進撃のベンチャー徹底分析 第24回(最終回)
本稿をもって、「進撃のベンチャー」は最終稿となる。そこでわが国日本が今後の10年間で取り組むべき、ベンチャーエコシステムについて記述する。また本記事を記述するにあたり、日本を代表するエンジェル投資家、千葉功太郎氏を取材した。文=戸村光(雑誌『経済界』2023年5月号より)
GAFAM>日本の2千社
シリコンバレーに拠点を置き、世界トップ時価総額を誇る、GAFAM(Google, Apple, Facebook, Amazon, Microsoft)の時価総額の合計は800兆円を超える。一方で、日本を代表する時価総額トップ2千社の時価総額は700兆円。米国のたった5社にすらかなわない事態となっている。これらの5社は20年前まではベンチャー企業で、いずれもベンチャーキャピタルからの資金調達を行った。一方で日本を代表する企業のほとんどが老舗企業。日本では長期にわたり既得権益をディスラプトする破壊的イノベーションが起こらなかったことを意味する。
ベンチャーを生むエコシステム
言うまでもないが、GAFAMが米国の時価総額、および資本主義全体をけん引していることは明らかである。米国で未上場企業に投資する出資額は累計で20兆円を上回るが、日本では2桁下回る2千億円にとどまる。米国ではオバマ政権よりベンチャーのエコシステムを構築することが国策となっており、海外の起業家が移民ビザを取りやすくなる政策を打ち出した。結果、世界各国からシリコンバレーに起業家、投資家、そしてエンジニアが集まる土壌が生まれた。創業間もない頃から上場するまで必要な人材がシリコンバレーに集まっていることがベンチャーが絶えず生まれるために必要な鍵となっている。
SPACで世界へ挑戦
エクイティのサイズでいくと東証とナスダックでは10倍異なる。上場企業数もナスダックは東証の10倍近くあり、投資家の数も10倍近くに上る。ナスダックは裾野が広く、空飛ぶ車だけでも6社程上場しているが、日本はいまだゼロ。ディープテックの狭い分野に上場企業がいることは、IPOでいうところのコンプス(類似企業)が存在しているため、バリュエーションがつけられる。これが東証とナスダックの大きな違いだ。
千葉氏は今後、日本企業の中でもナスダックでSPAC上場を希望する企業が増えるとみている。
「去年8月にPONO Capital2が上場しました。PONO Capitalが日本で探しているスタートアップの要件は、時価総額で最低300億円以上かつテクノロジーを持っていること。この条件を満たす日本のスタートアップは100社あるかないか。その中の多くの会社からお話をいただいているので、ニーズはすごく感じています」
“日本から大谷翔平を生み出す”
日本人はこれまで、「寄らば大樹の陰」を基本的な考え方としていた。勉強をして、いい学校に入り、大学を卒業して、大組織に入社して一生お世話になる。これが日本のロールモデルだったが、すでに終身雇用制度は崩壊した。しかし、日本人のマインドはまだ切り替わっていない。これを教育で変えていくことが日本の未来にとって重要となる。それが起業家と投資家の増加につながっていく。
「起業家になる可能性のある人たちはたくさんいます。だからこそ、起業に対して真剣に興味を向けて、自分で調べたり話を聴きに行ってください。さらにインターンに行くなど、一歩踏み出してほしい。いきなり大きなものに挑戦するのではなく、勉強だと思って小さくてもいいので始めてみてください。起業家も投資家も最初の一歩をを踏み出すところから始まります」と千葉氏。
米国ではエンジェル投資家とは、文字通り創業間もないスタートアップにリスクをとって投資をするエンジェルであり、起業家からすると救世主ともいえる。会社のエグジット(売却もしくは上場)を経験した経営者がエンジェル投資家になることは王道であり、“pay it forward”という概念がシリコンバレーの共通認識となっている。大成した起業家が、エンジェル投資を通して、自分自身が育ててもらったコミュニティーに還元することでエコシステムが循環する。
日本のGDP向上のために必要なこと
岸田内閣が今年、ベンチャー支援に1兆円規模の予算をつけるというスタートアップ5カ年計画を発表した。わが国のGDPを向上させるには未上場企業の成長が必須であることをようやく政治家も理解したとも言える。
しかしながら、スタートアップが創業してから上場するまでの仕組みができあがっている米国に比べ、日本には足りないところが多くある。米国トップのVCであるAndreessen Horowitzや最高峰のアクセラレーターであるY Combinatorの投資チームはエグジット経験のある起業家で構成されている。
米国では投資家の数が増え、起業家も投資家を選ぶことができる。どんな支援が受けられるのか、エグジットの可能性をどれほど引き上げてくれるかが求められており、起業経験のある投資家でなければ、起業家からの信頼を得ることが困難にもなっている。今後日本でも実業経験あるエンジェル投資家が増えること、そして日本から世界へ挑戦する起業家が増えることが必要不可欠だ。スタートアップの循環型エコシステムがより活性化することで、国益につながることを願ってやまない。