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黒子から主役に躍り出た会計人材が社会を変える 国見健介 CPAエクセレントパートナーズ

リスキリング特集 国見健介 CPAエクセレントパートナーズ

経理・財務社員というとイメージは「地味」。しかしこれは一昔前の認識だ。今の企業には、投資効率や資産配置の最適化が不可欠なため会計スキルが経営トップにも求められるようになった。会計人材が経営トップになるケースも増えてきた。それに伴い会計人材を養成する講座の受講者が激増中だ。文=関 慎夫 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2023年8月号より)

リスキリング特集 国見健介 CPAエクセレントパートナーズ
国見健介 CPAエクセレントパートナーズ社長
くにみ・けんすけ 1978年東京都生まれ。99年公認会計士試験合格、2001年慶應義塾大学経済学部卒業。01年9月にCPAエクセレントパートナーズを設立。03年1月公認会計士登録。運営するCPA会計学院は、21年公認会計士試験(全合格者数1456人)で606人の合格者を生んだ。

CFO出身社長が続々。なぜ今会計人材なのか

 今年2月、ソニーグループが社長交代を発表したが、この時、話題になったのが、CFO(最高財務責任者)からCFOへのバトンタッチだったことだ。

 4月に社長から会長となった吉田憲一郎氏は、5年前に平井一夫氏から社長の座を譲り受けたが、それまではCFOを務めていた。そして新社長の十時裕樹氏もCFOだ(社長就任後も兼務)。

 十時氏に限らず、最近はCFOを経て社長に就任する例が増えている。第一三共の奥澤宏幸社長、マネックスグループの清明祐子社長、NECの森田隆之社長……いずれもCFO経験者だ。少し前まで、CFOは会社の黒子役だった。しかし今では企業の顔となりつつある。

 十時氏は会見でCFO経験者であることのメリットを問われ、「ソニーグループのCFOはかなり役割の幅が広い。戦略にもオペレーションにも関わる。そういう経験はやはりトップになるときに非常に役に立つ。全体を俯瞰でき、数字を読み解く。事業との対話、投資家との対話にも役に立つバックグラウンドだ」と語っている。

 この言葉からも分かるように、今の経営トップには、CFO経験者であるなしを問わず、会計リテラシーが不可欠になっている。そのため、会計スキルを身に付けようとするビジネスパーソンが増えている。

 そこで今、注目を集めているのが、CPAエクセレントパートナーズが運営するオンライン会計学習の「CPAラーニング(以下ラーニング)」だ。CPAエクセレントパートナーズは公認会計士合格者の4割を輩出するCPA会計学院を展開するが、ラーニングは無料で提供している。その狙いを国見健介・CPAエクセレントパートナーズ社長は次のように説明する。

 「これまで日本企業の中で、財務や経理など管理部門の地位は低かった。しかしこれまでは決算書をつくり納める税金を計算するだけだったものが、費用対効果の高いお金の使い方などが求められるようになりました。ところが残念ながら日本人の会計リテラシーは低かった。それを向上させるための仕組みをつくろうと考えました」

 サービス開始は2年前。「日商簿記合格コース」と「実務コース」の2つのコースがあり、それぞれ一コマ20~30分の動画を見て学習する。

 「今は簿記コースの方が7割を占めますが、実務コースを学ぶ人も増えています。現在、動画は400本で、その半分が簿記用の動画です。この動画数を、年内700~800本、来年末には1500本にする予定ですが、この増やす部分はほぼ実務コースの動画の予定です」(国見社長)

 現在、実務コースのメニューは、「会計実務入門」や「経理実務入門」など入門編が多いが、今後はより高度な会計スキルのメニューを増やしていく方針だ。

 現在登録者数は20万人強。年内には30万~50万人を目指すという。無料とはいえ、非常に速いペースで増え続けている。それだけラーニングには社会的ニーズがあったということだ。性別は男女半々。20代が50%、30代が25%という年齢構成となっている。

学習効果を上げるには自分の未来像を意識する

 ただし、学び続けることには関門もある。例えば簿記コースの場合なら、簿記検定に合格するという明確なゴールがある。検定日時も決まっている。その目標に向けて勉強すればいい。ところが実務コースの場合、ゴールがない。しかもどれだけスキルアップしたのか、主観的にはなかなか分からない。そうした中で、効率的に学ぶには何が必要か。

 「どんな学習でも同じかもしれませんが、形式的に知識をインプットして学んだ気になってしまうことがあります。あるいは資格コレクターのように、資格を取ったことで満足してしまう。でも本来、学びというのは、実務や行動に生かせてこそ意味があります。そのためには自分の未来像を意識して目的を定め、自分が何をしたいのか、するべきなのかを決めていく必要があります」

 そういう未来像を定める手助けとして発行したのが『会計人材のキャリア名鑑』(中央経済社)。

 ひと言で会計人材の仕事と言っても、一般企業の経理から会計事務所のスタッフ、監査法人の職員など多岐にわたり、それぞれ求められるスキルは異なる。例えば大手上場企業の経理社員として評価されるなら、①簿記2級・1級②公認会計士資格③税理士資格④米国公認会計士資格⑤エクセルなどPCスキル⑥英語力――などが必要になる。同じ大手上場企業でも財務社員となると、簿記や公認会計士資格などは同じだが、証券アナリストとしてのスキルも求められる。あるいはベンチャー企業の経理社員なら、IPO準備のためのスキルも重要になってくる。

 実際、IPOを視野に入れたベンチャー企業がもっとも欲しがる人材はIPOに精通した経理社員で、争奪戦が起きている。国見社長によれば、優秀な会計人材が増えれば、年間100社程度の日本のIPOが倍増してもおかしくないという。

 このように、目指す未来像が定まれば、身に付けるべき具体的なスキルが見えてくる。それが学習意欲を高め、リスキリングの効果も上がってくる。

 このキャリア名鑑、現在は書籍のみだが、近い将来ラーニングで無料公開する予定だ。それを見て、受講者は学ぶ講座を選べるようになるというわけだ。

 当然だが、スキルアップした人材は、社内で活躍の場が増えるだけでなく、違う会社に転じるケースも多い。

 「大事なことは選択肢が増えるということ。それによって人生がより豊かになり、企業の利益率も上がっていく」(国見社長)

 国見社長はラーニングの受講者を300万~1千万人にまで増やし、会計人材のプラットフォームとすることを目指している。こうして日本人の会計リテラシーが向上すれば、日本経済の最大の弱点ともいえる生産性の低さを克服する可能性を秘めている。