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経営できなければ意味がない。リーグが果たすべき役割 島田慎二

島田慎二 公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグチェアマン(代表理事CEO)

2016年、Bリーグが誕生した。かつて存在した2リーグの分裂や相次ぐクラブの経営破綻を乗り越えて、日本のバスケ界が日の目を見るきっかけとなった出来事だ。島田慎二チェアマンは旅行業、コンサル業を経て、千葉ジェッツふなばしを経営難から救ったバスケ界の風雲児。そんな島田チェアマンが描くBリーグの未来とは。聞き手=小林千華(雑誌『経済界』2023年6月号巻頭特集「熱狂を生み出すプロスポーツビジネス」より)

島田慎二 公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグチェアマン(代表理事CEO)のプロフィール

島田慎二 公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグチェアマン(代表理事CEO)
島田慎二 公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグチェアマン(代表理事CEO)
しまだ・しんじ 1970年新潟県生まれ。大学卒業後、92年マップインターナショナル(現エイチ・アイ・エス)入社。95年に退職後、独立を経て、12年に公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)理事就任。17年9月より、Bリーグ副理事長就任。19年8月、千葉ジェッツふなばし会長就任。20年7月より現職。

Bリーグ10年目での構造改革昇降格の決め手は〝事業力〟に

―― Bリーグは、2026―27シーズンからの構造改革を発表しています。具体的にどういった改革を行うのでしょう。

島田 最も大きい変化は、競技成績によるリーグの昇降格制度をなくすことです。これまでのBリーグにはB1、B2、B3という3つのディビジョンがあり、シーズンごとに入れ替え戦を行ってチームの強さごとにリーグ分けをしていました。これにより、昇格したい、降格したくないという各クラブのモチベーションが企業努力につながり、事業規模を広げようとするクラブが増えたのが、このシステムの特長でした。しかしチーム強化のために、どのクラブも選手獲得に多額の投資をして、経営の他の部分に割くコストが減ってしまうようになりました。これが続くと経営の安定性は望めません。

 そこで2026―27シーズンからの昇降格には、競技成績ではなく、クラブの事業力による新しいライセンス基準を設けます。具体的にはクラブの売り上げ、アリーナへの平均入場者数、アリーナの収容人数や設備という3つの基準です。

―― クラブの事業力ですか。競争を勝ち抜いた「強いチーム」だからこそ、みんな応援したがるのではないでしょうか。

島田 もちろん強いということが、クラブの言わば商品価値を上げていくので、重要な魅力ではあります。ただ、事業の成長を選手の人件費などのコストが上回ってしまうと、勝つために選手や練習環境に投資した結果赤字が拡大し、クラブ経営に不具合が生じる可能性もある。

 Bリーグの最も重要な目標は「日本を元気に」することです。全国39都道府県に54のクラブがありますが、各チームが各地域に根付くことで、地元の人たちに「おらがチーム」として支えてもらえる状況をつくったり、地元企業にスポンサーとして参入してもらったりと、関係性を構築しながらクラブの経営をしていかなければなりません。昇降格制度をなくすことで選手だけではなく、事業全体に投資していけるようにし、リーグ全体を目標に近づけていく狙いです。

―― 3つの基準のうち2つがアリーナに関するものですね。

島田 単なる体育館とは違い、アリーナというのは、その形状や内部の照明、音響など全てにおいてエンタメ性を追求して設計するので、観戦体験の質を一段も二段も向上させられる場所なんです。今のわれわれの企業努力ではなし得ない入場者数、観客のエンゲージメントを、そうした「夢のアリーナ」があることで達成でき、バスケ界のレベルアップにつなげられると思っています。この「夢のアリーナ」というのが、Bリーグの構造改革の1丁目1番地です。コンサートなどのエンタメイベントも誘致でき、災害時には避難拠点にもできる施設にすれば、目標のとおり真の意味で地域に根付いたアリーナになるはずです。

―― 構造改革の実現に向け、準備する上での現状はいかがですか。

島田 昇降格に設ける基準のなかでいうと、2つ目の入場者数については、コロナ禍を経た今、どのクラブも少し乗り越えるのが難しい基準かもしれません。基準を発表したのはコロナ前なので、この3年間でズタボロになったスポーツ界において、当時掲げた目標と現状との乖離はあります。しかし、だからと言って基準を下げることはしません。一度下げてしまうと各クラブの企業努力の衰えにつながりかねません。幸いどのクラブも頑張ってくれていて、目標に近づいているところが増えています。

地域活性化を進めることがスポーツの存在意義

―― 各クラブが地域に根付くことを、そんなにも大切に考えているのはなぜなのでしょうか。

島田 そもそもバスケの存在価値とは? という根源的な問いに立ち返るのですが、ただ面白いからというだけで今後も存続させられるとは思いません。これまでのスポーツ界は、スポーツの価値、つまり面白さや感動といった部分に依存してきましたが、これからはどんなスポーツのリーグ、クラブにも、具体的に何を成し遂げる団体なのかという存在意義が必要です。そしてその存在意義のひとつが、少子化や過疎化で地方の元気がなくなっていくのを、スポーツの力で食い止めていくことだと私は考えています。

 そこでバスケ界にとって、その存在意義を全うするために経済合理性が高いのがアリーナ建設とその周辺の街づくり、スポーツによる地域活性化。私たちの目的はそこに振り切っています。だから構造改革によって、地元の人を巻き込めるプロジェクトや仕組み作りに投資できる環境をつくる。Bリーグの全てはそこからの発想です。

―― 島田さんはマップ・インターナショナル(現エイチ・アイ・エス)などを経て、当時経営難に陥っていた千葉ジェッツふなばしの再建に携わり、今に至ります。他業界のコンサルティングを経験してからバスケ界に入ってきたとき、どういった印象を受けましたか。

島田 私がこの世界に入ったのは約11年前ですが、当時のプロバスケ界はマイナー中のマイナーで、日本代表は弱いわ、観客は来ないわ、実業団リーグなんてビジネスエッセンスは全くないわで、これで大丈夫か⁉ というのが当時の印象でしたね(笑)。どのクラブも親会社の福利厚生でようやく成り立っている状態で。しかし最近は八村塁選手のようなスター選手も出てきて、大企業がオーナーとして参入してくれるクラブも増え、約10年でこんなに変わった業界って他にないと思います。

 こうなった要因はやはりBリーグの誕生でしょうか。16年にNBLとbjリーグが統合されてBリーグが誕生しましたが、野球、サッカーに続く第3のプロリーグとして、それらのスポーツ界の反省を生かしてマーケティングをしています。そうした先進的なアプローチがあったことで、たとえばソフトバンクさんのような大企業が大きな投資をしてくれるようにもなった。その投資が競技力の向上や選手育成にも生かされてさらにさまざまな企業からの投資を得られるようになった、という好循環が生まれました。

―― リーグとして、これから各クラブの経営をどのようにバックアップしていきますか。

島田 私は座右の銘のように「クラブの成長なくしてリーグの繁栄なし、リーグの発展なくして業界の繁栄なし」と言っていますが、そもそもエンドユーザーであるファンと直接向き合っているのは各クラブです。そんなクラブがビジネスしやすいインフラ整備、後方支援をするのがBリーグのミッションですね。結局各クラブの成長を促すことが、私たちの提供できるコンテンツバリューを上げていくことに他ならないので、クラブの活動を私たちがいかにサポートして稼いでいくかに尽きます。