し、新たな展開を計画しているという。

「既存の事業を着実に前進させながら、今後は自動車用品に限らず、幅広いニーズをキャッチして新たな業界への進出にも挑戦したい。お客さまの幸せと社員の幸せを同時に実現し、大橋産業が社会貢献できることを模索しています」

また、製造を委託している提携工場は中国と台湾がメインだが、ベトナムやタイなどアジア以外にも国内工場との提携も視野に入れている。

「日本には優れた技術を持っているにもかかわらず後継者問題で廃業の危機にある工場が多数あります。せっかくの技術を絶やさないためにも、当社がお手伝いをしたい」

第二のステージに立った大橋産業が今後、攻めと守りからどのようなものづくりを展開していくのか注目したい。

会社概要
設立 1957年12月
資本金 7,000万円
売上高 21億円
本社 大阪府守口市
従業員数 39人
事業内容 自動車用品の企画設計、製造(輸入)、仕入販売
https://www.bal-ohashi.com/