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教養が自分の信用になる私たちの活動でそれを伝えたい 東條英利 国際教養振興協会

ゲストは、国際教養振興協会代表理事で神社文化評論家の東條英利さん。陸軍大臣・陸軍大将や第40代内閣総理大臣を務めた東條英機氏の直系のひ孫です。「日本で国際教養人を創出したい」と話す東條さんから、現代日本における文化教育の大切さを伺いました。聞き手・似顔絵=佐藤有美、構成=大澤義幸、photo=川本聖(雑誌『経済界』2023年6月号より)

東條英利・国際教養振興協会代表理事のプロフィール

東條英利 国際教養振興協会
東條英利 国際教養振興協会代表理事
とうじょう・ひでとし 1972年埼玉県生まれ。曾祖父は第40代内閣総理大臣の東條英機。駒澤大学卒業後、通販会社にて香港に4年間駐在。神社情報サイト「神社人」発案。国際教養振興協会の代表理事として国際教養人の創出に尽力。

海外で恥をかいた経験が文化教育を考えるきっかけに

佐藤 時の内閣総理大臣を務めた東條英機氏は太平洋戦争で日本のために戦った国士でありながら、A級戦犯などと心ない言われ方もします。直系のひ孫の英利さんは、これまでの半生で何か影響はありましたか。

東條 曾祖父は世の中的にはA級戦犯、極悪人というレッテルを貼られることが多い存在です。私も子どもの頃は肩身の狭い思いをしましたし、また学生時代は東條家や曾祖父のことは外では語らず、むしろ権力に対してアンチテーゼを持ち、リベラル寄りの生き方をしていました。埼玉県の和光国際高校に入学したのも、海外志向が強かったからです。

佐藤 若い頃は皆、自由な生き方に憧れますよね。新卒入社した通販会社で海外赴任を経験されたそうですが、念願の海外はいかがでしたか。

東條 香港事業の立ち上げに際して手を挙げ、海外に4年間駐在しました。でも、そこで身の程を知ったんです。それまでは国際教育の申し子として閉鎖的な日本から出て海外へと意気込んでいましたが、実際に海外の現地で自分が外国人の立場になってみると、日本について質問されても全く答えられなかったんです。恥ずかしかったですね。周りにも同じような経験をしている駐在員がいて、そこで初めて日本の文化教育に疑問を持ったんです。

佐藤 私も海外で似た経験があります。自国や自分について話せないと海外では信用されませんよね。

東條 おっしゃる通りです。そこから東條家のルーツやアイデンティティを意識し始めました。それで帰国後に興味のあった日本の神社や文化について調べることにしました。

佐藤 全国の神社情報のポータルサイト「神社人」を立ち上げられたのもその流れですか。

東條 それもあります。帰国後に全国の神社について調べようとしても情報のまとまった良いサイトが見つからず、神社本庁他のサイトにも、参拝の作法や歴史の説明しかありませんでした。そこで自ら4千社以上を回って神社を調べ、写真を撮り、回り切れない地方はSNSで情報収集しました。現在は1万社弱の検索が可能なサイトになっています。

佐藤 自らの足で、というのが素晴らしいですね。地道な活動を通して気づきはありましたか。

東條 その地域に特定の神様が多い理由や歴史の裏エピソードを知ることができました。自ら考えて動いたつもりが、曾祖父の足跡を追っていることもあり、神道のおかげ参りをしている気持ちになりましたね。

東條英利と佐藤有美
東條英利と佐藤有美

日本の伝統や文化を知る国際教養人を育てたい

佐藤 現代は日本の文化や宗教の教育が減っています。そのためかビジネスでも日本の良さを軽視し、シリコンバレーの起業家を見て、その全てが素晴らしいと思い込みがちです。

東條 そうですね。私は日本と欧米の価値観を比較・分析する勉強会を開いていますが、多民族・多宗教の欧米では、文化や宗教を含め多様性を受容しないと国がまとまりません。一方、ほぼ単一民族国家の日本で多様性を持ち込めば国が分断します。また同じ言葉も宗教観の違いで別の意味になります。例えば「労働」。日本の神道では農業に従事することは神様からの授かりものと捉えますが、欧米のキリスト教では労働は懲罰という位置付けです。こうした違いを認識せずに欧米を模倣するだけでは、日本の良さを見失います。

佐藤 成果主義の欧米とプロセスを評価する日本の違いもそうですね。

東條 ものの考え方が短期軸(欧米)か長期軸(日本)かの違いですね。どちらが良い悪いではなく、自分たちの特性や気質を踏まえることで見える世界は変わります。余談ですが、神社の鏡(かがみ)の「が=我」を取ると「かみ=神」が現れます。鏡に自分を写して向き合い、自分自身に問いかけるプロセスがあるのが神道。答えのないものに向き合う姿勢が大事なのです。茶道、華道、武道も同じですよね。

佐藤 そうした日本の文化教育がもっと必要ですね。東條さんは国際教養人の創出に尽力されています。「お正月講座」や「しめ縄プロジェクト」などの活動もその一環ですか。

東條 はい。お正月は私たちになじみのある習慣であるにもかかわらず、年神様(農業・穀物の神様)を迎えるという本来の意味は忘れられています。例えばスーパー等で売られる「しめ飾り」の多くは中国産の水草が使われています。これを稲わらでつくる活動を通して、年神様を迎える意味を知ってほしい。2022年は3千人超の参加があり、25年までに1万人を目指しています。また昨年は東京都北区の小学校など約10校が授業で取り入れてくれました。

佐藤 国際教養人の金の卵と言える子どもへの文化教育ですね。

東條 国際社会はパレットの上に色とりどりの絵の具がある状態ですが、絵の具を混ぜるとグレーになります。日本人は他国のカラーを意識しすぎて、自分のカラーを疎かにしがちです。世界でお互いのカラーを尊重し合う関係をつくるには文化教育が必要で、これが海外で生かせる教養を身に付ける国際教育になります。

佐藤 そこで得た教養が幹となり、海外で自分の信用にもなる。

東條 はい。私たちが取り組んでいるのは、日本の伝統や文化、世の中の動向、身の回りの出来事に関心を持ってもらうための啓もう活動です。

佐藤 国際教養人を皆が目指す日本にしたいですね。

東条氏イラスト
東条氏イラスト