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官民ファンドの国際戦略を問う。海外VCとの関係強化の狙い 久村俊幸 産業革新投資機構

VC 産業革新投資機構 久村俊幸 取締役CIO

官民ファンドの出資機能の強化が進む。海外VCに向けたリスクマネー供給は国内スタートアップ・エコシステムのグローバル市場へのアクセス強化につながると久村俊幸氏は述べる。そして、国内スタートアップ投資の魅力を海外投資家にアピールしていくことの重要性を強調する。文・本誌=金本景介、写真=矢島泰輔(雑誌『経済界』2023年10月号 第2特集「疾走するベンチャーキャピタル」より)

久村俊幸 産業革新投資機構取締役CIOのプロフィール

VC 産業革新投資機構 久村俊幸 取締役CIO
産業革新投資機構 久村俊幸 取締役CIO
くむら・としゆき──1960年9月生まれ。東京大学経済学部卒業後、83年東京海上火災保険株式会社(現・東京海上日動火災保険株式会社)入社、投資部運用開発グループや東京海上アセットマネジメント株式会社プライベート・エクイティ運用部長を経て2019年11月に産業革新投資機構入社、執行役員を経て、同年12月より現職。

―― 国内に留まらず、海外VCにも積極的なLP出資をされています。

久村 日本のマーケットを熟知している国内VCがより発展し、投資成果を上げていくのがベストであることには変わりません。ただ国内のスタートアップエコシステムはグローバル市場、資本へのアクセスが弱い。当社はLP投資家という立場で、この課題に取り組むために、海外VCに投資しています。例えば、シンガポールのバーテックス・ベンチャーズや米国のニュー・エンタープライズ・アソシエイツ等にLP出資しています。彼らが日本のスタートアップにすぐに投資してくれるわけではなくとも、日本のVCやスタートアップとの関係構築をより活発にすることを出資条件にし、海外との接触点を増やすことを目指しています。

―― 2027年にはスタートアップへの年間投資額を10兆円にするという政府の目標は現実的ですか。

久村 これは国内のVCファンドだけでは到達しません。10年前に今の日本と同じ環境であった欧州を調べてみました。欧州スタートアップの資金調達額は12年には9・4Bドル(約1兆3千億円)だったのが10年後の22年には約10倍の101・6Bドル(約14兆円)を達成しています。一方、域内のVCの募集額は年間5千億円から、約5倍の2兆5千億円程度にとどまりました。経過を見ると、まず欧州各国政府のスタートアップ支援策が始まり、10年のスポティファイ・テクノロジーのユニコーン化に続いて、15年ごろにかけて欧州ユニコーンによる大型資金調達があり、動きの速いグローバルなリスクキャピタルの流入が加速しました。ユニコーンの増加で域内のVCのリターンも改善され、VCへの資金流入も増えています。

 5年後に10兆円に到達するかどうかは別にして、日本も欧州同様に、まずはグローバル投資家が興味を持つような大型の資金調達を行うユニコーンの数を増やすことに市場参加者が注力することが重要です。

―― 国内向けにはディープテックを扱うVCへの出資が目立ちます。

久村 ディープテックやライフサイエンス分野は投資期間が長く、事業化までのリスクもあり民間資金が入りにくい。官民ファンドとしての「民業補完」という原則もあり、このような領域には積極的に出資しています。グローバル展開を視野に入れた日本の「勝ち筋」を考えると、知的財産権に守られたユニークな技術を持つディープテックやライフサイエンス分野に長期的な伸びしろがあります。