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「10年で経営規模を2倍に」日本初プロラグビークラブの挑戦 山谷拓志 静岡ブルーレヴズ

山谷拓志 静岡ブルーレヴズ

2022年1月、ラグビーの新リーグが開幕。旧ヤマハ発動機ジュビロは、親会社から独立し日本初の地域に根ざしたプロラグビークラブ、静岡ブルーレヴズに生まれ変わった。初代社長に就任した山谷拓志氏は、Bリーグでも経営経験があるスポーツビジネスのプロ。プロアマ混在の新リーグで、いかに経営の舵を取るのか。聞き手=和田一樹(雑誌『経済界』2023年6月号巻頭特集「熱狂を生み出すプロスポーツビジネス」より)

山谷拓志 静岡ブルーレヴズ社長のプロフィール

山谷拓志 静岡ブルーレヴズ
山谷拓志 静岡ブルーレヴズ社長
やまや・たかし 1970年6月生、東京都出身。慶應義塾大学アメリカンフットボール部にて学生日本代表。93年4月、リクルート入社。営業職など歴任しつつ、リクルート・シーガルズの選手としても96、98年とライスボウル優勝。2005年にリンクアンドモチベーションに入社。07年に宇都宮ブレックス(当時)設立、代表取締役に就任。一般社団法人日本バスケットボールリーグ専務理事を経て、14年から茨城ロボッツの経営再建に従事。21年6月、静岡ブルーレヴズ社長。

目標は仏トップ14。経営規模を50億円以上へ

―― 日本初プロラグビークラブ静岡ブルーレヴズ(以下、ブルーレヴズ)の初代社長として山谷さんが就任しました。ラグビーは試合数が少ない割に選手人数が多く、経営には課題が多そうです。

山谷 私はBリーグの栃木ブレックス(現・宇都宮ブレックス)と茨城ロボッツで社長を経験してきました。バスケットボールの場合、屋内スポーツなので天候に左右されませんし、ベンチメンバーは最大12人です。コンパクトで安定した経営が可能でしたので、毎試合3千~4千人規模の集客で収益を上げられました。それに比べてラグビーは、天候に左右され、必要な選手は50人以上。リーグ公式戦試合数も16試合で、ホームゲームは8試合だけです。当然、バスケと同様の集客規模では試合の収支は赤字になります。ただ、そうは言っても競技の特性は変えられないので、地道にやるべきことをやっていくしかありません。

―― ラグビー界においては初のプロクラブとしてブルーレヴズの取り組みの成否に注目が集まります。どんなところから取り組みましたか。

山谷 スポンサーセールスから取り組みました。チケットを売るということは実は結構大変です。試合を見たいと関心を持ってもらい、お金を払ってもらい、時間を確保し労力をかけて来場してもらわなければならない。そこに飛び道具はないので、さまざまな施策を日々積み重ねていくしかありません。それに対してスポンサーセールスは、かける時間に対して効果が見えやすいですから、まずはそこから取り組みました。

 私が就任する前の計画では、ヤマハ発動機以外からのスポンサーは1・5億円ほどと見込んでいたそうですが、実際は半年足らずで3億円のスポンサーを獲得できました。ホストエリアである静岡県全域を徹底的にまわったのですが、チーム名から「ヤマハ発動機」の企業名をなくし、オール静岡のチームと位置付けたコンセプトには多くの方から共感をいただけたと感じています。IAIスタジアム日本平という静岡市内のスタジアムもホーム試合会場として使用するのですが、ここはJリーグの清水エスパルスのホームでもあります。従来のようにジュビロと名乗るクラブのままだったら、使用できなかったかもしれませんね(笑)。

―― 就任後には「10年以内には経営規模で世界最高峰のラグビープロリーグである、フランスのトップ14を目指す」との発言がありました。トップ14に属するクラブの経営規模は、40億~50億円と言われています。実現可能性はあるのでしょうか。

山谷 もう1年がたちましたので残りは9年です。詳細な数字を申し上げることができませんが、現状の経営規模は半分程度です。高い目標であることは間違いないですね。ただ、明確なビジョンがあった方が推進力は高まります。もちろん将来のことは100%約束できるわけではありませんが、不可能ではないと感じています。そのためにはわれわれが努力を惜しまないことは大前提ですが、リーグの在り方も変化していくことが欠かせません。

―― クラブのトップとして、リーグに求めたい変化とは何でしょうか。

山谷 まずは単純に試合数が増えなければ、そこに紐づくチケット収入や広告収入は伸長しません。試合数に関してはわれわれが増やしてほしいと願っても、リーグとして合意形成しなければ実現できません。

 リーグ変革の前提として、我々のように独立分社化してプロ化するクラブが増えていかないと、リーグとしてより大きな収益を生み出す構造にはなりません。独立分社化しているプロクラブと、福利厚生の企業チームが混在する状況になっていてはベクトルがなかなか揃わないからです。多くの企業チームの場合、活動予算が組まれてそれを消化する形の活動になるので、試合を増やす場合は予算が増えることになる。リーグがプロ化したクラブで構成されなければ、みんなで収益を拡大していく方向にはまとまらないというのが一般的な考え方です。

ビジネスとして拡大するならプロ化は必然的な変化

―― 日本のスポーツ、特にラグビーはアマチュアリズムが強いイメージがあります。プロ化は当然の選択肢ですか。

山谷 プロ化、すなわちクラブが独立分社化していないとトップラインを伸ばそうとか、使うお金をセーブし内部留保して投資にまわすという発想が生まれません。これはラグビー界だけの問題ではなく、実は日本のスポーツビジネス全体がアメリカに差をつけられた根本原因だと思います。決して価値観の話をしているわけではなく、ビジネスとして拡大するならば、プロフィットセンターにしていかなければならない。もちろん企業チームのままでもお客さんを増やそうという意識を持つことは出来ます。ただ、やはりPLなりBSがなければ経営という意識は生じません。これはビジネスをするなら会社をつくるという世の中では当たり前にやっていることで、スポーツもしっかりビジネスとして自分たちがコンテンツという商材をマネタイズして、さらに拡大再生産、再投資をしていく循環をつくっていくのであれば、その事業を営む法人をつくること、すなわちプロ化は前提条件になるはずです。

 実際にプロ化をいち早く実現した野球、サッカー、バスケは一足も二足も先に市場が拡大しているわけです。ラグビーだけが特別ということはありません。売り上げが伸びれば、それは選手への還元にも向かうでしょうし、自ら価値を生み出し収益化することではじめて構造的に持続性をもってリーグは発展することができるわけです。企業の福利厚生のままではいつ突然なくなるか分かりません。

 そうは言っても能書きばかり垂れていても仕方がありませんから、私たちが日本ラグビー界初のプロクラブとして成功例を示すことができるよう努力します。強く愛されるチームをつくり上げ、それをしっかりとマネタイズし成長させる。それができれば後に続くチームは増えるはずです。ラグビーはコンテンツの魅力は間違いなく高い。にもかかわらず構造的にマネタイズできていないことが本当にもったいない。社長に就任するにあたって、プロアマ混合でやりにくくなる状況は想定していました。魅力あるラグビーが収益を生み出し、より一層成長していくことは必ずできる。できるかできないかではなく、やるかやらないかという意識を強く持って必ずやり遂げます。